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帰国

 

 雪が舞う横浜港に着いた醸と幸恵は華村酒店へ急いだ。


 祖父は大丈夫だろうか? 

 父の体の具合はどうだろうか?


 不安を抱えたままの移動が長くもどかしく感じた。


 電車を乗り継いで実家に辿り着いた醸は、店頭に立っている父の姿を見て、ほっと胸を撫でおろした。


 元気そうでよかった……、


 その場でへたり込みそうになったが、心配はもう一つ残っていた。


「おじいちゃんは?」


「奥の部屋で待ちかねているよ」


 ただいまとも言わず、幸恵も紹介せず、醸は奥の部屋に急いだ。


 襖を開けると、懐かしい顔が目に飛び込んできた。


「おじいちゃん」


 呼びかけると、布団の中の小さな体が醸の方に向き直った。


「おかえり」


 懐かしい声だった。顔色は良くなかったが、柔らかな笑みを浮かべていた。


「大丈夫?」


 祖父は小さく頷いたあと、醸の隣に座る幸恵に視線を移した。


「この人かい?」


「そうだよ」


 幸恵に向かって頷くと、「初めまして、愛夢幸恵と申します。よろしくお願いいたします」と両手をついて頭を下げ、布団の反対側に座る両親に対しても両手をついた。すると、父は慌てて胡坐(あぐら)を正座に変えて笑顔を作ったが、どこかぎこちなかった。


「お会いできて嬉しいわ」


 母は正座した足の上に手を置いてゆっくりと頭を下げ、祖父に視線を移した。


「お父さん、こんなにきれいな娘さんが醸と一緒に帰って来てくれて、よかったね」


 すると祖父は、うんうん、と小さく何度も頷いてから幸恵に視線を向け、「疲れただろ。ゆっくりしなさい」と孫を見るような穏やかな目になった。


        *


 帰国前に両親は近所のアパートを借りる手配をしてくれていたが、来月にならないと部屋が空かないので、しばらく実家の2階で生活をすることになった。


 同居はかなりの負担をかけるのではないかと心配したが、幸恵はそんな素振りを見せることなく、それどころか一徹や両親と積極的に交流して、一気に華村家に溶け込んでいった。

 特に母とは馬が合うようで、初日から家事の合間に笑い声が漏れるようになった。普段男に囲まれている母にとっても幸恵は可愛いようで、実の娘のように接していた。

 父は照れ臭いのか声をかけることは少なかったが、それでもウキウキしているような素振りを隠すことができないようだった。

 寝ている時間が長い祖父も嬉しそうで、奥の部屋に食事や水を持っていく度に「ゆきちゃん」と必ず声をかけて二言三言話をしていた。特に、幸恵が手や足を擦ってくれるのが嬉しいらしく、度々笑顔がこぼれるようになった。



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