父の具合
「お前たちが帰って来てくれて家が明るくなったよ」
帰国して1週間ほど経った頃、父が嬉しそうな声を出した。
醸は頷いたが、笑みを返すことはできなかった。ちょっと動くと息切れする父の様子が気になって仕方がなかった。
「重い荷物の上げ下ろしは俺がやるから」
少しでも休ませようと力仕事をすべて引き受けたが、家を離れていた間に一気に老けた父の変化に戸惑いを感じていた。すまんな、というような表情で椅子に腰を下ろす父の体が小さく見えたし、白髪だらけの頭や目の下の大きな弛みを見ると切なくなってきた。皺やほうれい線も驚くほど深くなっていて、痛々しいほどだった。
歳を取ったな……、
父の前で思わずため息が出そうになった。その度にぐっと堪えたが、心配は募るばかりだった。それは幸恵も同じようで、病院に連れて行った方がいいと何度も急かされたが、連れて行こうとすると、頑なに拒み続けた。
「なんでもない。少し休めばよくなるのだから余計な心配はしなくていい」
毎回これの繰り返しだった。しかし、なんでもないわけがなかった。明らかに具合が悪そうだった。
*
ある日、父が前胸部を押さえて苦しそうにじっとこらえているところを見てしまった醸は、配達の帰りに図書館に寄って、心臓の病気について書かれている本を借りて帰った。
虚血性心疾患、狭心症、心筋梗塞という病名が並んでいた。
その症状は父の症状に酷似していた。危険因子としては、喫煙や糖尿病、高脂血症、肥満、運動不足などがあると書かれていた。
父はタバコは吸わないし、肥満でもないのでその点は心配なかったが、糖尿病や高脂血症に罹患しているかどうかはわからなかった。病院嫌いの父は受診はおろか健康診断も受けていなかったのだ。
「どうして健康診断を受けさせなかったの?」
「どうしてって言われても、あの人、病院が嫌いだから、私が言っても聞かないのよ」
母は、打つ手なし、というふうに両手を広げた。
「俺の言うことも聞かない。頑として首を縦に振らない。困ったもんだよ」
醸は母と顔を見合わせて、ため息をついた。
「なんとかして病院に連れて行こうと思うけど、それまでは無理をさせないようにしないとね。過度の疲労と睡眠不足、それに激務やストレスが発症への引き金になると書いてあるから」
醸は腕組みをして、どうしたものかと思いを巡らせた。




