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第7話 絶望の淵に現れた異界からの三つの光

更新は、1日1回となります。引き続き、ご一読お願いします。



「……さつき……?」


 紫乃の声が、震えた。視界が、血の赤に染まっていく。


「さつき……っ、冴月ッ!!」


 絶叫が、空間を裂いた。


 その声に、斗花が顔を上げ、うたたが、崩れた身体を無理やり起こし、夜々が、震える手で鞭を握り直す。


「……ふざけんな……!」


 斗花の拳が、地面を砕いた。


「冴月に、何してくれてんだよ……!」


「……許さない……」


 うたたの瞳に、涙と怒りの魔力が灯る。


「……任務、完遂まで。排除対象、再設定」


 夜々の声が、低く、冷たく響いた。


 五星姫の怒りが、爆発する。空間が、再び燃え上がる。


 その中心で、冴月は膝をついていた。血は、止まらなく視界が、霞んでいく。


「……うたた……無事で……よかった……」


 その声は、かすれていた。それでも、確かに届いた。


「……みんな……頼んだ……」


 冴月の瞳が、ゆっくりと閉じていく。その背に、仲間たちの怒りと燃える気力が重なっていた。



【コメント欄】


(……沈黙)


(誰も、言葉を打てない)


(ただ、画面を見つめている)


(血に染まった冴月の姿を)


(立ち上がる五星姫の背中を)


(そして、再び笑うそれの気配を)


『……うそだろ……』

『なんで……なんでこんな……』

『冴月さん……死なないよね……?』

『紫乃様、泣いてた……』

『五星姫、もう限界だよ……』

『お願い、これ以上は……』

『誰か……誰か助けて……』

『お願い誰か、誰でもいいから助けて!』

『なんでもします。だから五星姫を無事に地上に導いて……』

『#祈り #五星姫を救って』


 五星姫は、立っていた。いや、立たされていた。ただ、怒りと使命感だけが、彼女たちの身体を無理やり支えていた。


 けれども、そこに希望は、既になかった。


 冴月は倒れ、紫乃は唇をきつく結び、斗花の拳は震え、うたたの魔力は枯れ、夜々の瞳からは、光が消えかけていた。


〈……もっともっと、あそぼう〉


 カリギュラの声が、空間を満たす。それは、終わらない地獄の宣告だった。



【コメント欄】


(……沈黙)


(誰もが、言葉を失っていた)


 一方で同時接続数は、止まらなかった。


 一千五百万、一千七百万、 そして、サーバーが限界を迎える寸前の二千万に迫ろうとしていた。


 それでも、誰も離れなかった。


 この世界の視聴者のほとんどが女性。彼女たちは、ただ奇跡が起こることを祈っていた。


『お願い……』

『立って……お願い……』

『五星姫を……守って……』

『冴月さん……死なないで……』

『神様……誰でもいい……』

『どうか……どうか……』

『この人たちを……助けて……』


 その幾千、幾万もの祈りが、届いたのか。


 地下十八階、ボス部屋の奥。


 本来なら閉ざされているはずの、十九階へ降りるための階段が設置された小部屋の扉。


 ギィイーン


 それが、軋む音をたてて開き、そこから光が差し込んだ。


 そこから現れたのは、三つの影。


 先頭に立つのは、全身を銀鉄の鎧で覆った無言の騎士。フルフェイスの兜により、その表情はおろか、風貌すら一切うかがい知れなかった。しかし、ただ歩む、その一歩の動作だけで、この者が底知れぬ実力の主であることは、誰の目にも明らかだった。


 その力は、幾多の修羅場を潜り抜けた者だけが身につけた、沈黙の威圧。


 すぐ後ろを歩くのは、黒銀のローブに身を包み、顔を深くフードで覆った影。その姿は、まるで光を拒む夜そのもののようで、衣の裾からは、星座のような光が、静かに、淡く揺れていた。


