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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第二章 インクライン編

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第70話 その願いは、禁忌の果てに咲く



 謎多き高難易度ダンジョン、ミラーパレス地下十五階……ユグドラシルを有する森林エリア。


 それは鏡宮財閥が築き上げた、一族以外には触れられぬ王国。


 とはいえ、その王国は、ただの幻想ではない。鏡宮財閥が、その莫大な資金力と政治的影響力をもって、かつて手に入れた神木の苗……世界樹と呼ばれる、古代より伝わる神性を宿す樹が始まり。


 それが、この十五階の中心に根を張っている。そして、この神木の存在こそが、鏡宮家三代にわたる禁忌の起点だった。


 最初にそれを手にしたのは、美麗の祖母。


 彼女は、かつて人類史上でも稀にみる異能の持ち主と称された存在だった。その手にしたスキルと、当時の最先端バイオテクノロジーを融合させることで、後に白蛇紋システムと呼ばれる……命を模倣し、制御する技術の礎を築き上げた。


 その意志を継いだのが、美麗の母。


 彼女は、神木の霊力を利用し、より深く、より精密な融合技術を確立。人と魔力、霊魂と遺伝子、そして存在する意味すらも再構築する、倫理の彼方にある研究を、十五階の地で密かに進めていた。


 三代にわたる鏡宮の罪と誇りが根を張り、芽吹き、咲き誇った、世界の理を裏から支配するための、禁忌の箱庭となった。


 地下十五階に根ずくユグドラシル。鏡宮一族が築き上げた、誰にも触れられぬ王国の唯一無二の象徴。


 世界樹と呼ばれるその神木は、古代より命の循環を司る存在とされ、その根は、十五階の大地を貫き、今も静かに脈動を続けている。


 そして、美麗はその全てを受け継ぎ、完成させた。十五階は、ただの研究施設ではない。それは、鏡宮家の悲願を叶えるための、祈りの器だった。


 その悲願とは、かつて漢とよばれた逞しく生命力にあふれた男達の復活。


 五十年前、ダンジョンの発生とともに、世界は変わった。魔石という新たなエネルギーを得た代償に、男は生まれ難くなった。


 最初は偶然とされた異変も、やがて確信へと変わる。魔石が世界を動かす代わりに、命の均衡を奪ったのだと。


 男は、もはや存在するだけで奇跡とされる時代。癒しの力を持つが、儚く、脆く、数が極端に少ない。

 

 その希少性は、やがて神聖視され、保護され、隔離され、人類の未来は、人工授精と管理された繁殖に委ねられていった。


 鏡宮家は、それをよしとしなかった。


 彼女たちは知っていた。かつて、世界には男と女が、等しく在ったことを。

 

 当たり前のように隣にいて、声を上げ、共に生き、共に笑いあって、人生を付き添って過ごした漢たちの存在を。


 それを取り戻すこと。それが、鏡宮の三代にわたる研究の、真の目的だった。


 たとえそれが、神の領域に踏み込むことであっても。


 たとえそれが、世界に背を向ける行為であっても。


 たとえそれが、禁忌と呼ばれようとも。


 鏡宮の女性たちは、迷うことはなかった。この王国は、ただの力の象徴ではない。それは、かつての人類のかたちを取り戻すための、最後の希望だった。


 それが、パンドラの箱を開ける行為だったとしても。


 鏡宮の悲願を叶えるために、十五階では数えきれぬほどの禁断の実験が繰り返されてきた。


 その中でも、最も成果を上げたとされるのが……人と獣、あるいは人と魔物の融合による、新たな生命体の創造だった。


 逞しく、しなやかで、魔力に満ち、生命力にあふれた存在。


 それは、かつての漢の姿を模した、理想の再構築。


 鏡宮一族は、白蛇紋システムを用い、神木の霊力を媒介に、人の遺伝子と、世界各国のダンジョンから密かに捕らえてきた神獣、妖獣と呼ばれる魔物の霊核を掛け合わせるという、前人未到の融合実験に踏み切った。


