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にーにーと鳴くペットの子猫を撫でながら、自分で自分の人生を悲観した。

この世に生まれてから、早16年。彼氏?何それ美味しいの?諭吉さんと関係ある?ないね。むしろデート代や貢物に金を使うわけだから、はっきり言って何が楽しいのかわからない。私は、結婚はぜひ晩婚がいいし、結婚するなら40歳以上年上のおじさ、金持ちのおじい様がいい。言ってる意味わかる?多額の遺産相続を狙ってるんです。再婚する気もないし、子どもも産む気もないからその遺産は私の物ってわけ。まぁ、おじい様の親族の方が黙ってないだろうけど、私が死ぬ頃には相続させないように、遺書で「財産の全てを世界の子ども達の為に募金」って書いてやるつもりである。

だから、学生時代を優等生の鑑と言われる為の努力は怠らなかった。無欠勤無遅刻は当然。服装も、髪型も校則通り。そもそも私の髪型はボブで前髪パッツン(切りすぎた…)だし、服装だって自分の太い足を隠す為に、スカートは折っていないのだ。狙ったわけでもないのに、完璧な優等生風女子の出来上がりだ。

ちなみに教師陣の評価は「お前は、見た目が優等生の鑑のような奴なのに、中身がクルッパーだよな」である。こんな酷評をしたのは担任である。いつか街中で豆腐の角に頭をぶつけて、豆腐塗れの頭で恥ずかしい思いをすればいい。

話は脱線したが、私の人生は、至ってシンプル。小学校で苛められ、中学校でも「ダサ子」と罵られ、高校に入ってから「ブス」と苛められてきた。ちなみに全てやり返した。靴箱から靴がなくなっていたら、主犯と思われる男子の靴をクラスの人気者である女子の靴とすり替え、ダサ子と言われた日には、体育のバレーで言った本人の顔面に思いっきりアタックしてやったり、ブスと言われた日には、学校で一番格好いい男子に、「あの子アンタの事好きらしいよ」と言って「は?冗談だろ」と失笑した。まさにその直後の事だった。

「俺は、アンタの事が好きなんだけど」

へ?

もちろん、もうダッシュで我が家に逃げ帰った。

告白もされた事もなければ、彼が好みそうな外見もしていないし、慎ましやかとまではいかないが、クルッパーなりに大人しく学校生活を送っていた。高校で出来た友人に自分の今までの人生を話したら、友人の事が大好きな男に「マジ、タフマン」って言われた。どういう事だ。調べたら栄養ドリンクの名前だった。マジ、どういう事だ。

「…人生で初告白が、学校一モテる男って…なんで…?」

とにかく不思議だった。

子猫を抱き上げて、自分の膝の上に乗せて、築67年のボロい家は縁側があるのでそちらに移動。

とにかく不思議だった(二回目)。あの男に告白された事もそうだが、我が家に帰ってきたら、あの男がママンと仲良くレッツクッキングしている。マジ、どういう事だ。我が家一体今、どうなっているんだ。

(おと)!縁側に行くなら襖ぐらい閉めてよ、寒いじゃない!」

「………お父さんにお母さんが浮気してるってチクってやる!!」

「どうぞ。音がいいなら、一夜(いちや)君をお父さんにするわよ!」

「やだ!!!!!!」

同級生のお父さんなんか死んでも嫌だ。誰が好き好んで、同級生のお父さんがほしいと思うのだろうか。冗談じゃない。

大人しく襖を閉めて、子猫のピカソを抱き上げる。名付け親はお父さんである。お父さん、ピカソが凄い画家である事を小学校の時の私の教科書を勝手に開いて勝手に感動していた。「お父さんの時はなぁ、なんかよくわからない水墨画だったんだぞ」と言って、その感動と勢いのまま貰い猫にピカソと名付けて可愛がっていた。

「音。中に入れよ」

「なんで君がここに居る」

「音の事が好きだと言っただろう」

幼い子どもに言い聞かせるように、男は言った。男、四篠(ししの) 一夜(いちや)は、モテ男である。

長い前髪をスタイリッシュに左に寄せ、栗色の艶やかな髪はふんわりと立たせているだけの、今時の髪型。でもドラマとかではあんまり見ない髪型だよね。で、目は大きくて二重で、睫バサバサで、お前はどこの少女マンガの世界から飛び出たイケメンだよと言いたくなる。何しろ、顔の造形が計算づくされている。絵に描いたような理想的な顔立ちだろう。そこには人の好みはあるが、100人に「これは美しいですか」とアンケート調査すれば、全員が「美しい」と答えるだろう。「好みの顔ではないが」という回答はまぁ、あるだろうが。

「音?」

「ねぇ、なんで私の家に居るの?」

「え?音は俺の妻だろう」

何を至極当然の事を。と言いたげなこの男は、私を「寒いね」と言いながら後ろから抱き締めてきやがりました。手をおっぱいの上に置かないでください。セクハラで訴えるぞ。更に、男の足の上に座らせられ、ピカソを私から取り上げ、あろう事か居間の方にペイッと放り投げた。あ、私の猫カイロ…じゃない、ピカソー!!

