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ひ孫の顔を見るまでは

 

「乾杯♪」


 母の誕生日に親族一同が集まった。


 2017年、母は95歳になった。父親と夫を次々に失った時は一時的にかなり落ち込んだが、持ち前の明るさと家族や親族の優しさに支えられて、その度に乗り越えてきた。

 その後は大きな病気もせず、元気な体を維持している。耳は少し遠くなったが、大きな声で話しかけると普通の会話が可能だった。

 80歳の時に手術した白内障の予後は良く、毎朝、新聞の隅から隅まで目を通すのが日課になっている。小説も週に2、3冊のペースで読破しており、家族愛が描かれた小説が特にお気に入りのようだ。

 それに、量は減ったが、お酒も毎日(たしな)んでいる。それが健康の秘訣だと信じ込んでいるようだった。今日もすするようにお気に入りのお酒を口にした。


「はなゆりはおいしいね」


 咲が名づけてくれた低アルコール濃度の日本酒をおいしそうに二度三度と口に運んだ。


「おば様、いつまでも元気で長生きしてくださいね」


 咲が母のグラスに少しずつはなゆりを注ぎ足すと、「大丈夫よ。これのお陰で元気いっぱいだからね」と、これからも毎日の習慣は欠かさないと笑った。


「私の健康の秘訣は、はなむらさき!」


 そう言ってグラスを掲げたのは96歳の學だった。自分のために泡酒を開発してくれた咲を愛おしそうに見つめながら、柔らかな笑みを浮かべていた。

 學もすこぶる元気だった。腰は曲がらず、膝の調子も良く、毎日30分の散歩を日課にしていた。奥さんには先立たれた時は落ち込んで元気がなくなったが、咲や音の支えもあって立ち直り、東京の自宅で自立した生活を送っている。


「まだまだ一人でやって行ける。咲や音に面倒をかけるわけにはいかんからな」


 グラスに残っていたはなむらさきをごくりと飲み干した。


「百合子さん、世界最高齢まで頑張ろうね」


 學の言葉に母は大きく頷いた。


「ひ孫の顔を見るまでは死ねません」


 翔を抱くことができなかった一徹や崇のためにも長生きをすると微笑んだ。


「一徹じいちゃんもオヤジもこっちに来るなと言ってるよ」


 醸が2人の遺影に向かってグラスを掲げると、集まった皆も一斉にグラスを掲げた。

 その時、いきなり翔が立ち上がった。


「頑張ります!」


 結婚したばかりの翔が新妻の肩に手を置いて、力んだ声を出した。


「もう~」


 新妻が頬を染めて翔の手を振り払った。 



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