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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第二章 インクライン編

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第51話 守られた奇跡、動き出す鏡の女王



 インクラインの六名は、主が不在だったボス部屋を後にし、隣の小部屋でつかの間の休憩を取っていた。


 下層へと続く階段が設置されたその部屋は、まるで意図的に用意されたかのように整っていて、どこか人工的な気配が漂っている。


 けれど、今の雪には、そんな違和感さえも、胸を高鳴らせるスパイスに思えた。


 白銀坂(しろがねざか) (ゆき)は、ひとり小さく息を吐きながら、みんなと同じように壁にもたれて座り込む。


 鼓動が、まだ少し速い。けれど、それは恐怖からくるものではなかった。


(……夢みたい)


 仲間とともにダンジョンを進み、戦って、笑い合って、こうして一緒に休憩している。それは、かつて病室のベッドの上で何度も夢に見た光景だった。


(あの頃のあたし……いや、今は男なんだからボクだ。それが見てた景色が、今ここに現実としてある……)


 前世の自分が、画面越しに憧れた冒険。


 誰かと肩を並べて戦い、誰かのために力を尽くす日々。


 そして、ステージの上でみんなと一緒に笑顔を届けること……そのすべてが、今の自分の中にある。


(本当に、叶っちゃったんだ……)


 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


 あの頃の自分に、教えてあげたい。ちゃんと歩けるようになったよ。仲間ができたよ。そして、あのとき見た夢の中の世界に、今、ぼくはちゃんといるんだって。


 雪は、そっと目を閉じた。


 耳に届くのは、仲間たちの笑い声。香炉の甘い香りと、魔力の気配。そして、遠くから聞こえる、風のささやき。


(……ありがとう)


 誰にともなく、心の中でそう呟いた。


 雪は、そっと目を開けた。


 仲間たちの姿が、視界に映る。


 紅坂 朱音……あかねお姉ちゃん。赤い髪を揺らしながら、魔剣の手入れをしている。真剣な横顔は、昔から変わらない。


 小さな頃から、ずっと雪の前に立って、守ってくれた人。あのときの「守るから」という言葉は、今も変わらず、雪の心を支えている。


 彼女の背中を見るたびに、雪もまた、誰かを守れる存在になりたいと願うのだった。


 桃原坂 花恋……カレンたんって言うと、ゆっくん生意気って嬉しそうに怒られる。いつも香炉をくるくる回しながら、何やら新しい香りの調合をしている。


 その表情は、どこかいたずらっぽくて、でも真剣で、彼女の放つ香りは、いつも雪の心をふわりと包んでくれる。


 言葉はちょっぴりトゲがある時もあるけれど、その奥にある優しさを、雪はちゃんと知っている。


 黄金坂 萌黄……もえもえって言うとゆきゆきって返ってくる。床に寝転がって、天井を見上げながら、何かの歌を口ずさんでいる。


 明るくて、元気で、ちょっと抜けていて、でも誰よりも空気を読んで、場を和ませてくれる。


 彼女の笑い声が響くと、不思議と緊張がほぐれて、心が軽くなる。雪にとって、萌黄の存在は、まるで雷のようにまっすぐで、まぶしい光だ。


 翠坂 風花……ふうちゃんって呼ぶと、なにかな~ゆきくんっていつも優しく返してくれる。いまは静かに目を閉じ、風の精霊と語らっている。


 その姿は、まるで森の中の風そのもののように、やさしく、穏やかで、けれど時折、誰よりも鋭い言葉で核心を突くから、雪はいつも驚かされる。


 風花のそばにいると、心が落ち着く。まるで、深呼吸をしたあとのように。


 藍坂 空……そら姉さん。小部屋の隅で、静かに水筒を手にしているその姿は、まるで湖面のように穏やかだった。


 透き通る藍色の髪が、部屋の淡い光を受けて、さらさらと揺れている。


 雪は、そっと彼女の横顔を見つめた。その瞳はいつも遠くを見ているようで、けれど、誰よりも近くで仲間を見守っている。


(……やっぱり、きれいだな)


 空は、朱音おねえちゃんの幼なじみだ。小さい頃から、よく一緒に遊んでくれた。


 雪が自分の家に住めるようになって、まだ言葉もおぼつかなかった頃、空はいつも静かにそばにいて、絵本を読んでくれたり、手を引いてくれたりした。


 あの頃から、変わらない。


 凛としていて、優しくて、何があっても動じない。戦場では、巨大な盾を構えて、誰よりも前に立つ。


 その背中は、まるで空のように広くて、深くて、どこまでも頼もしい。


「……大丈夫、私がいるから」


 その言葉を聞くたびに、雪の胸はふわりとあたたかくなる。


 空の声は、まるで歌のように澄んでいて、心の奥にすっと染み込んでくる。


(……ボク、あの人の横顔、好きなんだ)


