第14話 世界が目撃した回復の奇跡
三人はそれぞれ、フェルマから受け取った特級ポーションを手にしていた。
斗花が真っ先に瓶の封を切る。「一億の味ってやつ、確かめてやるよ」と冗談めかして笑いながらも、その手は震えていた。
うたたは眠たげな目のまま、瓶をじっと見つめていたが、「……高い薬って、苦いんだよね……」とぼそりと呟き、くいっと一息に飲み干した。
夜々は無言のまま、瓶を傾ける。その動きは静かで、まるで儀式の席で神酒をいただくような厳かな雰囲気があった。
そして、数秒後。三人の身体がふわりと光に包まれる。それは、春の陽だまりと似た、やさしい温かな癒しにみえた。
最初に反応を見せたのは、うたた。
「……あれ、魔力……全部、戻ってる……?」
眠たげな声のまま、指先をかざすと、空気がふるふると震え、魔力の波紋が広がった。その密度と純度は、まさに戦場を一変させる『国家秘匿級』のそれ。
「……すご。これ、ほんとに特級……」
うたたの目が、ほんの少しだけ見開かれていた。
続いて、夜々。彼女の銀の髪が、光に包まれると同時に、まるで風に撫でられたようにふわりと揺れた。戦いの中でついた煤や血の痕が、跡形もなく消え、肌も髪も、まるでエステを受けた後のように艶やかに整っていく。
「……清めの効果まで……?」
そして夜々の頬から熱がふっと和らぎ、淡い紅がそっと差した。瞳は澄み、静かに光を取り戻す。夜々は自らの手を見つめ、静かに瞬きをした。その表情は変わらないが、その瞳には深い感謝の色がにじんでいた。
そして、斗花。
「……っ、な、なんだこれ……すげぇ……身体が……軽い……!」
驚いたように拳を握りしめ、肩を回す。その動きに、まったく痛みがないことに気づき、目を見開いた。
「……あれ?」
うたたが、じっと斗花の顔を見つめていた。眠たげな目が、ほんの少しだけ見開かれている。
「……斗花。おでこ……」
「え?」
斗花が手を額に当てる。そこには、冒険者になって間もない頃、慢心から受けた十字の古傷があるはずだった。
彼女はそれをバンダナで隠すこともせず、戒めとして、そして自分を律するためのトレードマークとして堂々と晒してきた。
その感触が、なくなっていた。
「……うそ、だろ……?」
その瞬間、うたたが小さく叫んだ。
「すごい……ほんとに、きれいに消えてる……!」
夜々も、そっと斗花の額を見つめ、静かに頷いた。
「……完全再生。あの薬、特級の名に恥じない」
斗花はしばらく呆然としていたが、やがてふっと笑った。
「……あーあ、せっかくのトレードマークだったのになぁ……」
そう言いながらも、声が震えていた。そして次の瞬間、彼女はフェルマの前に歩み寄り、その手をぎゅっと握った。
「……ありがとな。お前、ほんとにすげぇよォ……!」
目元がほんのり赤くなっている。それを見て、フェルマは顔を真っ赤にして、あたふたと手を振った。
「い、いえっ!? ぼ、ぼくなんて、そんなっ、あのっ、手っ、手が……!」
「いいから黙って握られとけ!」
「ひゃいっ!」
斗花の笑顔と涙に、フェルマは完全にフリーズしたまま、耳まで真っ赤になっていた。
フェルマが斗花に手を握られ、顔を真っ赤にして固まっているその様子を、少し離れた場所から見ていたクラウとストレイ。
クラウが、じっとその光景を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……あいつ、どれだけ尊き御方に手を握ってもらってんだ」
ストレイは無言で目を細める。
「…………」
「……どうした、ストレイ?」
しばらく沈黙したのち、ストレイは真顔のまま、静かに言った。
「……俺も、薬師にクラスチェンジする」
「……私も一考に値すると感じている」
二人は無言でうなずき合い、まだ慌てふためいているフェルマを見つめた。
「……あいつ、今まさに歯車生のピークじゃないか?」
「……ああ。間違いない」
【コメント欄】
『え、全魔力回復ってマジ!? ポーションの概念ぶっ壊れてるんだけど!?』
『夜々様の髪、サラッサラになってない!? えっ? エステ機能付き!?』
『うたたちゃんの魔力波、えっ? なんか向上してない……?』
『斗花姐さんの十字傷……消えてる!? え、あれって治らないやつじゃなかった!?』
『トレードマーク消えたのにめっちゃ喜んでいる……斗花姐さん、泣ける……』
『薬師ちゃん(仮)すごすぎて、もはや白印様を越えてない?』
『まさか、あのフードの中は白印様?……それは、ないか』
『てか、あのボクっ娘の薬師ちゃん、何者!? 王国迷宮庁ってどこ!?』
『薬師ちゃん(仮)、尊さで画面がまぶしい……』
『これで真の薬師認定か……!』
『このポーション、課金アイテムでも出ないレベルでは!?』
『一億の価値、納得しかない……』
『てか、斗花姐さんの涙目、破壊力やばい……』
『なんか紫乃様が含み笑いしているのが、こわすぎる』
一方で、同時接続数は止まる気配を見せなかった。
一千五百万、一千七百万、そして、ついに二千万の大台を越えた。
サーバーはすでに限界値を超えており、いつパンクしてもおかしくない状態だった。運営のステータスモニターには、警告の赤いランプが点滅し続けていた。
それでも、モニターの向う側では、誰一人として視聴をやめようとはしなかった。それどころか、噂を聞きつけて、その数は増えるいっぽうとなり、誰もが、今この瞬間を、見届けようとしていた。
【コメント欄】
『二千万!?!?!?!?!?』
『サーバーくんがんばれえええええ!!』
『これもう世界中が息止めて見てるレベルでしょ!?』
『運営さん、冷や汗止まってなさそう……』
『このまま落ちたら伝説になる(いろんな意味で)』
『薬師ちゃん(仮)と斗花姐さんの手つなぎでサーバーが死にかけてるの草』
『誰か魔力でサーバー強化して!!』
『今落ちたら一生引きずるからマジで耐えて……』
『視聴者数がポーションの効果並みにインフレしてる』
『これ、アーカイブ残るよね!? ね!?』
『サーバーのHPがゼロ寸前……! 誰か回復を!!』
『このまま世界記録いけるんじゃ……?』




