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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第一章 戦律の五星姫編

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第33話 抱擁の余韻、動き出す群星



 ストレイは、うたたを抱いたまま、魂の半分が抜けたような顔で、ぼんやりと宙を見つめている。


 うたたはうたたで、満足そうに身を預け、金色の瞳を細めていた。


 クラウは、冴月を抱えたまま直立不動。その冴月は赤面したまま、そっと彼の胸元を掴んでいる。


 夜々は、フェルマを抱えたまま、変わらず一言。


「……違います……」


 三度目の「違う」にも、フェルマの魂は、ぴくりとも反応しなかった。しかしその顔は白目をむきながらも、この中で一番幸せそうではあったが。


 そして……紫乃は、斗花に抱っこされている状態で、腕を組みながら、真顔で言い放つ。


「やり直しを要求しますわ」


「おいおい、文句言うなら降りろって」


「降りませんわ。ですが、この抱き方は納得いきませんの」


「めんどくせぇな!?」


「乙女の尊厳ですわ!!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人を横目に、ようやく少しずつ正気を取り戻したクラウが、ぽつりと呟いた。


「……そういえば、ストレイ」


「……ん?」


「バルド、カゲトラ、リュカ……あいつらも、いまこんな天国にいると思うか?」


 ストレイは一瞬考え、虚空を見つめる。


「……いや……こんな状況、そうそうある……とでも?」


「……だな」


 二人の視線が、あらためてこの場の光景を見渡す。


 尊き御方たちを胸に抱き、ある者は赤面し、ある者は抱えられたまま気絶し、ある者は「違う」と呟き続け、ある者たちは理不尽に揉めている。


 確かに、彼らがいた世界に比べれば……間違いなく、ここは天国かもしれなかった。


「…………」


「…………」


 二人は、同時に悟ったように頷く。


「……生きててよかったな」


「……ああ」


 その言葉を最後に、十八階ボス部屋は、静かに、甘く、そして少しだけ騒がしく、幕を下ろした。


 それまで、群星リンクの百人、百花繚乱のガチ勢たちは、斗花とクラウのひと幕後から、まるで息を呑むように、十八階ボス部屋の映像を見守っていた。


 紫乃の足取り、夜々の沈黙、冴月の紅潮。張りつめた空気の中で、誰もが何かが起こる瞬間を待っていた。


 そして、フェルマが夜々の視線にものの見事に射抜かれ、理性を手放し、ふらりと倒れたその刹那、夜々の腕が、迷いなく彼を受け止めた。


 お姫様だっこ。静謐な空気の中で、ただ一人、震える夜々。その腕の中で、白目を剝いたまま微笑むフェルマ。


 その光景は、あまりにも衝撃的で、あまりにも甘美すぎて、まるで現実が、ひととき夢に溶けたかのようだった。


 そして次の瞬間、百花繚乱のコメント欄が、爆発した。


『夜々様、静かに立ってるだけで空気が変わるの、ほんと好き』

『紫乃様の賢者脳が囁いておりますのが名言すぎて語録入り確定』

『冴月様のこんな機会、もうないだろうが乙女すぎて心臓がもたない』

『フェルマ様、理性の限界突破して白目むくの早すぎ問題』

『夜々様の違いますが三回目で完全に様式美になってるの笑う』

『夜々様のはにかみでフェルマ様が昇天するの、尊すぎて泣いた』

『クラウ様とストレイ様の視線が宙をさまよってるの、地味にじわじわくる』

『紫乃様の、はぁ!? が完全に素で最高だった』

『夜々様、抱きかかえるの上手すぎてもうプロの域』

『フェルマ様、あの状況でこれ……現実……? って言えるの逆にすごい』

『冴月様のあんな顔に紫乃様が動揺するの、百花繚乱の醍醐味すぎる』

『この十八階、ボスより恋の圧が強すぎるんだが』

『夜々様の違いますが聞けるだけで今週は生きていける』

『フェルマ様、白目むいても可愛いのずるい』

『紫乃様、夜々様、冴月様、斗花様……全員本気出してきてて心が足りない』

『このシーン、リピ必須。尊さと笑いのバランスが神』



 十八階ボス部屋に、静かに並ぶ四組の影。それは、戦闘の余韻でも、勝利の凱歌でもなかった。


 クラウの腕の中で、そっと顔を伏せる冴月。夜々の腕に抱かれたまま、白目を剝いて昇天中のフェルマ。ストレイに抱かれ、最初から最後まで満ち足りた表情を浮かべるうたた。そして、斗花に抱えられながらも、なお抗議を続ける紫乃。