 その身に帯びた魔力は、奔流のごとく空間を揺らめかせ、そこに在るだけで、周囲の空気を異質なものへと変えていた。


 瀕死のうたたが、その姿を目にした瞬間、びくりと身体を跳ねさせた。それは……カリギュラにさえも感じたことのない、圧倒的な魔力の波が、まるで見えない嵐のように、彼女の魔術師としての本能を震わせたのだ。


 最後に現れたのは、無言のまま歩を進める、小柄な影。黒革のコートに身を包み、深く被ったフードの奥は闇に沈み、 その表情はおろか、人か魔かすら判別できなかった。


 その足取りは、異様なまでに静かで、正確だった。一切の無駄がなく、空気の流れすら乱さぬような歩法。まるで毒を運ぶ風のように、気配を殺しながらも確実に場を支配していた。


 その気配に、夜々が反応した。くノ一として、幾多の死地を潜り抜けてきた彼女の本能が、この影を敵に回してはならない存在と即座に断じたのだ。


 魔でもなく、神でもなく、ただ、静かに死と生を秤にかける者。彼の歩みは、誰にも気づかれず、誰にも止められない。それでも確かに、命の境界を越えてくる。


 その存在は、言葉ではなく、沈黙で語っていた。この命、価値あるものに変えられるのかと。


 三人は、この世界の誰とも異なる気配を漂わせていた。魔力の波長がそもそも、まるで異なる。


 それもそのはず、彼らは、女性に免疫など、あるはずもない男女比1000対1の異世界から罠にはまって転移してきたばかりの『女神の歯車』と呼ばれる冒険者たち。


 その世界は複数の女王国家に分かれており、すべての国が女王を頂点とする絶対的な女系社会。男は歯車として、労働、戦争、迷宮攻略などの危険な実務を担うための存在。


 選ばれし女性「召魂の巫女」が神殿で行う『召魂儀』によって、男は一度に数百人単位で産まれるのではなく、生まれる。そのため彼らは母という存在を知らずに育つ。巫女は国家により厳重に管理され、政治的、宗教的に最も重要な存在。


 生まれた男児は『歯車』と呼ばれ、十五の成人を迎えるまで番号で管理される。そして晴れて成人した証として『女神の歯車』を名乗れる。また巫女の血統や精神状態によって、召喚される男児の適性が、戦士型、魔術型、探索型などに別れる。


 各国にはそれぞれ迷宮ラビリンスが存在し、地下深くに進むほど希少資源、魔力結晶、古代技術が眠っている。女王たちは迷宮の踏破階数を競い合い、他国より深く潜ることで国威と神の加護を得ると信じられている。


 国によって「迷宮攻略庁」や「王立探索団」などの機関を持ち、男児を訓練して冒険者に育てる。冒険者は階級制で、上位ランクの者は女王の騎士団に編入される名誉がある。ただし、冒険者の死亡率は極めて高く、使い捨てのように扱われることも。この世界の冒険者は、このアース・リバースの女性冒険者のS級がこの世界ではD級に該当する。それほど魔物も迷宮の罠もとんでもなく過酷。C級冒険者になれば、ソロで属性ドラゴンを余裕で倒せるレベル。ただしC級まで生き残れる男は全体の二割を切ってはいるが。


 女は「神の意志を継ぐ者」、男は「神の道具」とされ、男は姓を持たず、財産権もなく、教育も必要最低限。女は政治、学問、魔術、軍事のすべてを担い、男性はそれを支える存在。ただし、迷宮で特異な成果を上げた男性は「名誉歯車」として一時的に地位を得ることもある。


 そうして選ばれし、英雄中の英雄であるカースト最上位の男性と結ばれることで、女性は妊娠し、百%の確率で女児が産まれる。もちろん、一妻多夫の完全女性天下。


 迷宮は女神が遺した試練とされ、踏破することで神託や新たな召魂術の秘儀が得られる。迷宮のどこかには、女神が眠っていると噂されており、それに遭遇できることが、冒険者の最大の願いではあるが、女性に免疫のない彼らが、美の化身と噂される女神とまともに会話できるとは思えない。


 そんな事情を、抱えて急に現れた三人を、この場にいる誰も、もちろんこの世界の怪異であるカリギュラでさえも知るはずもなかった。



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