第二話 エルフの警戒心
イゼルの冷静な問いかけに、セフィラは凍り付いた。未来では、彼は自分の短い人生の輝きに全てを賭けてくれたはずだ。しかし、今の彼の瞳は、愛の対象としてではなく、一人の騎士としてセフィラを冷静に分析しているだけだった。
「私は、騎士としての責務に対する当然の感謝を求めたにすぎません」
セフィラは動揺を隠して冷静を装おうとしたが、声はわずかに震えた。
イゼルはセフィラの異常な動揺に、さらに疑いの視線を向けた。
「あなたの感情の揺れは、時間の流れを無視しているように見えます。人間は、その短い時間の中で、全てを瞬時に決めてしまうのですか」
長い時を生きるエルフのイゼルは、悠久の時をかけて育まれる真の愛を知っている。セフィラの「未来の記憶」から来る焦りは、彼のエルフとしての価値観と真正面から衝突してしまったのだ。
「私は…あなたの永遠という概念を理解しようと努力しています」
セフィラは未来の知識を武器に説得を試みた。
「あなたが、後に私に残される孤独を恐れていることも知っています」
その言葉で、イゼルの顔から表情が消えた。彼は、セフィラが「未来の自分が抱く孤独」という極めて個人的な感情を知っていることに、深い警戒心を抱いた。
「どうして私が抱くはずのない感情を知っているのですか。まるで…時間を逆行してきた者のようだ」
口を滑らせた過ちに気づき、セフィラは慌てて話題を騎士の使命へと変えた。
「ただ、私はあなたを騎士の責務として守る。それが私の絶対的な使命です」
セフィラがイゼルを騎士宿舎に案内すると、イゼルはすぐにミケラに気づいた。
「この猫は、森の精霊のような威厳を持っていますね。この長く美しい毛皮は、千年の時を経た樹々のようにも見える」
イゼルが優しく手を差し伸べると、ミケラは普段セフィラにするそっけない態度を忘れ、満足げに喉を鳴らしながら、彼の膝に飛び乗った。
セフィラは、嫉妬と諦めが混じった複雑な感情に苛まれた。ミケラだけが、タイムリープ前のセフィラの記憶と感情を持つ自分を、無条件に受け入れているのだ。
「ミケラ…エルフにはどうしてすぐに懐くのよ!」
セフィラは抗議したが、ミケラはイゼルのローブの上で幸せそうに眠り続けた。
イゼルはミケラを撫でながら、セフィラに言った。
「この猫は、あなたとは違い、時間の流れと永遠の価値を本能的に理解しているようですね」
セフィラは、イゼルに懐くミケラを見て、自分の愛の伝え方が間違っていることに気づいた。未来で拒否した「永遠」を、今度は自分が「時間」という暴力で壊そうとしていたのだ。二人の愛は、時間の壁とすれ違いという二重の障壁によって、一層複雑になっていた。




