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第13話 規格外ポーションの衝撃



 クラウはすっと背筋を伸ばし、剣の柄から手を離す。ストレイも姿勢を正し、静かに頭を垂れた。


 二人は、まるで女王の前に立つかのように、臣下の礼をとる。


 その様子に、紫乃は目を細める。

 

 よほど、自分たちの国に誇りを持っているのだろう。その礼節の深さから、それが自然と伝わってくる。


 とはいえ、紫乃の記憶の中に「ミレディアセイン女王国」という名はなかった。賢者として、数多の国家と歴史を学んできたはずなのに聞いたこともない。


「……その国、どこにあるのかしら? 聞いたことが……」


「いい加減、オレらも失神寸前だぜ?」


 紫乃の言葉を遮るように、斗花が手をひらひらと振って割り込んだ。その顔には、いつもの軽口ではなく、かなりの疲労の色がにじんでいる。


「そろそろ、それ飲んでもいいかい? さっきのも凄そうだったけど、これも効きそう」


 視線の先には、フェルマが手にしている三本の瓶があった。その中の液体は、エリクサーほど鮮やかな虹色ではないものの、揺らめくたびに色を変え、静かに幻想的な光を放っている。


 フェルマは一瞬きょとんとしたが、すぐに恐るおそる瓶を差し出した。


「あ、あの……これは、さきの薬ほどじゃないですけど……それでも、かなり効くかと……」


 紫乃はその瓶に入っている液体に今いちど目を凝らした。その色、粘度、光の屈折、どれをとっても、上級ポーションとは思えない。


「……これは……特級。間違いないですわね」


 思わず口に出た紫乃の言葉に、フェルマはフードの中で頬を赤らめ、何度も小さくうなずいた


「はい!……僕が調合したのですが、王国迷宮庁の標準支給品と同じぐらいには出来ていると自負しています」


 その一言に、紫乃は目を見開いた。ボクが調合した?ということは、このボクっ娘の調薬錬金術師アルケミストとは、やはりポーションを精製できるクラス、そしてこれで標準の出来? ミレディアセイン女王国とは、いったい如何なる国なのか。


 紫乃は、瓶の中の液体を見つめたまま、興奮を隠せない様子だった。その瞳は、まるで新たな理論式を発見した学者のように輝いている。


「この粘度……この光の屈折……まさか、魔力の再構成を液中で……? いえ、それだけじゃないわ。触媒の反応速度が……っ!」


 九条家で指揮をとっているポーション精製の研究者として、紫乃はすでに頭の中でいくつもの仮説と応用案を組み立てていた。


 その口元には、これからのポーション革命に抑えきれない笑みが浮かぶ。


「なあ、紫乃。いいかげん、オレらの生命力も魔力もゼロ寸前なんだけど?」


 斗花が、今度はぐいっと紫乃の肩に詰め寄る。その顔は真剣そのもので、もはや冗談を言う余裕が感じられない。


 紫乃は、ぴくりと眉を動かし、名残惜しそうに瓶から目を離した。


「……ちなみに斗花。その薬に値段をつけるとしたら、少なくとも一億ほどの価値になりますわ。是非とも味わって飲んでくださいね?」


 にっこりと笑いながらも、その声には明らかに、話を途中で遮られた不満がにじんでいた。


「い、一億ぅ!?」


 斗花が思わずのけぞる。その隣で、うたたが半開きの目をわずかに見開いた。


「……え、そんな高いの……? 飲んだら逆に疲れそう……」


 ぽつりとこぼしながらも、目はしっかりと瓶にくぎ付けになっている。


 一方、夜々は瓶の輝きをじっと見つめたまま、静かに呟いた。


「……この人、絶対に只者じゃない」


 その声は小さく、けれど確かな敬意を帯びていた。


 フェルマは、三本の瓶を両手に抱えたまま、目の前の三人を見つめて固まっていた。


 まずは斗花。彼女の鋭い目が「早くよこせ」と言わんばかりにフェルマを見据えている。フェルマはびくっと肩をすくめ、瓶を差し出しながら、声を裏返らせた。


「ど、どうぞっ! あのっ、そ、その……お、お疲れさまでした!」


「お、おう……ありがとよ?」


 斗花は少し呆れたように笑いながらも、瓶を受け取った。


 次に、うたた。量産型地雷系ファッションに身を包み、眠たげな目でじーっとフェルマを見つめている。その視線に、フェルマは明らかに動揺した。


「え、えっと……あの……こ、こちら……で、です……」


 手が震えて瓶がカタカタと鳴る。うたたはそれを見て、ぽつりとつぶやいた。


「……そんなに怖がらなくても、食べたりしないよ?……たぶん」


「ひゃっ……い、いえ、そんなことは……!」


 最後に、夜々。その姿を見た瞬間、フェルマの顔が一気に真っ赤になった。妖艶なくの一装束に、静かに佇むその姿は、まるで夜に舞う幻の蝶。


「…………」


 夜々は無言のまま、すっと手を差し出した。その仕草すら、どこか艶やかで、フェルマは顔を真っ赤にしながら、視線を逸らす。


 しかし、逸らした先がまずかった。


 目に飛び込んできたのは、夜々の短すぎるくノ一装束。布地の少ないミニスカートの下、白くしなやかな太ももが、目にこれでもかっと飛び込んできた。


「ひゃっ……!?」


 フェルマはまるで雷に打たれたかのように、びくんと大きくのけぞり、瓶を落としかけ、慌てて両手で抱え直す。


「す、すみませんっ! ぼ、ぼくは何も見てませんっ……見てませんからね!!」


 夜々は首をかしげたまま、無言で瓶を受け取り、軽く一礼する。その静けさが、逆にフェルマの動揺を際立たせていた。


 その様子を直接みないようにしながら、クラウとストレイは顔を引きつらせながら、そっと視線を逸らした。


「……あいつ、よく頑張ったな」

「うん、俺ならあの御方に薬を直接渡すなんて絶対に無理だった……」

「あいつ……ここに来て成長したな……」



【コメント欄】


『あの鎧の人と魔術師の人、礼儀正しすぎて惚れる……』

『ミレディアセイン女王国ってどこ!? 初耳だけど威厳すごい』

『紫乃様の知識でも知らない国とか、絶対ヤバいとこじゃん……』

『てか薬師ちゃん(仮)のポーション、光り方がエグいんだけど!?』

『紫乃様が興奮してるの初めて見た……これはガチ案件』

『斗花姐さんの「一億ぅ!?」でお茶吹いたわ』

『でも、一億だよ……』

『うたたちゃんの「飲んだら逆に疲れそう」じわる』

『夜々様の「只者じゃない」って言葉、重みあるな……』

『薬師ちゃん(仮)、同じ女に瓶渡すだけで瀕死なの可愛すぎる』

『夜々様の太ももでのけぞる薬師ちゃん(仮)尊い……ま、直で見たらなるか』

『あの二人、兜とフードで見えないけど……明らかに目逸らしてるよね?』

『てかあの薬師ちゃん、ほんとに女の子……? いや、まさかね?』

『真の薬師認定きたなこれ……』

『薬師ちゃん(仮)=伝説の調薬師説、浮上』

『このパーティ、全員キャラ濃すぎて最高すぎる』



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