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望郷

 

「あっという間だったね」


「本当ね、あっという間に1年」


 醸と幸恵はオレンジ畑が見下ろせる高台にいた。日は傾き始めていたが、まだ陽射しは強く、醸の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。左隣に座る幸恵の指は草と戯れていたが、手の甲は小麦色に焼け、連日の屋外作業の影響を発信しているようだった。


 彼女の右手が草から離れて醸の左手小指を愛おしそうに撫でた。


「くすぐったいよ」


 笑うと、幸恵が肩に持たれてきた。すると、シャンプーの甘い香りがした。大好きな香りだった。髪に顔を埋めた醸は幸恵の左肩に手を回して、そのままゆっくりと草むらに背をつけた。


「眩しい」


 幸恵が体をくるっと回して醸の胸に顔を付けた。それで、両脇に手を差し込んで体を引き上げると、「恥ずかしい」と頬を赤らめるような声を出した。それが余りにもかわいらしかったので唇に触れると、「ダメ」と幸恵は辺りを気にした。


「大丈夫」


 構わずキスを続けていると、いきなり風が吹き上げてきて、スカートがふわっと浮いたようになった。すると、幸恵は慌てた様子でスカートを押さえて体を離し、「エッチな風」と呟いた。それがまたとてもかわいかったので、ごろんと転がって上に被さると、「エッチな醸」と甘えたような声が口から漏れた。


「かわいいんだから仕方ないだろ」


 左目、右目、鼻、唇にキスを重ね、耳にキスをしている時、しょっぱい水が流れてきた。幸恵の涙だった。


「どうしたの?」


「うん、こんなに幸せでいいのかなって」


 その言葉は醸を有頂天にさせたが、自分達だけ幸せになって申し訳ないというニュアンスも感じられた。


「日本が恋しい?」


「ううん。でも、しばらく帰っていないから……」


 2人が日本を離れてから4年半が経とうとしていた。


「どうしているかな、みんな」


「そうね、どうしているかしら」


 醸は両親と祖父を、そして、咲と音のことを思い浮かべた。

 幸恵は両親と姉のことを考えているに違いなかった。


「どうしているかな……」


 2人の呟きが重なった。



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