episode9 優 〜移動教室!?〜
「えーっと、1年4組担任の、谷山 将生ですー。まあ、よろしく」
今日、初めて担任の先生がしゃべった。
「いやー、さっきもちゃんと教室来てたんだけどさー。みんなが楽しそうだったから、まあほっといたわけ。でもー、今日どーしても決めなきゃいけないことが一つだけあってさ…。さっさとそれ、決めちゃおーと思いますー」
な、何かずいぶん適当な先生だな…。まあ、怖い人より全然いいけど。
「ま、もうみんな知ってるかもなんだけどー、再来週から、1年生は、移動教室として、京都に行きますー」
やったら「ー」が多いな…。って、そこじゃなくて、京都!? って、何?
「でー、その班を決めたいんだけどー。…名前順でいーでしょー? とにかく時間がないからさ。早くしないと入学式始まっちゃうんだよねー」
そんな理由で…?
「じゃあ、ちょっと自分の班確認してー」
谷山先生…が、すでに用意してあった、班分けのプリントを配る。
「おお。優と一緒だ」
隣で佑くんがそうつぶやいていた。確かにプリントを見ると、佑くんと私は一緒の班だ。
「そうだね。まあ、近いからね、名前順。移動教室でもよろしくね!」
私はそう言って、佑くんの方を向いて少し笑ってみた。
「おう!!」
佑くんもこっちを見て、笑ってくれた。
「はいー、みんなちょっと静かにー」
ザワザワしてきた中で、先生が少し大きな声を出す。でも、あいかわらず「ー」は多いんだな…。
「それで、係も決めなくちゃいけないんだけどー、めんどくさいから、こっちで決めちゃいまーす」
何という先生だ、一体!?
私は何か不安になって、なぜだか佑くんの方を向いてしまった。
佑くんは、ん?って顔をしてこっちを向いた。
「あ、いや…。何の係があんのかなーって思ってさ。まあ、佑くんが知ってるわけないよね」
あはは、と笑ってごまかす。完全に苦笑いだったと思う、今の顔…。
「まあ、班長とか、副班長とかは絶対いるよなー」
けっこう本気に答えてくれる佑くん。入浴とか? 食事とか? と、ずっとブツブツ言っている。
「はーい、発表します。今、机を班の形にしたときに、一番前に座ってる男女ー。その二人のどっちかが班長で、もう一人が副班長ねー。次ー、二列目のひとはー…」
私の班の一番前って…。私と佑くん、だよね。 うわー、班長とか、絶対イヤだな…。みんなをまとめるとか、無理だし。何より、仕事絶対多いし。どーしよー。
「…あのさ、おれ班長でもいいよ?」
「え?」
おもわず聞き返してしまった。だって、普通は自分からやりたいなんて言わないよ?
「本気にいいの?」
「うん。なんか、優すごくやりたくなさそうだし。おれ、昔からこの手の係はしょっちゅうやらされてたから、慣れてるんだ。だから気にしないで、副班長やれよ」
「…ありがとう」
ヤバイ。佑くん、いい人すぎる…。今本気で佑くんがいてよかったって思ったよ。
「あ、でも、副班長として、ちゃんと班長を手伝っていう仕事はしてもらうからね」
「何それー? 副班長っていったら、何もやることなくて、一番楽な係の代名詞だよ?」
あ、おもわず本音が…。班長やってくれたのに、ひどいこと言っちゃったかな。
「何だよそれ。何かウケる」
予想外の大笑い。でも、私もつられて笑ってしまった。
「じゃあ、とりあえず班の形にしてくださーい。とりあえず、その中で自己紹介でもして、仲良くなってねー」
仲良くなってねーって…。何もすることなかったのか?
そして初日には定番の、自己紹介が始まった。