「俺以外の男を膝の上に乗せるなんてどういう事」

余談だが、ピカソはオスである。

「男を膝の上に乗せる趣味はない!」

後、太腿を撫でるな!

「今度、こんな事したら犯すから」

「………っ!!?」

コイツ、もしかして、巷で流行っているや、や、ヤキモチ…?あ、あのツンデレがヤキモチ妬くととっても可愛く思える伝家の宝刀?を、この男がやる事によってなぜこんなにも恐怖心が沸くのだろうか。誰かこれ、貰っていって。これ、私は手が付けられない。返品が出来るなら返品させていただこう。熨斗付けてもいい。意味分かんない祝い金も無駄に付けてやる!

「音の太腿は柔らかいね」

「放せ――――!!!」

ふにふにと遠慮なく太腿を揉んでくる男の手をベシンとまるでゴキブリを潰すかのような華麗な速さで叩く。

「こら」

なぜかギュウと抱きしめられた。

「全く、音は本当に可愛いな。俺と音が出逢ったのは」

なんか知らないけど、語りだした男から逃げようと必至で抵抗していたが、耳元で「明日はベッドから離れられないかもね」と言って、ニタリと笑った。恐怖で体が固まった。

「入学式の代表挨拶で、檀上に上がった時に、たまたま視線を上げた先に居たのが音だった。最初は、『なんだあのブス。なんで寝てやがんだ。俺がこんなくそ面倒臭い事してる時にんなアホ面かまして寝てるなんて許さねぇ。絞める』って思ってた」

私、何気に命の危機だったのか。顔から血の気がズゾーッと凄まじい勢いで引いていく。悪寒が治まらない。

「いつ絞めてやろうかと思って、ずっとタイミングを伺ってた」

(怖いっ…!!)

「音は、変な子だった。なんていうか、見てて飽きなかったよ。バナナの皮で転んぶし、階段をまるで滑り台で滑り落ちるように、滑り降りてる所なんか爆笑物だった」

最低だ。なんで、階段で滑り落ちてる所を爆笑してるんだこの男は!普通に助けろ!

「…だから、そんなコメディ性溢れる音の周りには、男が居るのは当たり前なんだけどさ、その男が音に気がないのはわかるよ。音は人としてなら人気だろうけど、女の子としては不人気だものね?」

なんでそんな、人が気にしてる事をアッサリ言うかな。最悪だ。私が泣いてコイツが責められても当然だと思うのに、周りはきっと私が一方的に悪者にするのだろう。

「だけどさ、男が音に近付くとこを見て、それで俺は黙っていられなかった。気付いた時には音に近くに居る男に嫉妬してた。俺が音の事が好きだって気付いたのもその頃だけど、気付いたら気付いたで、今度はどうしていいかわかんなくて悩んでる時に、音から俺のとこにやってきた」

今日の私、なんて事してくれたんだ。

心なしか、私の太腿をニギニギと揉んでいる手に力が徐々に入ってきているようなそんな気がしてならない。

「音が俺に、女を勧めてきたのが物凄く腹立たしかった。俺はこんなに音で悩んでるのに、音はこんなに暢気で、だから思わず告白してた」

あ、あぁー。悪寒が徐々に強くなってきた。これ以上、この男の口から出る言葉全てを拒絶したくてしょうがない。

「音の事が大好きだよ。こんなに人を好きになった事なんてないんだ。だから、音の返事は聞かない。どうせ、俺は俺自身を止める事なんて放棄してるんだ。それならいっそ、音を自分の物にしてしまえばいい。音の世界が俺だけになるようにしようって決めたんだ。今日の帰り道に」

早っ…!!決断早っ…!!

なんでそんな軽く、いや本人は重いのかもしれないが、いや、言っている事は超ど級に重いが、力士の体重なんてなんのその!って感じに重いけど、なんでそんなに私に執着出来るのかはわからない。

確かに、好みのタイプと、実際に付き合う人のタイプはイコールではない事が多い。多くはノットイコールだ。

「音だけは逃がさないよ。散々悩ませておいて逃げるなんて許さないから」

「嫌だ――――!!!!!」

それから、お母さんに「近所迷惑!」と、私よりも大きな声で叫んで、近所の人達から「またやってるなー」と微笑まれたのは、全く知らない事実である。


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