第一話 タイムリープとすれ違い
激しい頭痛とともに、女騎士セフィラ・レジオスは目を覚ました。それは、壮絶な任務の果てに迎えた、死の瞬間の記憶が鮮明に蘇る覚醒だった。身体は疲労の記憶を訴えているのに、全身は軽い。長年背負ってきた装甲の重みも、戦いで刻まれた傷跡も消えていた。視界に入った騎士団の制服は真新しい。
セフィラはベッドから跳ね起きた。鏡に映っていたのは、28歳で死を迎えた時の疲弊した顔ではない。希望に満ちた、20歳の自分だった。
これがタイムリープだという事実に、すぐに気が付いた。
最後の記憶。王国の国境を守り、力尽きたセフィラに、エルフの守護者イゼルが涙ながらに永遠の愛を誓ってくれた。セフィラは彼を愛していたが、自分の死がイゼルに残す千年の孤独を恐れ、その求婚を頑なに拒否して息を引き取った。
「ああ、なんて馬鹿な私。やっと愛を伝えようと決めた瞬間に、もう終わってしまったのに」
後悔の念に満ちた涙が一筋頬を伝ったとき、足元で小さな「ニャア」という鳴き声がした。
「ミケラ!」
愛猫の長毛種のミケラは、未来ではイゼルにしか懐かなかった気まぐれな存在だ。そのミケラが、セフィラの足元に静かに寄り添い、分厚い毛皮を頬に擦り付けてきた。まるで、この猫だけが、セフィラの二度の人生の記憶を共有しているかのように。
セフィラはミケラを強く抱きしめた。
「あなただけは、この時の流れの異常を覚えているのね」
彼女は決断した。この騎士として残された八年間を、イゼルに捧げよう。未来で犯した拒絶という過ちを、この二度目の時間で償うのだ。
セフィラは未来の記憶を頼りに、イゼルとの最初の出会いの場所へと急いだ。国境の森の奥。密猟者の手からイゼルを救出する、運命の日だ。
息を潜めて待機するセフィラの前に、予期した通り、白いローブをエルフの血で汚した優雅な姿が現れた。
「イゼル!」
再会に胸が張り裂けそうになったセフィラは、剣を収める間も惜しく、イゼルの懐に飛び込もうとする。
「イゼル、長い時を経て、やっと!私はあなたを…!」
しかし、イゼルは驚きと警戒の色をその瞳に深く宿し、セフィラを静かに制止した。
「人間の騎士殿。何をおっしゃるのです。熱に浮かされて夢を見ているのか。短命な人間の一瞬の衝動ですか?」
セフィラの愛の告白は、八年前のイゼルにとっては、不自然で異常な出来事として映ってしまった。運命の交差点で、二人はすでにすれ違い始めていた。




