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私がデモ活動を続けた理由

作者: 野中 すず
掲載日:2026/05/17



 ……えっと、「なんで私がデモ活動を続けたか?」でしたよね。

 ほら、うちの早見(はやみ)市長ってネットで叩かれてたでしょう? YouTubeでもなんかたくさん動画上がっていて。

 なんか「パワハラした」とか「セクハラした」とか「公用車でパチンコ行った」とか……、でしたっけ? すみません。正直言ってあまり覚えてないんです。ただ、あの頃は「こんな人が自分が住んでいるとこの市長なんて許せない」って思ってました。

 はい、「義憤」ってヤツですね。まあ、「義憤」って言葉も大山さんに教えてもらったんですけど。

「あなたのその気持ちは『義憤』って言うの。とても大切な気持ちよ」って。

 そうです。大山さんが私たちの活動のリーダーでした。本人から聞いた訳じゃないですけど、多分四十代だと思います。私と大して変わらないと思ってたんです。

 大山さんと初めて会ったのは……、二ヶ月くらい前です。

 今、思い出すと恥ずかしいんですけど、その頃の私は早見市長を誹謗中傷する動画やSNSサイトのコメントを見て怒っている自分を正義の味方みたいに感じて、酔ってたんです。だから市長を擁護するような動画やコメントは目を逸らしてました。「この人たちは騙されている」と決めつけてたんです。

 ……ええっと、そう大山さんと会ったときの話でしたね。SNSで大山さんのことは知りました。私の言いたいこととかをバンバン言ってたので、すっかりファンみたいになってたんです。

 コメント送るとすぐに返事くれて……。「私なんか相手にしないだろう」と思ってたのでそれはもう……、舞い上がってしまいました。

 それから話は怖いくらい順調に進んで、直接会うことになったんです。

 約束の日に指定された喫茶店に行くと、さっきも言いましたけど多分四十代の女性がテーブル席にいました。

 はい、そうです。大山さんでした。少し驚いたのはもう一人いたんです。大山さんの隣に若い女性が。佐藤さんという方でした。

 それから喫茶店で二時間くらい話をしました。とは言え、ずっと大山さんが「あの市長は辞めさせないといけない」とか「あんなのが市長だと住んでいる私たちまでおかしいと思われる」とか自分の考えを言ってただけでした。佐藤さんはほとんど何も話しませんでした。

 ……でも、ですね、なんか伝わってくるんですよ。大山さんが佐藤さんをものすごく信頼してるのが。私に話しながらも「だよね?」とか「ねっ!」とか何回も佐藤さんに確認してました。

 私は多分、そのときの大山さんの話を半分も理解出来てなかったと思います。結局、私は「正義の味方みたいな自分に酔ってた」だけで「議会」「任期」「解散」とか言われても全然分からなかったんです。本当に「自分が住んでいるとこを良くしたい」なら、そのシステムの勉強をするべきでした。

 その話の流れで誘われたんです。「また早見が当選したりしないようにデモ行進をするから参加してみない?」って。

 はい、そうです。あの動画観たんですよね? あれです。あの動画じゃ分かりにくいですが、実は五十人くらいいたんですよ、参加者。

 みんなで「早見落ちろ」「早見やめろ」ってコールして、笛吹いて、太鼓叩いて……。

 実は最初、参加したのを後悔してました。明らかに「おかしな人を見る目」で他の歩行者とかから見られてるのが分かりましたから。ニヤニヤしながらスマホ向けてくる人もたくさんいました。

 私は恥ずかしくなって声も出せないで、他の参加者に隠れるように縮こまっていたんです。

 そのときでした。大山さんが駆け寄って来て、言ったんです。はっきり覚えています。

「楽しみましょう! ここは私たちのステージよ!」と大きな声で言われました。

 ……ええ、もちろん今は分かりますよ。おかしいですよね。

 でも、私にはこの言葉がすごく響いたんです。顔を上げて、他の参加者たちを見ました。そしたらみんな、すごくイキイキしてて。充実した顔してて。

 今度は縮こまっていた自分が恥ずかしくなってしまいました。「みんな、こんなに頑張っているのに私は何してんだ」って思ったんです。

 私は喉を枯らしてコールを叫び続けました。もう無我夢中でした。

 たしかその日のデモ行進は一時間くらいだったと思います。

 解散するとき、大山さんに呼ばれました。「よく頑張ったね。立派だったよ」って言われて、私は泣き崩れました。職場でも家庭でも全然褒められることなんか無かったので救われた気がしました。

