表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/27

第5話 配信史を塗り替えた奇跡の一閃



「全員、警戒を――!」


 冴月が叫んだ、その直後。


〈……やっと〉

〈……本気であそべる〉

〈……壊れないで〉

〈……楽しもうよ〉


 空間が、裂けて再び現れたカリギュラは、すでに五体に分かれていた。しかし、先ほどとは違い一体いったいが、明確な殺意を帯びていた。


「来るぞッ!!」


 冴月が剣を構えるやいなや、五体のカリギュラが、同時に襲いかかってきた。


 紫乃の障壁は、一撃で粉砕され、魔力の余波で吹き飛び地面を転がる。うたたの魔法陣は、詠唱の途中で破られ、逆流した爆風が彼女の肩を裂いた。夜々の鞭は、分身の一体に絡みついたが、そのまま引きずられ壁に叩きつけられる。斗花の拳は、分身の鎌とぶつかり合い、骨が軋む音と共に後方へ吹き飛ばされた。


 冴月の剣だけが、かろうじて一体の動きを止めたが、残りの四体は、容赦なく他の仲間を追い詰めていく。


「っ、くそ……っ!」


 五星姫は、瞬く間にボロボロになっていった。


 血が、破れた衣の隙間からにじみ、息が、荒く、苦しげに漏れる。


 それでも、誰一人、倒れなかった。


 倒れられなかった。


 なぜなら、自分が倒れたのなら『あれ』は、ますます笑みを深め、仲間がそれだけピンチになると解っていたから。



【コメント欄】

『紫乃様が……っ!』

『うたたちゃん、血が……やばい、やばいって……!』

『夜々様、動いて……お願い……!』

『斗花姐さんの腕、変な方向に……嘘だろ……』

『冴月さんだけが立ってる……これ、全滅する……?』

『#五星姫ピンチ』

『誰か、誰か助けて……!』

『カリギュラ強すぎる、これがEX級……』

『お願い……立って……!』

『みなの想いを五星姫に』

『これ、最後まで映すって言ってたよな……』

『……映らなくなったら……いやあああ』



「全員、ポーションを使え!」


 冴月の声が、血の匂いに満ちた空気を裂いた。


 その剣は、カリギュラの分身の一体を斬り払いながら、仲間たちの命を繋ぐための指示を飛ばす。


「斗花、下級じゃ間に合わん。中級を使え!」


「っ、マジかよ……あれ、一本で高級車買えるんだけど……!」


 斗花が呻きながらも、腰のポーチから青銀の瓶を取り出す。


 それは、中級ポーション。骨折や深手を即座に癒す、A級冒険者でも滅多に使えない代物。


「ケチって死ぬよりマシだろ!」


「……チッ、わかってるよォ!」


 瓶を砕くように飲み干すと、斗花の砕けた腕が、音を立てて元の形に戻っていく。


「紫乃、うたた、夜々も! 下級でいい、応急処置を!」


 この世界には、即時回復の術はほとんど存在しない。


『白印の癒し』と呼ばれる男の聖職者の奇跡か、ポーションのみ。とはいえ、ポーションは下級ですらドロップも稀なのに、効果は軽傷を癒すのがやっと。


 中級は都市でも流通が限られ、そして現在、ポーションの人工調合は国家規模の事業とされている。


 九条財閥は政府と協力し、天文学的な費用を投じて調合研究にあたっているが、 現状では、少し元気が出て、魔力が極わずか回復する程度の薬しか完成していない。もしポーションが人工的に製作可能となれば、人類はまた一歩進化するとまで言われている。


 そして、上級に至っては、ドラゴンに匹敵する強敵を倒して、もしかしたらドロップするかも?という奇跡のレベル、ただその効果は絶大で切断された腕や脚をすぐに繋げば治る。ただ時間が経てばもう戻らないが。


