第六話 商人となって
イゼルは、情報網を駆使し、セフィラの流浪の場所を探し当てた。彼は、エルフの白いローブを脱ぎ、人間の商人の服をまとい、彼女の逃亡の道に現れた。
セフィラは山賊団の不意打ちに遭い、危機的な状況にあった。騎士団を辞めたばかりのセフィラの肉体は若さを取り戻していたとはいえ、未来の記憶が彼女の判断を鈍らせていた。
そこへ、イゼルが人間の剣を使い、セフィラを助け出した。セフィラは、その予期せぬ再会に驚いた。
「イゼル…どうしてここに?そして、その人間の服は…」
イゼルは、優雅な微笑みを浮かべた。
「あなたの短い時間の流れを深く理解するため、人間社会で交易を始めたのです。この服は、そのためのものだ。そして、私は、あなたの孤独な旅路を深く心配しています。一人の騎士として」
イゼルの肩には、ふさふさとした長毛のミケラが堂々と乗っていた。ミケラは、セフィラの姿を認めると「ニャア」と挨拶し、再びイゼルの肩で丸くなった。
セフィラは、新たな思いを抱いた。
(イゼルは、私が時の流れを乱したことで、永遠の記憶が歪み、運命の修正を図ろうとしているに過ぎないのだ。彼は、私を愛しているのではない。悠久の時空の秩序を守ろうとしているのだ)
セフィラは、自分の愛がイゼルの永遠を狂わせたという罪悪感から、イゼルに冷たい態度を貫いた。
「あなたの永遠を混乱させる意図はありません。私には、私の短い、ですが絶対的な使命があります」
しかし、イゼルは、セフィラの冷徹な態度に屈服しなかった。
「あなたの短い使命とは、具体的に何を指すのですか?あなたは、自らに与えられた運命に断固として抗おうとしている。私は、そのあなたの強い意志こそを愛しているのだ」
イゼルは、セフィラが「未来の記憶を持つセフィラ」を、「運命という大きな流れを克服しようとする、より力強い存在」として愛し、彼女の苦痛を全て共有したいと深く願っていた。しかし、セフィラは、イゼルの真摯な意図に気づくことができなかった。二人は、愛の真実を胸に抱きながら、決定的なすれ違いを続けていた。