 誰もが、誰かを抱き、誰かに抱かれていた。


 その光景は、甘く、騒がしく、そしてどこか遠くて、まるで戦場の中心に咲いた一輪の花のように見る者の胸を、静かに確実に打った。


 そして次の瞬間、百花繚乱のコメント欄が、ふたたび爆発した。


 群星リンク(百花繚乱)ガチ勢のコメント


『ちょっと待って、何この並び……尊さの暴力……』

『冴月様が抱かれてる世界線、存在していいの!?』

『夜々様の違いますがもう呪文みたいになってるの草』

『フェルマ様、白目むいてるのに幸せそうなのズルい』

『クラウ様、完全に再起動してないのに完璧な抱っこしてるの騎士の鑑すぎる』

『紫乃様、抱かれながら抗議してるの強すぎて笑う』

『ストレイ様、魂抜けてるのにうたたちゃんだけは幸せそうなの最高』

『冴月様の降ろさなくていいが破壊力高すぎて心臓止まった』

『この十八階、恋愛イベントの密度が異常すぎる』

『クラウ様、騎士としても男としても限界突破してて泣いた』

『紫乃様、順番待ちしてたのに抱かれてるの斗花様なのほんと草』

『夜々様、静かに全部持っていくのずるい……』

『冴月様の守られる表情、永久保存案件』

『尊さとカオスのバランスが神がかってる』

『全員抱っこされてるのに誰一人まともじゃないの最高』

『この十八階、ボスより恋の圧が強いってマジだった』

『今週のMVPは……選べない……全員優勝……』


 百花繚乱のコメント欄が尊いの嵐で埋め尽くされる中、その熱狂の渦をかき分けるように、突如、別チャンネルが立ち上がった。


【推しカプ専用スレッド】爆誕。


「クラ冴」「夜フェル」「ストうた」「斗紫」


 それぞれの名を冠したタグが、次々と浮上し、ガチ恋勢の悲鳴に混じって、今度は解釈一致と供給過多の叫びが飛び交い始める。


 尊さの洪水は、もはや一枚岩ではなかった。それぞれの推しが、それぞれの愛を叫び始めたのだ。


 そして、コメント欄は第二の爆発を迎える、今度は、カップリングの名を叫ぶ声で。


『クラ冴派、今夜は祝杯です。乾杯!』

『夜フェル、公式が最大火力で殴ってきたんだが!?』

『ストうた民、あの静けさが逆に刺さるのよ……尊い……』

『斗紫、喧嘩ップル枠かと思ったらまさかの抱っこ展開で爆笑した』

『クラ冴、あの降ろさなくていいはもうプロポーズでしょ……』

『夜フェル、白目むいてもなお可愛いフェルマ様に感謝しかない』

『ストうた、あの無言の信頼感がたまらんのよ……語らずして語るやつ……』

『斗紫、抱かれてるのに文句言ってる紫乃様が最高にヒロイン』

『夜フェル、夜々様の違いますがもう愛の告白に聞こえてくる』

『クラ冴、あの騎士と王子様の逆転構図が刺さりすぎて無理』

『ストうた、あの静かな幸福感が一番深い愛に見えるの、わかる人いる?』

『斗紫、あの二人だけラブコメのテンポ違ってて好きすぎる』

『夜フェル、夜々様の抱き方が優しすぎて泣いた……あれは恋の手つき……』

『クラ冴、冴月様が守られる側になるの、何度見ても尊い』

『推しカプ全員供給されてるのに、心が追いつかない……ありがとう公式……』


 