 そんな奇跡の上級を、今回は、九条家の備蓄から、紫乃の権限でどうにか一本を確保していた。


 それは、万が一のための切り札。誰かの命を、たった一度だけ繋ぎ止めるための希望。その一本は冴月の腰のポーチの中で、静かに揺れていた。


「……使いどころは今だ。迷うな」


 冴月の声に、仲間たちは迷いなく瓶を割った。


 命を繋ぐために。この戦いを、終わらせるために。



【コメント欄】

『えっ、今の中級ポーションじゃなかった?』

『斗花姐さん、骨折治った!? マジかよ……』

『ポーション使いすぎじゃない!? どんだけ持ってんの!?』

『#五星姫の装備ガチすぎる』

『うたたちゃんの瓶、下級でも高いのに……』

『夜々様も使った!? あれ、ランク低いパーティーなら破産するやつ……』

『やっぱ王子様パーティー、格が違う……』

『これが国家級の戦力ってことか……』

『でも、これだけ使ってもまだカリギュラ無傷って……』

『お願い、持ちこたえて……!』


「行くぞ、ここからが本番だ!」


 冴月の声が、血と焦げた魔力の匂いに満ちた空間を貫いた。その剣が、再び構え直され、五星姫が並びたち構えをとる。 


 紫乃は、割れた魔道具の眼鏡を外し、魔力の光を宿した瞳で敵を睨む。うたたは、血のにじむ肩を押さえながらも、魔法陣を再構築する。夜々は、鞭を巻き直し、静かに呼吸を整える。斗花は、治った腕をぶんと振り、口元に笑みを浮かべる。


「ここから……オレたちのターンだぜェ!」


 その瞬間。


〈……いいね〉

〈……もっと、もっと〉

〈……壊れて、泣いて、叫んで〉

〈……それでも立ち上がるの、だいすき〉


 カリギュラの仮面が、ぱきり、と音を立てて割れた。


 中から覗いたのは、顔ではなかった。無数の目玉と、笑い声のような脈動する肉塊。


「っ、あれ……本体じゃない……!」


 紫乃が叫ぶ。


 五体の分身が、さらに分裂を始めた。


 数が倍に、そしてまた倍にと、空間が、カリギュラだらけになっていく。


「っ、数が……っ!」


「いや、違う……これは、数じゃない……!」


 冴月の目が、鋭く光る。


「感情の残響を具現化してる……!  遊びの記憶を、実体化してるんだ……!」


 笑い声が、空間を満たす。


 それは、喜びでも怒りでもない。 ただ遊びたいという、純粋で歪んだ欲望。


「なら、こっちも本気で終わらせる!」


 冴月が、剣を振り上げた。


「五星姫の本気……連携、いく!」


 紫乃の詠唱が空間を震わせ、うたたの魔法陣がその上に重なる。夜々の鞭が空を裂き、斗花の拳が雷鳴のように響く。


「五星・連環陣、発動!」


 五つの力が交差し、空間に巨大な魔法陣が浮かび上がり、その中心に、冴月が立つ。


「……終わらせる。これ以上、誰も壊させない!」


 冴月の剣が、魔法陣の光をまとう。白峰家に伝わる奥義『天穿てんせん煌刃乃型こうじんのかた


「――穿うがてッ!!」


 剣が振り下ろされた瞬間、光が、狂気を裂いた。


 無数に増殖していたカリギュラの分身が、一斉に悲鳴のような笑い声を上げて、霧散していく。


 本体の仮面が、完全に砕けた。


〈……ああ、たのし……かった……?〉


 最後の呟きと共に、カリギュラの肉体が、音もなく崩れ落ちていく。



【コメント欄】

『やったああああああああ!!』

『五星姫連携キターーー!!』

『冴月さんの奥義、鳥肌止まらん……!』

『#天穿煌刃ノ型』

『紫乃様の詠唱からの流れ完璧すぎた』

『夜々ちゃんの鞭、マジで空裂いてた……』

『斗花姐さんの拳、雷だったよね!?』

『うたたの魔法陣、あれ何層あったの!?』

『カリギュラ消えた……本当に終わったの……?』

『#五星姫最高 #冴月王子ありがとう』



 配信開始から数分で同時接続数は八百万を突破。これは歴代三位の記録であり、『王子様パーティー』こと《戦律ヴァルキュリア五星姫クインテット》が、世界的な注目を集めていることの証明だった。


 その数はさらに伸び続けていた。うたたの魔力が崩れ、斗花が拳を握れなくなった瞬間、視聴者たちは、ただのエンタメとして見ていた画面の向こうに、本物の死の気配を感じ取ったのだ。


 そして、同接は一千万を超えた。 それはもはや、娯楽ではなかった。世界が、息を呑んで見守る災厄の実況中継となった。


 そして、五星姫の連携が発動し、冴月の奥義が狂気を貫いた瞬間、同時接続数は、ついに一千三百万を突破。


 それは、配信史上歴代一位の瞬間視聴数。誰もが願い、叫び、涙しながら見届けた奇跡の一閃だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