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肩の荷

 

 その1か月後、ふじ棚のカウンターとテーブルは全国から集まった鮨職人で満席になっていた。年に1回の『ふじ棚総会』が始まろうとしていたのだ。ふじ棚で修行して独立した職人たちが今か今かとその時を待っていた。


「待たせたな」


 店主の声と共に特別な料理と日本酒が運ばれてくると、「うまい!」「凄い!」という声があちこちで飛び交った。毛ガニと芋茎(ずいき)の上に利尻産のウニが乗った和え物。ウニのムースに白身魚のウニ包造り。(さわら)のウニ(あん)にウニの天ぷら。ウニの魔術師と言われる大将の面目躍如の料理が彼らを唸らせていた。


 しかし、驚きは料理にとどまらなかった。酒を一口飲んだベテランの職人が目を丸くしたのだ。


「なんですか、この酒は」


 すると店主がニヤッと笑って、「17年寝かせた特別な酒だ」と胸を張った。そして、遺影を掲げて、「この人が命を削って守り育てた特別な酒だ」と言って職人たちに醸を紹介した。


「跡を継いだ醸さんだ。贔屓(ひいき)にしてやってくれ」


 この一言が華村酒店に幸運をもたらした。ふじ棚を卒業して自分の店を構えた全国の職人たちから次々に注文が入るようになったのだ。

 醸は古い順番から出荷していった。16年物、15年物、14年物……。そして、新しい倉庫に空きができると、父親がしたように店の奥の倉庫の床下にある古酒を古い順に移していった。


        *


 醸は新しい倉庫の一番いい所に父の写真を置いた。ここには父の分身ともいえる選りすぐりの古酒が並んでいるからだ。


「ここにいると幸せだろ」


 遺影に向かって話しかけた。


「熟成できるように見守って下さい」


 そして手を合わせてから一つの報告をした。それは取引再開の報告だった。取引のある30の酒蔵すべてに送った礼状を遺影の前に置いて、文面を読み上げた。


『大変なご心配、ご迷惑をおかけ致しましたが、新酒の仕入れを再開することができるようになりました。父の時と同じ量の注文はまだお出しできませんが、少しずつでも増やしていければと思っております。力不足の若輩者ですが、祖父や父と変わらぬご厚情を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます』


 読み終えて、注文控を遺影の前に置いた。


「不義理をしたけど、少しだけ仕入れることができるようになったよ」


 報告した瞬間、肩の荷がほんの少し下りた気がした。



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