 誰にも言ったことはないけれど、空がふと見せる微笑みが、雪はとても好きだった。


 それは、まるで夜明け前の空に浮かぶ一番星のように、静かで、でも確かな光を放っていた。


(……ボクは、こんなにもすごい人たちと、一緒にいるんだ)


 それが、どれほど幸せなことか。どれほど、奇跡のようなことか。


 雪は、胸の奥でそっと噛みしめた。


 今回のミラーパレスへの挑戦は、正直なところ、雪にとって許された奇跡だった。


 本来、白印を持つ男性は、国家によって厳重に保護されている。


 その存在は希少で、同時に繊細で、何よりも癒しという力を持つがゆえに、過剰な負荷を避けるべきとされていた。


 実際、他の白印の男性たちは、ほとんど人前に出ることがない。


 回復魔法を使うことすら「疲れるから」と、必要最小限にとどめ、社交の場を避け、静かに暮らしている人が多い。


 冒険者と活躍している白印は、国内でもごく僅かな状況。


 けれど……雪は、違った。


 彼は、笑っていた。人と話すことを恐れず、むしろ楽しんでいた。仲間と肩を並べて戦い、アイドルとしてステージに立ち、歌い、踊り、笑顔を届けていた。


 その姿は、まるで奇跡のような日常そのものだった。


「雪くん、今日も笑顔が最高だったよ〜!」

「癒しの波動、今日も全開って感じ〜!」

「ライブのときの雪くんも、マジで天使……いや、神……!」


 仲間たちだけでなく、スタッフや関係者、そしてファンまでもが、彼の存在に心を救われていた。


 それは、ただ白印の方だからではない。


 彼が、誰よりも人を想い、誰よりも生きることに真剣だから。


 その笑顔の裏に、どれほどの過去があるのかを、知っている者は彼自身以外にはいない。


 けれど、誰もが感じていた。


 彼の笑顔には、理由がある。彼の優しさには、深さがある。そして、彼の存在には、意味がある、と。


「……雪くんが行くなら、私たちが守るよ」


 朱音がそう言ったとき、誰も反対しなかった。


「ゆっくんが一緒にいてくれるだけで、全然違うから」


 花恋がくすくす楽しげに笑いながら言う。


「うんうん、雪くんがいると、なんか安心する〜」


 萌黄が笑った。


「……雪くんの魔力は、ただの回復じゃない。心に届くの」


 風花が静かに言った。


「この盾は、雪くんを守るためにもあるの」


 空が、そう言って微笑んだとき、雪は思わず目を伏せた。


(……ボクなんかが、みんなと一緒にいていいのかな)


 そんな不安が、ふと胸をよぎる。


 けれど、次の瞬間、誰かがそっと雪の手を握った。


「雪ちゃんは、ここにいていいんだよ」


 朱音の声が、優しく響く。


 その言葉に、雪は小さくうなずき、胸の奥に、あたたかい光が灯る。


(うん……ぼくは、ここにいる)


 それは、かつて夢見た居場所だった。


 今、雪はその真ん中にいる。仲間とともに、戦い、笑い、歌いながら確かに、しっかりと生きている。



 今回の許された奇跡……白銀坂 雪のミラーパレス参戦。


 それは、表向きには「本人の強い希望と、インクラインの全面的な支援による特例措置」として発表された。


 しかし、その裏には、誰もが認める力が働いていた。


 鏡宮 美麗。


 リバースアース日本の上層部に名を連ねる実力者にして、現代魔導戦略局の特別顧問。そして、謎多い高難度ダンジョン、ミラーパレスを含めた複数のダンジョンを有する二大財閥のいま一人の総帥。


 彼女のごり押しがなければ、今回の参戦は、まず認められなかっただろう。


「……白銀坂 雪の挑戦は、全責任を私が負います」


 会議室に響いたその一言は、重く、鋭く、そしてどこか挑発的だった。


「万が一にでも、彼に間違いが起きることはありません……ええ、絶対に」


 その言葉に込められた含みを、上層部でも一部は察した。美麗が、何かを隠していることを。そして、すでに何かを仕込んでいることを。


 しかし、そこに集う権力者たちの誰もそれを問いただすことはできなかった。それは、彼女の背後にある力と成果を誰よりも理解している者ばかりだからだ。


 そして実際のところ、彼女は動いていた。



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