 ……ええ、これもおかしいですよね。他人から見たら「なんの為に活動してんの?」って話ですよね。

 とにかくそれからは、「どっぷり」でした。

 デモには絶対参加したし、それまでは「読むだけ」だった誹謗中傷コメントも書き込んだりしてました。

 はい、そうです。市長選が終わるまでです。もちろん私は早見さんには投票しませんでした。当たり前ですよね。

 選挙結果はご存知の通り、早見さんは落選しました。それを速報で知ったとき、私は嬉しくて嬉しくて。

「私たちの勝利だ!」とか本気で思ってましたからね。

 すぐに大山さんに電話しました。一緒に喜びを分かち合いたかったんです。また褒めてもらえるとも思ってました。

 ……でも、電話に出た大山さんはものすごく不機嫌だったんです。私には不思議だったし、理不尽に感じました。「そんなことで電話しないで」みたいな感じだったんです。なんでみんなで頑張って勝利を得たのにそんなつまらなそうにしてるのか、分かりませんでした。二、三分で話を切り上げられて終わりました。私はあまりのショックに、しばらくスマホを持ったまま動けなかったです。

 ずっとモヤモヤしてたんですけど、次の日知らない番号から電話がありました。佐藤さんでした。初めて会った喫茶店に呼び出されたんです。

 慌ててその喫茶店へ向かいました。なんとなくですが、佐藤さんは私が納得出来る説明をしてくれる気がしたんです。

 喫茶店に着くと佐藤さんは既に来てて、あの日と同じ席に座ってました。佐藤さんは、私が席に座るといきなり訊いてきたんです。「あなた、誰に投票した?」って。私は正直に「●●さんに投票しました」と答えました。

 それを聞いた佐藤さんはまた質問してきました。「大山は誰に投票したと思う?」という質問でした。

 私は驚きました。質問の内容もですが、佐藤さんが大山さんを呼び捨てにするなんて信じられなくて。

 私が何も言えないでいると佐藤さんは「十中八九、大山は早見に投票した」と言ったんです。私は訳が分からなくて混乱してました。だってそうでしょう? 私たちは早見さんが再選しないように頑張っていたんだから。

 私はなんとか一言だけ、佐藤さんに訊けたんです。「なんでですか?」とだけです。それだけで全部佐藤さんには伝わりました。

 佐藤さんの答えは恐ろしいものでした。

「だって、落選したら叩く相手をまた探さなきゃならなくなるでしょ? 大山の言葉で例えるなら『ステージ』をまた組み立てなきゃならなくなるの。ステージが欲しいのよ。大山は。自分が注目を集められる……、集めていると勘違いしてるステージが」

 ……こんなのってあります? ひどい話ですよね。完全に駒扱いされてたんだと思いました。自分の馬鹿さ加減にもうんざりしました。

 私は店を出ようと席を立ちました。でも一つだけ気になって佐藤さんに訊いたんです。「そこまで分かってて、なんであの人と一緒に活動してるの?」って。本当に私は分からなかったんです。

 佐藤さんは笑顔で答えました。あの人の笑顔を見たのはあれが最初で最後です。

「ああいう馬鹿にちょっと入れ知恵をして、中途半端な知識と知恵で万能感を持たせるのがホントに面白いの。哀れすぎて笑えるの」

 私はゾッとしました。「関わっちゃ駄目な人たちだったんだな」と感じました。

 佐藤さんは「ついでに教えてあげる」と笑顔のまま、話を続けました。

「大山は明日、東京に行く。国会議事堂前でデモ集会があるのを教えてあげたらすごく喜んでた。救いようがない馬鹿でしょ?」って言ったんです。


 ええ、これが佐藤さんとの最後の会話です。大山さんともあの日の電話以来、関わってないです。

 …………多分、別の「ステージ」見つけて楽しくやってるんじゃないですかね。




     (取材・文 長田 佳代子)

 


 最後までお付き合いくださりありがとうございます。

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 よろしくお願いします。


 ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
義憤を利用したり正義だと思い込んで公の人を叩く行為って、なんとなく新興宗教に似てるなって思っていたんですが拝読して改めて感じました。 『ステージ』……ってなりましたが、今までの人生振り返ったらずっとス…
やっと読みに来られました。面白かったです!
さもありなん話!(*^▽^*)
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