 結果、女性型の融合体は、一定の成功をみせ、特に猫科との成功率は高く、実験の一画として、そのまま森林地帯に放たれた群れもあった。


 そして、その実験を繰り返すうちに、何体かの特殊なスキルを授かった特異個体たちは、人の理を保ったまま、獣を越えた魔物の力を宿すことに成功した。


 しかし……何度、実験を繰り返しても男性型だけは、決して人として生き残ることが出来なかった。


 何度試みても、結果は同じだった。


 融合された男の肉体は、やがて崩れ、あるいは、完全な魔物へと変貌してしまう。


 ゴブリン。コボルト。オーク。


 人の理を拒絶し、わずかな思考しか持たぬ魔物の姿へと堕ちていく。


 そこには、確かな世界の理があった。この世界において、男は癒しの器としてのみ存在を許され、それ以外の力を持とうとするたびに、世界そのものが拒絶する。


 まるで、ダンジョンが定めた法に逆らうことはできないとでも言うように。


 鏡宮美麗は、その理を知っていた。知ったうえで、なお抗おうとしていた。とはいえ、今のところ……その壁を越えられた者は、ひとりとして存在しない。


 白蛇紋システムをもってしても、神木の霊力をもってしても、男という存在に、獣の力を宿すことはできなかった。


 それは、鏡宮美麗にとっても、唯一にして最大の未踏領域となった。


 しかし、それ以外の成果は、あまりにも順調だった。鏡宮財閥は、白蛇紋システムと融合技術を武器に、瞬く間に世界のバイオテクノロジー分野を掌握し、今や九条財閥と並び称される、日本二大財閥の一角を占めるまでに成長していた。


 特に軍事力においては、クローン技術の確立と、神木由来の霊力融合による戦闘兵の量産により、他国が容易に干渉できぬ、異質にして圧倒的な戦力を有している。


 その深奥に潜むのが、彼女の影にして、絶対服従の兵たち……コード・ミラージュ。


 その存在を知る者は、国家の上層部ですらごくわずか。記録にも残らず、歴史の裏に沈められた彼女たちは、ただ美麗の命にのみ従い、世界の裏側で静かに動いていた。


 その兵士の最下層を担うのは、量産型の兵たち。


 コード・ミラーは、美麗の姿を模した鏡像。特別な力は持たずとも、その姿は象徴としての意味を持ち、戦場においては美麗の意志そのものとして機能する。


 そして、識別番号で管理されるコード・ラインたち。《ライン-08》《ライン-14》《ライン-22》……まるで工場のラインから流れ出た部品のように、均一で、無機質で、完璧。


 彼女たちは命令を疑わず、ただすべての原点にして頂点であるゼロこと鏡宮美麗と、特異個体たちの声だけに従う。


 その中でも異彩を放つのが、美麗の懐刀にして最上位の三柱。


 力のルーセント。透き通る薄金の髪と、淡く光を帯びた瞳。白蛇紋の力をその身に宿し、まるで光そのもののように、静かに敵を焼き尽くす。


 美麗から最初に生み出され、最も完成された光を帯びた影。


 技のレイン。漆黒の軍装に身を包み、無表情のまま部隊を統率する冷徹な指揮官。


 彼女の命令は絶対であり、戦場においては一糸乱れぬ支配を実現する。その指が鳴るとき、戦場は沈黙に包まれる。戦闘能力においても近接格闘技においては世界有数の実力を誇る。


 そして、影のエコー。白を基調とした軍服風のドレスに身を包み、無言のまま美麗の傍らに立ち続ける。


 その姿は、まるで意志を持つ影そのもの。


 彼女の能力は……念伝。コード同士の精神回路を通じて、音もなく、瞬時に命令を伝えることができる。


 言葉を必要としないその伝達は、まさに沈黙の支配。常に美麗の背後に控え、命令が下るよりも早く動くその在り方は、他のコードたちにとっても絶対の象徴だった。


 感情を持たぬはずの存在でありながら、ほんの一瞬、揺れるまなざしを見せることがある。それは、彼女がただの模倣体ではないことを、静かに物語っていた。


 この三柱を頂点に、コード・ミラージュは静かに、確実に、世界の裏側を塗り替えていく。


 それは、忠誠という名の呪い。創造主への絶対的な帰属。そして、鏡の王国を守るための、完璧なる影の軍勢だった。



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