episode2 優 〜桜庭くんの人気ぶり〜
……。桜庭くん?って、私のとなりの席だったんだ。
私は、そうなんだー、と思って、麗奈に話しかけようとした。けど、やめた。
だって、麗奈、完全に目がハートになってる。あ、麗奈だけじゃないか。
このクラスにいる女子、全ての人が、桜庭くんを見つめている。
教室中が静かで、なんの関係もない男子までもが、ただごとではない雰囲気を感じて、しゃべるのをやめていた。
「…どうしたの? なんかこのクラス静かじゃん。みんなもっとしゃべろーよ。仲良くしよーぜ?」
静寂を破ったのは、この静けさのもとの、桜庭くんだった。
みんなが桜庭くんのことを見ている。でも、桜庭くんは、あんまり気にしていなくて、近くにいた男子に話しかけていた。
そのあと、男子たちが次第にしゃべりだし、教室はもとのにぎやかさになった。
女子たちは、もう桜庭くんの話しかしていないんだけど。
にしても、なんかすごいな、桜庭くん。みんなが桜庭くんの言うこと聞いてるし。
「いーなー、優は。桜庭くんのとなりの席なんて。うらやましすぎるよ~」
ちなみに麗奈は、さっきっからこの言葉しか言っていない。
「それ言うの、14回目。別にとなりだから何? それに、私は全然興味ないから。桜庭くんに」
私がこのセリフを言うのも、14回目。
たしかに、かっこいい…だろうけど、それだけで、何の感情も浮かんでこない。別に、普通の男子と変わんないじゃん。
「そりゃ、優は興味ないかもだけど。でもうらやましいんだよ~っ」
はぁ…。もう手がつけられないや。ほっとこ…。
私は横目で、となりの桜庭くんを見てみた。
もうすでに、男子の中心の中に入っている。やっぱり男子も、桜庭くんのこと知ってたのかな? 私本当に知らなかったんだけど…。
なんてことを考えていたら、なんかみんなが席につき始めた。
「優! 何ぼーっとしてんの! チャイムなったよ」
「え、あ、うん。ごめん」
麗奈に言われてハッとした。まったく、私ってば、なにやってんだか。
あ、てか、席に戻るってことは、桜庭くんのとなりに座るってことなんだよね。麗奈がさんざんうらやましがってたけど。あ、ちがった。たぶん、私以外の女子全員もか。
にしても、私はどうしたらいいのかな? 別に普通にしてればいいん…だよね。
そんなことを考えていたら、急にとなりから声がした。
「ねぇねぇ」
と。
…桜庭くん、だった。