02
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あぁ、悪夢だ。悪夢で今までの事が全て夢であればいいのに。
昨日の私はどこかおかしかったに違いない。でなければあんな頭イカれた男に声なんて掛けなかった。だって私はどこまでも自分の人生の平穏を望んでいるから。あんな変態に構う暇があるなら合コンしてるしー。という、現実逃避をもうそろそろ止めて、現実に向き直れば、自ら進んで関わろうとは思えないヤンチャなお兄さん達、基ヤンキー。
私は学校が終わってすぐに直帰した。だって、変態男に捕まればまたセクハラされるに決まっている。しかもあの男は、私を妻だと言って聞かない。聞けよ!
そんなわけで、どんなわけだよとか野暮な事聞き返すなよ。女ってもんは、やらねばならぬ事があるのだー!
「な、なななななななんですか…」
心の中ではいつだって強気な小野木音でございます。
「だからよー、俺等金ねぇのよ。貸してくんねぇ?」
「僕ちゃん達今から、大事な用があるんだけどさー、財布落としちゃってー」
必至で探せ。死ぬ気で探せ。テメェの財布事情なんかこっちは知らないんだから、早くそこをどけよ。将来はどうせ、バーコードだろ!(頭的な意味で)
「え、で、でも…」
「でもじゃなくてさー、今からモンスター狩りに行くんだから金貸せって言ってんだよ」
それ、モンハンだろ!
家で大人しく仲間と一緒にモンハンしてやがれ!
「…わ、わかりました…」
スッと出した、財布から全財産である36円を出してヤンキーの内の一人の手に乗せ、ようとした所でヤンキーは横に吹っ飛んだ。反復横跳びでもしたのだろうか。
私の脳が考える事を辞めた。
「音!」
言わずもなが、昨日から無理矢理ではあるが私の彼氏というポジションになってしまった一夜が助けに入ってくれた。
「俺の音に触ろうなんて死にたいの?ねぇ。俺の音はね、繊細で傷付きやすいんだよ。それわかってて俺の音にナンパしたの?音が可愛いからって俺が居るのに、そんな事してただじゃおかないよ。音は俺の運命の女なんだから」
重たい重たい。
ヤンキー達の顔面からいつかの私のように血の気が凄まじい勢いで引いていってるから。なんでそんなに怖がっているかって、そりゃ「一夜だから」という理由しかわからなかった昨日の私は、今日の朝登校したらなんかもう噂になっていた。いらん情報ばかり与えてくるクラスメート曰く、「あの四篠一夜の彼女なんて死亡フラグ立ったね」かっこわらいが最後に付く。
なんでも一夜は、その少女マンガのような存在感故にファンクラブが立てられてはいるが、そのファンクラブが過激派らしい。「自分の身が可愛いなら別れた方がいい」と言われて、早速、嬉々として一夜に電話を掛けた。メールにしなかったのは単に一夜の痕跡を出来る限り残したくなかったのだが、出た一夜物凄く嬉しそうで結局別れ話にはならなかった。
そんな一夜の裏の噂は専ら不良絡みが多い。そうつまり、一夜が本当に少女マンガから出てきたかのように喧嘩が強かった。
「ぎゃあー!!!!」
「殺される――!!!」
ヤンキーの兄ちゃん達は、一夜が次に何を言うのかを待たずに逃げて行ってしまった。逃げるな、戦え!!!
「音、一人で帰っちゃダメじゃないか。音は可愛いんだから、あぁいうのにすぐに声掛けられるから目なんか離してられない」
「私、金強請られていただけだから、」
「音の体を金で買おうとしてたの!?」
「ちが」
「音の貧乳も、寸胴な体も俺の物なのに!」
「おい、遠回しにバカにしてるだろ、それ!!」
「あ、気付いたの?」
米神に青筋が浮かび上がるのが自分でもわかった。
一夜は右手で私の頭を撫でながら、左手で腰を撫でつつ抱きしめてくる。ささやかな抵抗として、一夜の胸をグーで殴りまくりがビクともしない。
あぁ、嫌だ。これをもし過激派に見られでもしたら、私は明日リンチに合う。あうあうあうあうあう…っ。とか思った矢先に、クラスメートの一人の過激派と目がバッチリあった。
明るい茶髪をこれでもか!っというぐらいにグルングルンに巻き、化粧も元の顔が分からないぐらいに盛りに盛っている。スカートだってパンツが見えるギリギリまで短くて、ブラウスのボタンも、角度によっては胸の谷間が見えるぐらいに開けている、そんなどこにでもいるケバいギャルは私と目があうなり睨んできた。殺気が溢れてるよ。
「一夜、離して。人が見てる!」
「見せつけてるんだよ。音は俺の物だって」
「んもぅー!一夜ったらー!とか言うと思ってんのか。そこいらの女と…って聞いてる?ちょっ…!!パンツの中に手を入れようとすんなっ!ここで盛るな変態!!」
ベッシベシと一夜を、力が思うように入らない手で叩きながら、もう一度ギャルを見る。鬼のような形相をしていた。
ぎゃあー!!!
「一夜一夜一夜一夜一夜一夜一夜一夜一夜一夜一夜一夜一夜!!!!!!!」
「そんなに名前を連呼されるとこの場でヤるよ?」
「ぎゃあぎゃあ!!!」
どこもかしこも敵ばかりではないか。私に誰か救いの手を出してください。私はその手を二度と離す事はないでしょう。
「い、一夜、お願いだから離して!」
「無理」
即答された。
この即答に死亡フラグが瞬殺フラグになってないかとても心配だ。ギャルを見れば、般若になっていた。「悪い子は居ねかー!」で有名なナマハゲもびっくりな進化だ。進化と言っていいのだろうか、どちらかと言うと、退化に近いかもしれない。
「わ、わかった。今日の晩御飯はアーンしてあげよう。それで手を打とうではないか!」
「膝枕」
「よ、よしドンと来い!」
ぎゃああ!!般若がこっち向って歩いてくるよー!
「お風呂も」
「よ、よしドンと来い!…え?」
今、一夜はなんと言った?なんと言って私は肯定したのだろうか。
一夜は私を離して、私の右手を左手に絡めて(いわゆる恋人繋ぎ)、グイグイ引っ張って歩き出す。一夜の一歩は大変大きい。なので私は引きずられていった。
え、これリアルドナドナ?子牛はもちろん私。いっやあー!!
たまたま過った、友人が大好きな男は「ナイスファイト!」と言わんばかりに右手の親指を力いっぱい突き立ててきた。絶対私と目があったからやったに違いない。そんな彼に私は力いっぱい叫んだ。
「タフマンは栄養ドリンクじゃないかー!!!」
バカ野郎!助けろー!!
この日の夜は、小野木家の晩御飯は一夜にアーンして食べさせてあげ、お風呂を一緒に入り、膝枕をしながら一夜の耳掃除をしていたら、お母さんが「音は、一夜君のお嫁さんになるんだから、今から練習してるのね!」と言ってきた。
ビックリして、一夜の耳の奥深くまで進んでしまった。「いたっ」と言った一夜に睨まれた。