表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/89

フランス:『SAKE・BAR:FUJI&SAKURA』

 

 學はフランスでの受け入れ準備を始めた。

 最初の一歩が肝心だと言い聞かせていた。


 日本酒をまったく知らないフランス人にどうやってアプローチするか、


 考え続けた結果、日本での成功体験をフランスに持ち込むことを思いついた。その成功体験とは、百合子のアイディアを基に開催した華村酒店での試飲・試食会だった。學はあの時の言葉を思い出していた。


「日本人のほとんどはシャンパーニュもチーズも知らないと思うの。その人たちに買っていただくためには先ず興味を持ってもらうことが必要かなって、そう思うけど、違うかしら」


 その通りだった。百合子の指摘は当たっていた。だから、〈日本人〉を〈フランス人〉に、〈シャンパーニュ〉を〈日本酒〉に、〈チーズ〉を〈日本食〉に置き換えればいいのだ。


「フランス人のほとんどは日本酒も日本食も知らないと思うの。その人たちに買っていただくためには先ず興味を持ってもらうことが必要かなって、そう思うけど、違うかしら」


        *


 早速、パリの中心部で店を探し始めた。日本酒を気軽に楽しめるバーを開店するためだ。それは、単に日本酒の認知を広げるという目的ではなく、パリジャンやパリジェンヌに大きなインパクトを与えるための起爆剤という意味合いを持っていた。


 その想いが通じたのか、それとも何かの力が働いたのかわからないが、シャンゼリゼ通りに面した小綺麗な貸店舗に巡り合うことができた。


 直ちに賃貸契約を結んで開店準備を始めた。それでも、初期投資に金をかけることはできないので、備品や厨房用品はすべて中古品で揃えた。

 但し、外装と内装には手を抜かなかった。イメージに直結するところへの出費を出し惜しんだらブランド・イメージに影響が出るからだ。それはレピュテーション〈評判〉にも影響を及ぼすだろうし、一度悪い噂が出ればそれを回復するのは難しい。だから、富士山と桜のイメージを品よく表すデザインにこだわった。

 その上で、開店初日に特別なイベントを企画した。日本を、そして、日本酒を紹介するための特別なイベントとスペシャルゲストで招待客の度肝を抜くためだ。


        *


『SAKE・BAR:FUJI&SAKURA』が開店する日を迎えた。學はそわそわして落ち着くことができなかったが、ドアが開く音を聞いて、気が引き締まった。


「いらっしゃいませ」


 視線の先にはチラシを持った3人の女性グループがいた。そのチラシの文言は學が考えたものだった。


『日本から来た父と娘の日本夢語り。日本からの船旅と、日本の酒文化や食文化のご紹介。日本人が魂を込めて造ったSAKE「FUJI・SAKURA」と日本食の試飲・試食つき!』


 この日に合わせて、大学院を卒業したばかりの咲を呼び寄せていた。日本酒の苦手な自分にSAKEの紹介は難しいからだ。

 対して咲はどんな酒でも飲むことができた上に、日本酒にはめっぽう強かった。それだけでなく、醸造学の修士という立派な肩書があることに加えて、大学院時代にフランス語を習得していた。咲がいれば正に鬼に金棒だった。


 開店初日のイベントは大成功だった。チラシを持った人が続々と押し寄せ、閉店まで満席状態が続いた。特に、専門知識に裏打ちされた咲の説明と佐賀県から持ち込んだ切子グラス・肥前びーどろに純米極上酒FUJI・SAKURAを注ぐ美しいパフォーマンスに誰もが魅了された。


 評判は口コミで一気に広まった。その評判を聞きつけたマスコミの取材が殺到し、咲は一躍有名人になった。その影響は大きく、FUJI・SAKURAに加えて、肥前びーどろが飛ぶように売れた。


 學の喜びは大きかった。予想外の成功に我を忘れるほどだった。それは學だけではなく関係する誰もが浮かれていたが、咲に浮かれた様子は見えなかった。仕事が終わったあとに笑みはなく、何かを深く考えているようだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