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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第二章 インクライン編

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第59話 観測者の微笑、悪夢は糧となる



 ミラーパレスの奥、魔導障壁で守られた観測室。


 その一角、薄闇に包まれた豪華な執務室で、美麗はエコーだけを後ろに控えさせ、メインモニターに映る雪の姿を見つめていた。


 ユグドラシルにいたる中ほどでの異形ゴブリンの襲撃。結局のところ彼は、あの魔道具を使わなかった。


「……ふふ、やっぱり。焦らず、慎重に見極めるのね」


 美麗の唇が、満足げに弧を描く。


 モニターに映る雪の横顔に、指先をそっと這わせるように触れながら、陶然とした目で囁いた。


「そのままでいて。あなたは、まだ知らないのよ……自分がどれほど世界に愛されているのか」


 美麗は、モニターに映る雪の姿に視線を絡めたまま、ゆっくりと瞳を細めた。


 その表情は、支配者の余裕と、獲物を慈しむような甘やかな狂気がにじみ出ていた。


「さて、インクラインが目標地点に到着するのは……少し先の話。それまでは、もう一つの素敵なイベントを楽しみましょうか」


 彼女が指を鳴らすと、部屋の照明がわずかに落ち、空間の中心に浮かぶ魔導モニターが静かに切り替わる。


 その中央に浮かぶ巨大な魔導モニターには、黒の回廊・第十八階層の映像が映し出されていた。


「……開いたわね」


 鏡宮 美麗は、椅子に腰かけたまま、指先で頬を支えながら、ゆっくりと瞳を細めた。


 その視線の先、モニターの中では、重々しい扉が軋みを上げて開かれていく。


「予定より、随分と早いわね。やっぱり、五星姫たちは優秀だわ……ふふ。今日で全員が散る運命(さだめ)だとしても」


 背後には、静かに佇む影、エコーが控えていた。


 彼女は一言も発さず、ただ主の背後に立ち、同じ映像を見つめている。


「さて……悪夢は、どう動くのかしら」


 美麗の声は、まるで独り言のように淡く、けれどその奥には、確かな期待と興奮がにじんでいた。


 モニターの中、五星姫たちが最奥の部屋へと足を踏み入れる。そして、映し出された光景に、彼女たちが言葉を失うのが、手に取るようにわかった。


「……ふふ、やはり舞台を用意してたのね。オークロードも、ついでにその取り巻きも……よっぽど遊び足りなかったみたい」


 美麗の唇が、わずかに吊り上がる。


「悪夢。あなたは、やっぱり……面白いわ」


 エコーが、静かに一歩前に出る。


「想定通り、十八階層にて接触が始まりました。扉、閉鎖を確認。外部からの干渉は遮断済みです」


「ええ、ありがとう……ここからが本番よ」


 美麗は立ち上がり、モニターに近づく。

 

 その瞳に映るのは、死屍累々の処刑場と、中央に佇むコード・ナイトメア。


「さあ、見せてちょうだい。あなたの本気を。私の影か、それとも、私をも超える何かを持っているのか」


 その瞬間、モニターの中で、影がゆっくりと振り返った。


 顔は、まだ見えない。しかし、確かに画面越しに……美麗を見ている。


 美麗は、微笑んだ。


 その笑みは、氷のように冷たく、そしてどこか陶酔すら帯びていた。


「ようこそ、カリギュラ。あなたの舞台は、ここからよ」


「さあ、惨劇をはじめなさい」


 鏡宮 美麗は、魔導モニターの前で、静かに微笑んだ。


 十八階層のボス部屋。


 モニターの中で、ゆっくりと五星姫側に振り返るカリギュラ。


 くすんだ紅と墨色の衣装が、まるで血と墨を吸い込んだ布のように、重たく揺れる。仮面の奥に広がる、塗り潰された闇。瞳はない。けれど、確かに見ている。


「視線じゃないわね……存在そのものが、彼女たちを貫いてる」


 美麗は、椅子から立ち上がり、モニターにそっと手を伸ばす。


 その指先が、まるでカリギュラの仮面に触れようとするかのように、空をなぞった。


「エコー、数値を」


「はい。白蛇紋システム、転移装置を通じて感情波を捕捉。現在、恐怖波動の濃度、通常想定の……四百二十六倍。視聴者数、現在一千二十万を突破。感情共鳴によるエネルギー流入、臨界点を超えました」


