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北海入魂酒造

 

「よう来たな」


 顔に深い皺を刻み込んだ杜氏が迎えてくれた。


 崇は一徹と共に日本最北の酒蔵を訪ねていた。北海入魂酒造。辛口の酒『北海誉』で有名な酒蔵である。今年70歳を迎える杜氏と一徹の付き合いは30年以上に及ぶという。


「代替わりすることになりましてな」


 一徹の言葉に驚きながらも、杜氏は羨ましそうに呟いた。


「俺も代替わりしたい」


 杜氏の仕事は重労働である。厳しい寒さの冬場に泊まり込みで酒造りを行わなければならない。しかも、酒造責任者として蔵の管理だけでなく(もろみ)の仕込みと管理、帳簿管理や蔵人のマネジメントにまで気を配らなければならないのだ。


「体も気持ちも年々しんどくなってな」


 兵庫県出身の杜氏が大きなため息をついた。一徹は労うように頷きを返した。


        *


 その夜、蔵元が自宅に招いてくれた。大きなテーブルの上には北の海の幸が豪華に盛りつけられていた。毛ガニ、ズワイガニ、ボタンエビ、ホタテ、紫ウニ、蝦夷(えぞ)アワビ、ホッキガイ、春に旬を迎える垂涎(すいぜん)の食材が並んでいた。


「代替わりですか……」


 寂しそうな表情になった蔵元が一徹に北海誉を注いだ。


「大変お世話になりました」


 一徹がお猪口を掲げたまま頭を下げると、「30年……、長いようで、あっという間でしたね」と蔵元はしみじみとした口調になった。


「本当、あっという間でした。しかし、この酒と出会えて幸せでした」


 北海誉を慈しむように飲み干すと、「華村さんと出会えて私も幸せでした」と蔵元は一徹のお猪口に徳利を傾けた。


「崇さん、でしたね」


 頷くと、心配そうな顔で蔵元が見つめた。


「華村さんのあとは大変ですよ。日本広しといえどもこれだけ日本酒を愛する酒屋の主人は滅多にいない。華村さんだから付き合うという蔵元や杜氏も多いから、崇さんは苦労するかもしれませんね」


 崇はどう反応すればよいのかわからなかった。一徹に対する褒め言葉としては最高だが、後継者としては不安が募る言葉だった。蔵元の心配が当たらないことを祈るしかなかった。



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