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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第一章 戦律の五星姫編

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第29話 重いのは、想いだった



 十八階のボス部屋の空気が、微妙に震えた。


 うたたがストレイにお姫様だっこされている、その光景を斗花、紫乃、冴月は、三人それぞれの心で受け止めていた。


(……うわっ……これ……すげぇ……)


 拳闘士として、体力、瞬発力、勇猛さを重んじる斗花にとって、漢とはただ強いだけのものではなかった。


 目の前の光景……誰もがためらう状況で、迷いなく人を抱きかかえる男の手腕。それは、書きかけの創作ノートに描いてきた理想そのままの本物の漢そのものだった。


(……か、かっこよすぎる……ぜ)


 胸の奥から熱い感情がじわじわと広がってくる。豪快な笑いと拳の力だけで生きてきた自分が、こんなにも心を揺さぶられるとは、理性より先に、心が勝手に震えている。


(……クラウ……)


 冷静な知略家である紫乃の目が、無意識にクラウへと向いた。


 頭では理解している。九条家の悲願ともいえるダンジョン産と同等の性能を有するポーション。


 それを創れるかも知れない稀有で、たぶんこの世界ではない別の世界からやって来たであろうフェルマ。彼は絶対に九条に必要な人材だ。


 如何にして囲い込むか。その戦略もこれから戦うであろうライバル組織の事も考えねばならない。しかし、目の前の(クラウ)は、それらを凌駕する存在感で心を侵食してくる。


(……こんな男が、この世に本当にいるの、ね……)


 策略も計算も、今は意味を失う。クラウの腕の力、佇まい、無言の気高さ。すべてが女としての本能を刺激し、知らず知らず心がときめく。知略家としての自分と、乙女としての感情が、頭の中で混線していく。


(……クラウ……)


 探索の場では象徴であり、精神的支柱である冴月が、いま胸の奥で静かにざわめいていた。王子様系のカリスマであり、凛として誰にも媚びぬ彼女が、かつて祖父の背中に憧れたように。


(……こういう漢に……守られるのが、女なのかも……知れない)


 視線の先にあるのは、静かに、しかし力強く、堂々とした漢の姿。自然体で人を支えるその背中に、心がじわりと熱を帯びる。どこまでも騎士としての立場を崩さずに人を守る男の姿が、冴月の乙女心にそっと灯をともす。


 斗花の胸が高鳴り、紫乃の理性が揺れ、冴月の内心が熱を帯びる。


 三人が目の前の光景をどう感じるかは、それぞれの胸の奥に隠された秘密。それは、誰も口にできない、静かで危うい、ときめきの芽生えだった。


 なんともいえない空気にクラウは、ふと気づいた。


 三人……斗花、紫乃、冴月の視線が、まるで熱い光線のように自分に注がれていることを。


(え? な、な、な、な、なんだぁ!?)


 頭の中で警報が鳴る。視線の熱さ、心臓の高鳴り、空気の張り。幾多の戦場で鍛えた冷静さも、判断力も、この状況ではまったく役に立たなかった。


 女性を尊き御方と敬うあまり、話しかけるどころか遠くから見るだけでテンパるだけの自分が、まさか三人同時にこんな目で見つめられる日が来るとは……思いもしなかったし、その意味も理解が及ばなかった。


 その時、斗花の声が、豪快に、しかしどこか茶化すように響いた。


「クラウ……なら余裕でオレ……ほらオレってこの中では女にしては、一番ガタイがいいだろう? クラウならオレでも抱っこできるんじゃないかな~なんてな」


 その言葉は、まるで雷が頭を直撃したかのようだった。


 クラウの視線が何度も、虚空をさまよう。


(……え、ちょ、ちょっと待って……オレ、な、な、なに言われてる……?)


 胸の奥で、理性が必死に抵抗するも、顔は真っ赤。手は震え、呼吸は浅くなる。


 戦場では一瞬の判断で仲間の命を守ることはできる。しかし、いま目の前に試されているのは……「尊き御方を(かか)える? いや、違う……オレは、オレはテンパってるだけだあああ……!?」


(……う、う、う、うわあぁぁぁ……)


 クラウの心の中で、叫びと混乱が渦巻く。


 斗花はにやりと笑い、腕組みをして胸を張った。クラウはその姿を見て、ますます頭が真っ白になった。


(……いや、待て……これ、どうすれば……!?)