「……あら」


 美麗の瞳が、わずかに見開かれ、その唇が、ゆっくりと吊り上がる。


「想像以上ね。まさか、ここまでとは……」


 モニターの中、五星姫たちの表情が次々と変わっていく。紫乃の蒼白な顔。うたたの震える指先。斗花の握れぬ拳。


 そして、視聴者たちのコメント欄が、恐怖と混乱で埋め尽くされていく。


 そのすべてが、白蛇紋システムを通じて、エネルギーへと変換されていく。


 純粋な恐怖。絶望。混乱。それらは、最も効率的な燃料だった。


「ユグドラシルへの供給ライン、最大出力で稼働中。魔力濃度、上昇中……臨界突破まで、あとわずか」


「いいわ、もっと……もっとちょうだい。恐怖して、怯えて、絶望して……そのすべてを、私に捧げなさい」


 美麗の声が震える。


 それはもちろん恐怖なんかではない。


 狂気の果てにある、陶酔の震えだった。


「これが……これこそが、私の夢……」


 彼女の背後で、エコーが静かに目を伏せる。


 その表情には、感情の色はない。ただ、主の狂気を受け入れる、忠実な影とわずかな昂りがあった。


 モニターの中、カリギュラがゆっくりと振り返る。


 その動きに合わせて、空間が軋む。


 空気が凍り、魔力が沈黙し、命の気配が消えていく。


「さあ、もっと見せて。あなたたちの限界を。そして、私の影が生み出す、真の絶望を」


 その瞬間、白蛇紋システムが唸りを上げた。ユグドラシルの内部に設置された魔導炉が、赤黒い光を放ち始める。


 世界中の視線が、恐怖が、絶望が、すべてが、今、美麗の掌の中にあった。


「……来たわね」


 鏡宮美麗は、魔導モニターの前で、静かにささやいた。その瞳は、まるで愛おしい玩具の動きを見守る子供のように、期待と興奮に満ちていた。


 モニターの中、カリギュラが裂けた空間から再び現れる。


 その姿は、すでに五体に分かれていた。


 けれど、美麗にはわかっていた。これは分身ではない遊びの始まり。


 本気をだすまでの序章。


「ふふ……ようやく、目覚めたのね。私の影」


 背後に控えるエコーが、静かに報告を始める。


「白蛇紋システム、恐怖波動の濃度、さらに上昇。A級冒険者である五星姫の感情波、臨界突破。視聴者数、一千二百万を突破。感情共鳴、最大値更新中。ユグドラシルへの魔力供給、限界値を超えました」


「……ああ、なんて素敵」


 美麗は、胸元に手を当て、うっとりと目を閉じた。


 その白磁のような頬が、紅潮で染まる。


「恐怖して、怯えて、叫んで……それでも立ち上がる。その姿が、どれほど美しいか、彼女たちは知らないのね」


 モニターの中、紫乃の障壁が砕け、うたたの肩が裂け、夜々が壁に叩きつけられ、斗花が吹き飛ばされる。


 冴月だけが、必死に剣を振るい、仲間を守ろうとしていた。


「……いいわ、もっと壊れて。その先にしか、見えないものがあるのよ」


 エコーが、再び報告する。


「白蛇紋システム、感情波の変質を確認。恐怖から執念への変化。連携魔法陣、発動準備を検知。エネルギー流入、さらに加速中」


「ふふ……そう。だから、あなたたちは美しいのよ。壊れても、何度も立ち上がる。絶望の中で、なお光を掲げる。その光が、私の影を焼き付くそうと照らすの」


 美麗の瞳が、モニターの中で輝く魔法陣を見つめる。


 五星姫の連携が発動し、冴月の剣が光をまとう。


「さあ、見せてちょうだい。あなたたちの本気を。その輝きが、どれほどの闇を照らせるのか……ふふっ」


 その瞬間、白蛇紋システムが唸りを上げた。


 ユグドラシルの内部から根元に設置されたすべての魔導炉が、赤黒い光を放ち、空間が震える。


「エネルギー流入、最大値更新。ユグドラシル限界突破、白蛇紋システム次なる進化反応開始」


「……ああ、なんて美しいの……!」


 美麗の声が震える。その瞳は、狂気と歓喜に濡れていた。


「もっと……もっとちょうだい。あなたたちの恐怖も、希望も、すべて私の糧にしてあげる」


 その瞬間、冴月の剣が振り下ろされ、光が狂気を裂いた。


 カリギュラの仮面が砕け、分身が霧散していく。


 しかし、美麗は、笑っていた。


「終わったと思っているの? ……ふふ、可愛いわね」


 その声は、まるで次のターンを知っている者の余裕だった。



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