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プロローグ

のんびり展開につき、ゆるりと読んで頂ければ幸いです。




 五十年前。


 世界は、静かに、でも確かに変わった。


 最初に現れたのは、東京湾の海底だった。続いて、富士の麓。大阪の地下鉄跡。北海道の山中。


 まるで何かに導かれるように、ダンジョンと呼ばれる異空間が、次々と姿を現した。


 その中から産出されたのが、マナクリスタル=魔石。それは、火も水も風も雷も、すべての力を内包した新たなエネルギーだった。


 だが、魔石はただ落ちているわけではない。それを手に入れるには、ダンジョンに巣食う魔物と呼ばれるエネミーを倒さなければならなかった。


 簡単に倒せる魔物からは、ごく稀に。


 苦労して討伐しなければならない強敵からは、高確率で魔石がドロップする。その質もピンからキリまであり、中でもドラゴン、それもネームド級の魔物が落とす魔石ともなれば、単体で国家予算に匹敵する価値を持ち、市場では天文学的な価格で取引されることもある。


 とはいえ、ドラゴンの中でも最強格と呼ばれる災害級の魔物を倒せるならばでは、あるが。


 そして石油もガスも、原子力さえも過去のものとなり、世界は魔石によって再び動き出した。ただし、その代償はあまりにも大きかった。


 男が、生まれなくなったのだ。


 最初は偶然だと思われた。けれど十年、二十年と経つうちに、出生率は百人に一人を切った。しかも、魔力が高くなければ生きられない、やっかいな体質で男は産まれる。


 やがて人々は気づく。


 ダンジョンが魔石を生み出す代わりに、世界の均衡を奪ったのだと。


 それでも人類は、前に進んだ。


 魔石を求め、ダンジョンに挑む者たちが現れた。その頃には人類の大半を占める女性を主として、彼女らは冒険者と呼ばれ、国家に登録され、命と引き換えに、世界を支える存在となっていた。


 そう、ダンジョンはただの洞窟ではない。


 銃も爆薬も、電磁波も通じない。近代兵器は、魔力の干渉で無力化される。そこでは、剣と魔法こそが唯一の力だった。


 魔法。


 それは、ダンジョンの空気に触れた人間だけが使える、第二の力。


 女性は攻撃魔法や補助術に長け、男たちはその高い魔力で唯一、癒しの魔法だけを使うことができた。


 しかし癒しの力は、あまりにも希少だった。


 成人まで生き残れる男は少なく、魔力を持つ者はさらに少ない。女性と違って何故か魔力が高いほど、生命力を削られ、肉体は細く、儚くなっていく。


 その数少ない癒し手の証として、彼らの身体には白印はくいんと呼ばれる白い紋章が浮かび上がる。


 背中、手の甲、胸元など、現れる場所は人によって異なり、魔力が高まると淡く発光するという。


 紋章の形も一人ひとり異なり、その美しさや希少性が話題となり、人気の指標になることさえある。


 今では、白印の写しを模したアクセサリーやタトゥーシールが流行し、熱狂的なファンの間では、推し白印を語る文化すら生まれている。


 しかし、男の身で魔力を扱うのは、酷なのか……彼らは、ひと昔前の『か弱い女性』のように儚く、美しく、そしてこの世界で最も貴重な存在となった。


 その希少性と脆さゆえに、彼らを守り、未来へと繋ぐことは、社会全体の使命とされ、必然的に女性たちは、人工授精によって子を授かるのが一般的となった。


 しかし、そうして生まれてくる子どもの大半は女児であり、男児の出生率は、依然として極端に低いまま。


 一方で、男女の自然な交わりによって生まれた子どもには、五割を越える確率で男子が生まれるという報告もある。


 とはいえ、現代の男たちは、草食を通り越して絶食がほとんど。


 恋愛や女性との接触を避け、静かに暮らすことを望む者が大半で、がっしりした筋肉質の男など、もはや過去の逸話を二次元か創作の中に反映させた存在しかいない、とさえ言われている。


 一方、冒険者となる女性たちは、皆が戦いに耐える強さを持っている。


 魔法を操り、剣を振るい、己の力で生き抜く。男を守るために戦うという価値観が、当たり前になった時代。


 そして現在、ダンジョンは、ただの資源配給元ではない。配信され、視聴され、熱狂される娯楽となった。命を賭けた戦いが、世界中の注目を集める時代。


 その転機となったのが、観測型ドローン魔道具の発明だった。


 登録された冒険者の魔力に反応して追尾するこの小型の浮遊装置は、未踏破の場所を探索することはできないが、ステルス機能により魔物に気づかれず、戦闘の様子を安全に記録・中継できる。


 この魔道具の登場によって、ダンジョンは『魅せる戦場』へと変貌した。


 今や、冒険者の戦いはリアルタイムで世界中に配信され、その一挙手一投足が、娯楽として消費される。


 誰がどの魔物を倒したか、どんなスキルを使ったか、どれだけギリギリで生き延びたか。


 すべてが、数字となって評価される時代。


 それは単なる娯楽にとどまらない。


 企業は冒険者に広告を出し、装備や魔道具のブランド契約が結ばれ、『推し』や『最推し』と呼ばれる冒険者を応援する市場が活性化していった。


 冒険者は戦士であると同時に、スターであり、アイドルであり、象徴となった。


 そんな時代を反映し、その中でも、ひときわ輝くパーティーがあった。


 全員が女性。全員がずば抜けた実力者揃い。


 そしてその中心に立つのは、王子様と呼ばれる、誰よりも美しく、誰よりも強いカリスマ。  

 

 白峰しらみね 冴月さつき


 彼女の一振りは、剣技であり芸術。その微笑みは、戦場に咲く奇跡。


 彼女が画面に映るだけで、配信の視聴数は跳ね上がり、SNSのトレンドを独占する。


『王子様パーティー』


 それは、戦場を舞台にした夢と現実の狭間に咲く、最も華やかな花。

 



読んでくださって、本当にありがとうございます! リアクションをひとつでも頂けたら、元気がわいてきます! 毎日、更新しますので、よかったら次の話も、読みに来てくださいね。

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