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第4話 配信が捉えた災厄との開戦

進行は、ゆっくりペースです。異界からの転移者登場は7話からとなります。



 沈黙を切り裂いたのは、王子(さつき)の声だった。凛と澄んだその響きが、迷宮の空気を震わせる。


「私たちは《戦律の五星姫》。退路は閉ざされた。ならば、目の前の敵を討ってこそ、血路は開かれる!」


 その瞳には、恐怖も迷いもなかった。ただ、仲間を信じる強さだけが、そこにあった。


「私たちが全員、力をあわせれば、何者にだろうが、絶対に勝てる!」


 その一言が、崩れかけていた心を、瞬く間に引き戻した。


「……ったく、言ってくれるじゃん、王子」


 斗花が拳を握り直す。


「ま、オレがビビってたなんて、ナイショにしとけよな」


「ふふ……王子様に言われたら、やるしかないですわね」


 紫乃が微笑み、魔力を再び練り上げる。


「……うん、やっぱ王子ってズルい」


 うたたが涙目のまま笑い、魔法陣を展開し始める。


 「……了解、冴月様」


 夜々は短くそう告げると、腰に巻かれていた漆黒の鞭を、静かに解き放った。その瞬間、鞭の表面に紫紺の魔力が走り、空気が微かに震える。


 彼女の忠誠は、ただ一人に向けられている。 王子の言葉に従ったのではない。冴月が立ち続けている限り、夜々はその背を守る。



【コメント欄】

『王子様きたあああああ!!』

『やっぱこの人がいないと始まらん!』

『王子の一喝で空気変わった』

『五星姫、再起動!!』

『夜々様も動いた! これはいける!』

『#全員揃えば無敵説』

『ここからが本当の戦いだ……!』


 その瞬間だった。


〈……あそぼう〉


 誰の声でもなかった。耳ではなく、脳に直接響く囁き。甘く、湿っていて、どこか子供のような無邪気さを漂わせている。


〈……準備できた?〉

〈……すぐに壊れないで〉

〈……楽しませて〉


 ぞわり、と背筋をなぞるように、空間が歪んだ。


 カリギュラの身体が、ぶつり、と音を立てて五つに分かれた。それぞれが、まったく同じ姿、同じ仮面、同じ大鎌を携えている。


 分身? 否、それは、元々が五体あったとしか思えないほどの実在感。


「来るぞッ!!」


 冴月の叫びと同時に、五体のカリギュラが、それぞれのメンバーに向かって一斉に襲いかかる。


 紫乃は、魔力障壁を瞬時に展開し、大鎌の一撃を寸前で受け止める。しかし、障壁は一撃で軋み、ひび割れた。


 うたたは、魔法陣を即座に展開し、爆風で自らを吹き飛ばすことで間合いを取る。その顔は蒼白だったが、目だけは必死に敵を追っていた。


 夜々は、魔鞭をしならせて分身の鎌を絡め取り、寸前で軌道を逸らす。その動きは冷静だったが、額には一筋の汗がにじんでいた。


 冴月は、剣を抜き放ち、迫る刃を紙一重で受け流す。その眼差しは鋭く、すでに反撃の構えに入っていた。


 そして斗花。


「っのヤロッ!!」


 拳に魔力を込め、真正面から突っ込んできた鎌を、拳で受け止め、火花を散らす。


 そして、ぶつかった瞬間、彼女は悟った。


「……こいつ、遊んでやがる……!」


 本気じゃない。殺す気で振るっていない。ただ、こちらの反応を見て楽しんでいる。


 それが、わかってしまった。


 五体に分かれていたカリギュラが、音もなく、再び一体へと収束していく。


 その仮面が、わずかに傾いた。


〈……本気、出してね〉

〈……じゃないと、死ぬよ〉

〈……誰かが死ねば〉

〈……本気になるかな〉


 その声は、まるで遊びの続きをせがむ子供のように、無邪気で、そして残酷だった。


 カリギュラの足元には、砕けた仮面の破片と、焦げた羽根の残骸。それらが、黒い靄のような魔力に包まれ、ゆらりと揺れ始める。


 次の瞬間、倒れていた首のないオークたちが、不自然な動きで立ち上がった。


 オークロードも、首のない姿のまま、ぐらりと異常な動きで起き上がる。けれども、その動きはゾンビのような鈍重なものではなかった。

 

 むしろ、生前と変わらぬ速度、いや、死を恐れぬ分、さらに速く、さらに獰猛に。


「……これは……」


 紫乃が、仮面の破片と羽根を見つめ、息を呑む。


「死人使い……いえ、感情を喰らい、死を操る道化……カリギュラの能力の一端が、これですのね……」


 彼女の声が震える。


「オークロードは元よりB級相当の強敵。そして、他のオークたちも……通常のD級から、C級相当へと脅威度が跳ね上がっていますわ。しかも、死を恐れず、筋肉が千切れても動き続ける……」


 オークたちの首はないまま。しかしその動きには、明確な殺意が宿っていた。


 カリギュラは、ただ静かに、その様子を見下ろしている。



【コメント欄】

『ちょ、オークロード首ないのに動いてる!?』

『ゾンビじゃない……これ、生きてた時より速くない!?』

『筋肉ちぎれてんのに止まらないって何……』

『仮面と羽根が媒介……? 死人使いってそういう……』

『カリギュラの演出が悪趣味すぎる』

『紫乃様の解読がなかったら意味わかんなかった……』

『これ、EX級って、まじ厄災……』

『お願いだから五星姫、負けないで……』


「……見えましたわ」


 紫乃が、魔力の流れを読むように目を細める。


 その視線は、カリギュラの足元の砕けた仮面と焦げた羽根の残骸へと向けられていた。


「この術式、死体そのものを操っているのではありません。仮面と羽根が、死者の感覚を模倣し、肉体を動かしているだけ。つまり、媒介を断てば、動きは止まりますわ」


「なるほどね……!」


 斗花が拳を鳴らす。


「じゃあ、ぶっ壊しゃいいんだよな!」


 五星姫たちは即座に動いた。


 夜々の魔鞭が羽根を絡め取り、紫紺の魔力で焼き尽くす。うたたの魔法が仮面の破片を爆風で吹き飛ばし、冴月の剣が、オークロードの動きを封じるように斬り伏せる。


「……終わりですわ」


 紫乃の詠唱が完成し、最後の羽根が、音もなく燃え尽きた。


 オークたちは、糸が切れたように崩れ落ちる。仮面と羽根の媒介を失ったことで、肉体はただの骸へと戻り、本来のドロップ品や魔石を落とし、溶けるように消えた。


 そして、首のないオークロードも、最後の一撃を受けて膝をついた。


 その巨体が、地響きを立てて崩れ落ちる。とはいえ、その動きの一つひとつが、異様なまでにしぶとく、重かった。


 やがて、黒煙のように肉体が崩れ去り、地面にはひときわ大きな魔石が残された。


「っ、さすがに……タフすぎ……だよ」


 うたたが肩で息をしながら、額の汗を拭う。魔力の消耗は激しい。だが、まだ立っている。


 カリギュラが無傷である限り、気を抜くわけにはいかなかった。


「これで……ひとまず、沈静化……?」


「……カリギュラは?」


 冴月の問いに、全員の視線が集まる。しかし、そこには、何もなかった。


 砕けた仮面も、焦げた羽根も、跡形もなく消えていた。



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