 百花繚乱のコメント欄は、尊い、無理、公式ありがとうの嵐で埋め尽くされていた。ガチ恋勢も推しカプ勢も、歓喜と混乱の渦の中で叫び続けている。


 しかし、その熱狂の中心にいるはずの一人、情報処理特化型スキルを持つ引きこもり体質の少女、九重すみれの姿が、なぜかデスクの前にはなかった。


 彼女は今、部屋の隅で。


「……っ、いち、に……さん……し……ご……っ、む、む、無理……」


 腕をぷるぷると震わせながら、腹筋、腕立て伏せ、スクワットを各五回。


 それだけで、すでに息は上がり、顔は真っ赤だった。


「……はぁ、はぁ……っ、でも……でも……」


 汗をぬぐいながら、すみれは拳を握る。その瞳には、いつになく強い光が宿っていた。


「お姉様をお姫様だっこするのは……この九重すみれです……!」


 震える声で、けれど確かにそう宣言する。誰に聞かせるでもなく、ただ、自分自身に誓うように。


「斗花さん……負けていませんよ……」


 そう呟いた瞬間、足がもつれて、ぺたんとその場に座り込む。けれど、すみれは立ち上がり、ふらふらとしながらも、再びスクワットの体勢に入る。


「……ろ、六回目……いきます……」


 その姿は、誰にも見られていない。


 けれど、確かにそこには、愛のために立ち上がる少女の姿があった。



 九条財閥本社、最上階。


 重厚な扉の奥、静謐な空気に包まれた総帥執務室。


 天井まで届く書架と、磨き抜かれた黒檀の床。その中心に据えられた、金細工の施された豪奢なデスク。


 九条 静流は、優雅に腰を下ろしていた。


  九条財閥の頂点にして、紫乃の母にして、現九条の総帥。


 目の前には、十八階ボス部屋の映像が、複数の角度から映し出されている。


 四組のお姫様抱っこ。騎士たちの混乱。そして、乙女たちの揺れる心。


 背筋を伸ばし、指先で紅茶のカップを持ち上げるその所作には、一切の隙がない。まるで、すべてを見通しているかのような瞳が、静かにモニターの映像を見つめていた。


「……紫乃」


 ぽつりと、娘の名を呼ぶ。


「九条の後継者としての行動としては、疑問符がつくわね。けれど、漢たちのウィークポイントを探るには、十分すぎるほど役立ったわ」


 魔力を指先に集め、静流はデスクの上に浮かぶ映像にそっと触れる。空間に浮かぶ魔導投影が、音もなく切り替わった。


 次に映し出されたのは、拡大されたクラウとストレイが、並んで立つ姿だった。


 ふたりの口元はほとんど動かず、その声は、通常のドローンの記録映像では拾えないほどの囁きだった。


 しかし、静流のスキル《魔導感知結界》が、空間に残る微細な魔力の揺らぎを読み取り、その声を、彼女の耳元にだけ再現する。


『……バルド、カゲトラ、リュカ……あいつらも、こんな天国に逝ったのか?』


 その言葉に、静流の唇が、ふっと弧を描く。


「ふふ……バルド、カゲトラ、リュカ。あと三人、ね」


 彼女は立ち上がり、窓の外を見やる。煌めく都市の夜景が、彼女の瞳に映り込んだ。


「この特別な情報を、最初に押さえているのは……九条のみ。さあ、世界に先んじて、その三人を保護いたしましょう」


 その声は、静かで、けれど確かな力を帯びていた。


「三人が、どのような漢たちかは、まだ未知数ですが」


 静流は、わずかに口元を綻ばせる。


「調薬錬金術師フェルマの確保が最優先事項。残る五名は、他組織への撒き餌として……ふふ、有効に活用させていただきましょうか」


 その言葉の余韻を楽しむように、静流は紅茶のカップに添えた指先を、軽く弾いた。


 カップが小さく震え、澄んだ音をひとつ、室内に響かせる。


 その瞳は、すでに次の戦場、まだ誰も知らぬ、次なる局面を見据えていた。




ご覧いただき、ありがとうございます。

このお話をもちまして、第1章はひと区切りとなります。

次章では、リュカ・カゲトラ・バルトの三人と、新しい登場人物たちの物語が始まります。

クラウや五星姫サイドは第3章から再登場予定ですので、のんびりと見守っていただけたら嬉しいです。これからも、どうぞよろしくお願いします!

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