第三話 過去の再現
セフィラはイゼルの警戒心を解くため、未来で二人の関係を深めた過去の出来事を意図的に再現しようと試みた。彼女は未来の記憶を予言書のように使い、イゼルが関わる事件や任務に積極的に介入した。
「イゼル。森の北東にある古代エルフの遺跡には、あなたたちの秘術に関する手がかりが隠されているはずです。私がその警護を担います」
「どうしてその秘密の場所を知っている?」
イゼルは眉間に深い皺を寄せた。
「それは、ごく一部の守護者にしか伝わっていない機密情報だ」
セフィラは焦りを抑えきれず、つい嘘をついてしまった。
「それは未来…いや、騎士団の機密文書で見たのだ!」
イゼルはさらに疑念を深めた。セフィラの行動は、過去の彼女の厳格な使命至上主義とは完全にかけ離れていたからだ。今の彼女は、まるで何かに追われているかのように、必死にイゼルに近づこうとしていた。
「あなたの騎士としての行動規範は、危険な領域にある。まるで、定められた運命の軌道を、力ずくで変えようとしているかのようだ」
イゼルの言葉はセフィラの核心を突いた。自分の焦りが、イゼルに「時の流れに抗う狂気」と見なされている事実に気づき、セフィラは胸が苦しくなった。
疲労困憊で宿舎に戻ると、ミケラが玄関で静かに待っていた。ミケラはセフィラの足元にそっと厚い毛皮の体を擦り付け、セフィラの孤独を慰める。
セフィラはミケラを抱き上げ、静かに呟いた。
「ミケラ、彼に二度目の永遠の後悔という重荷を残したくないの。だから、早く、この愛の誓いを結びたいのよ」
ミケラは「ゴロゴロ」と微かな音を立てるだけで、何も言わなかった。だが、その温かく豊かな毛並みは、「焦る必要はない。時間は大丈夫だ」と無言で伝えているように感じられた。
その頃、イゼルはセフィラの騎士団長グレイスに秘密裏に接触していた。
「グレイス殿。セフィラ殿は、最近、時間に関するおかしな言動をしていませんでしたか?」
グレイスは困惑した表情を浮かべた。
「セフィラは優秀な騎士だが、時々突飛な行動をとる。しかし、彼女の騎士としての使命感は本物だ」
イゼルは、セフィラの使命感と、異常な言動の深刻な矛盾に頭を悩ませた。彼女の愛が本物であることを信じたいが、彼女の心が時間の魔術に囚われているのではないかという恐怖が拭えなかった。セフィラの切羽詰まった愛は、イゼルの心に大きな波紋を投げかけていた。