 静寂が支配するボス部屋の中で、クラウの赤くなった顔と固まった身体だけが、完全に浮いていた。


 三人の熱視線と斗花の冗談が、彼の純真な理性をことごとく溶かしていく。


 そう斗花はにやりと笑った……表面は余裕そうに見えた。しかし、その内面は真っ赤。心臓はバクバク、呼吸は早く、羞恥と乙女心で完全にテンパっていた。


「ま、まあ……ものは試しで、オレを(かか)えてみろよォ……」


 声は震えていたが、意地もあった。顔を真っ赤に染め、体を少し前に出す。


 クラウの瞳が、さらに大きく見開かれる。


(……え、え、え、か、か、(かか)える……? ま、まさか……いやいやいや、これは大規模レイドのボス戦でも起きない展開……では!?)


 思考が一瞬で停止したクラウに、斗花はゆっくりと近づく。


 ち、ちかい……! ちかい……ちかすぎる……!


 目の前に立つ斗花は、すでに胸は高鳴り、頬は赤み、そして必死に意地を張るその乙女らしさ……すべてがクラウの理性を溶かしていく。


「お、女に恥かかせるなよ……」


 思わず漏れた消え入りそうな声。騎士として、尊き御方、それも姫と呼ばれる特別な方を悲しませたことを悔やむ気持ちが全身に染み渡った。


 その瞬間、クラウは決めた。


「で、で、では……失礼します!!」


 そのまま、丸太のように、脇の横に斗花を抱え上げる。


「ち、ちがうううううう!!?」


 斗花の絶叫が、ボス部屋中に響き渡った。必死に手足をバタつかせるも、クラウの腕は微動だにせず。顔を真っ赤に染めた乙女の姿が、そのまま可愛く、そして尊く、クラウの腕の中に固定された。


 その横では、うたたを抱えたままのストレイの時は、ずっと止まったままだった。


 うたたの金色の瞳、柔らかな髪、そして無垢な危うさ……すべてが、クラウの隣で抱かれた斗花と同時に、彼の視界の中心に存在する。


 まるで、この空間だけが、時間が完璧に止まってしまったかのようだった。


 斗花は、クラウに抱えられたままふと横を見た。そこには、いまだお姫様抱っこされているうたたがいた。


「あんな感じで……」


 斗花の心の声は、思わず吐息になって漏れた。


 テンパりまくっていたクラウがふとストレイに目を向ける。


 ストレイは心ここにあらずといった表情で呆けている。しかし、ほんの一瞬……瞳に勝ち誇った煌めきが宿った。


(……くっ……負けてはいられない……!)


 無冠の(ともしび)のリーダーとしての誇りが、クラウの胸を熱くした。そして、抱えていた斗花の重みなどまるで気にした様子もなく、片手で器用に抱えなおす。


 斗花の顔が急速に目の前に近づく。二人とも、固まったまま互いを見つめ合う。息遣いが互いに伝わり、世界の時間が少しだけ止まったような静寂。


 しばらくして、やっと斗花が声を絞り出す。


「……オレ……めっちゃ重くないか?」


 クラウは一瞬、耳を疑った。しかし、彼にとって斗花の重さなど五人分あろうが、抱えることに何の支障もない。おもくないか? まったく重くはない。となると、その意味することとは?


「……想いですか……自分にとっては、とても重いですけど、光栄です」


 まさか軽々と抱えられたのに、重いと言われるとは斗花は夢にも思わず、絶叫する。


「はああああああああ!!?」


 真っ赤になった顔をさらに赤く染め、頭の中が完全に混乱した斗花。


 その横で、クラウは騎士としての誇りと純情を胸に、堂々と、しかしどこか照れくさそうに乙女を抱き続ける。


 空間には、時折うたたの金色の瞳と、ストレイの勝ち誇った煌めきがちらりと見え隠れしていた。


 それは、無冠の灯の面々の心が、ぎゅっと空回りして交差した、奇妙で甘い静寂の一瞬だった。



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