1-6 わがままをやめます
ガチャン。
「シャルロットお嬢様、申し訳ございませんでした。」
メイドのナナが血の気のない顔をして頭を下げて動かない。
紅茶を出す時にカップを誤って落としてしまったのだ。
落ち着いて。優しく笑顔で。
「ナナ、やけどはしなかった?怪我をしないように気をつけてね。」
そんな声をかけると、ナナは驚きで目を丸くして口をぽかんと開けた。
きっと、前の私では、怒鳴ったり簡単にメイドを辞めさせたりしていたのだろう。あまりのわがままに、屋敷全体のメイドはいるが、私付きの侍女はいない。今まで失敗するとすぐに辞めさせたり、怒ってばかりいるため希望する人がいなかった。
このままではいけない。
優しい言葉をかけても今までが今までなのだから、なかなか信頼してもらえない。そこで、私は、まずはメイドを集めてもらった。
「私これまで本当にわがままだった。今までのこと、本当にごめんなさい。怪我をしてみんなに優しくしてもらって、気が付いたの。これからは、わがままを言わないわ。急には信じてもらえないと思うので、これからは態度で表すわ。気が付いたことがあったら遠慮なく言って。絶対に怒らないから。これからもよろしくね。」
みんな、無言で驚いている。
「それから、これからはアリサに侍女として私についてほしいんだけどどうかしら?」
「ここ数日、シャルロットお嬢様に付いていましたが、確かに以前とは違った行動が見られます。試用期間ということでも構いませんか。」
真顔で答えるアリサ。
「うれしいわ。いい主となるように努めます。よろしくね。」
こうして、わがままをやめる宣言をみんなに聞いてもらった。あとは、行動あるのみ。最初は恐る恐る近づいていたメイドたちとも、失敗しても怒らなかったり、名前を呼んで挨拶をしたりしているうちに少しずつ打ち解けていった。普通はメイドには謝ることをしない貴族の令嬢が謝ったことで信用してみようという気持ちになったのかもしれない。
「メル、あなたの入れた紅茶、香りがよくてとてもおいしいわ。いつもありがとう。」
「シャルロットお嬢様。」
次第に侍女やメイドとの会話も自然とできるようになって、時には笑顔も見られるようになった。そうすると、少しずつ屋敷の使用人にもその意識が広がっていった。
「今日のサラダは新鮮な野菜が甘くておいしいわね。」
「今日のシチューは季節の野菜がたくさん入っていて大好き。料理長にもおいしいって伝えてもらえる。」
「今日お部屋にお花を飾ってくれたのはミーシャね。とてもきれいよ。ありがとう。」
私の心からの言葉が使用人にきちんと伝わる。そうしたことで、使用人からもうれしい言葉が増えていく。
「今日は、お嬢様の大好きなメニューだそうですよ。デザートのおまけつきだって料理長からです。」
「庭師のトムじいさんから今日はマーガレットが綺麗に咲いたといただきました。早速飾りますね。」
私のわがままをやめる宣言によって、どうにか屋敷のみんなとの信頼を取り戻し始めた。あんな未来は絶対に嫌。これからも味方を作るために続けなくちゃ。
ところで気になるのが、突然のお見舞い以来、毎日届く王太子からの花束。それに毎日違う種類の花なんて。おまけに私を気づかう一言が書かれたカード。
はっきり言って怖すぎる。まるで見張られているよう。嫌われてもかまわない。常識がないと呆れられて婚約解消されたら万々歳。そうだ。そっとしとこう。触らぬ神に祟りなし。
それよりも次は、お父様とお母様よ。
断罪フラグをへし折るためにも頑張るわ。




