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追い風

 

 翔の成人を祝うように、華村酒店に強いフォローの風が吹き始めた。それは、事業を大空に舞い上がらせるような上昇気流をもたらした。


 2000年代に入り、本格的な焼酎ブームがやって来たのだ。

 芋焼酎が脚光を浴び始めると、九州圏外の消費が大きく伸び始めた。

 特に、東京での消費量が一気に跳ね上がった。

 原料となる芋が足りなくなるという現象まで起こった。

 そして、その盛り上がりは芋以外の焼酎にも波及した。

 蕎麦焼酎にもスポットライトが当たったのだ。


 一方、23区外への出店を加速していた蕎麦割烹『ゆかい』は、中央線沿線、京王線沿線、総武線沿線、東横線沿線へと店を広げ、東京都内で50店舗を展開するまでになった。


 湯山は女性客に的を絞っていた。おじさん向けの蕎麦屋ではなく、お洒落な蕎麦割烹を目指していたからだ。だから、佐久乙女の蕎麦湯割りを新しいお洒落な飲み方として提案していた。


 グラスにも凝っていた。カラフルな肥前びーどろを使ったのだ。もちろんそれは醸が紹介したもので、咲に頼んで送ってもらった肥前びーどろを湯山はたいそう気に入った。

 だから全店で採用して積極的にアピールすると、女性客の反応は予想以上で、「素敵」「お洒落」「可愛い」と、その評判は口コミでどんどん広がっていった。その結果、肥前びーどろで佐久乙女の蕎麦湯割りを飲む女性客が増え、佐久乙女の消費量がうなぎ上りに増えていった。


 それは独占契約を結んでいる華村酒店への発注数量の大幅な増加につながった。そのことは醸にとってとても嬉しいことだったが、同時に欠品しないように在庫を確保する必要に迫られ、少なくなるたびに信州佐久酒造の蔵元に確認の電話を入れた。


「問題ありません」


 蔵元は息子に代わっていた。


「ゆかいの出店計画に合わせて増産投資をしています。ご心配なく」


 あの時の青年は立派な経営者に変身していた。



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