第6話 日本平ダンジョン入り口
まずはバスに揺られて日本平ダンジョン入り口に向かった。
ミリアはバスの中でじっと外を眺めていた。
その瞳はキラキラとしていて、とても綺麗だ。
しばらく眺めてしまってから、目がこちらを向いたので、気まずくなって視線を逸らす。
「どうしました?」
「いや、瞳が綺麗だなって思って」
「うふふ、ありがとうございます。誉め言葉だと思っておきます」
「おーいえす」
ちょっと声が裏返ってしまった。
「私、親が失業してて、実質、兄に育てられたんです」
「そうだったのか」
「だから冒険者が血塗られた職業だっていうなら、私も同罪も同罪……」
「それは、違う!」
「そうですか。そういう風に言う人に何人も会ってきました」
「言わせておけ」
「はい……」
ちょっと悲しそうに顔をゆがめた後、再び視線を外の森へ移す。
バスは日本平の山道を登っていく途中だ。
彼女は女子高生でも、そういう風に言われていたのか。
どんな気持ちだったのか、想像するのも難しいが、いろいろな思いがそこにはあるのだろう。
動物保護団体などは今でも冒険者がモンスターを狩るのに反対している。
モンスターと戦い、倒して戦利品をえる。
それが野蛮だという指摘は古今東西に存在していた。今もそうだ。
それが事実ではないとは言い難いが、必要なことなのだ。
今ではモンスター資源は現代社会の発展に必要な素材となっている。
レアメタルのようなもので、最新科学では必須の材料なのだ。
さらにモンスターがダンジョンから出てきている事実がある。
これに対抗できるのは冒険者と警察の特殊部隊、自衛隊の一部部隊のみだ。
万が一のため、戦力として必要ともされていた。
冒険者を育てるのは防衛力の強化につながる。
これがモンスター災害からの予防には必須で、なくてはならない事情があった。
日本平ダンジョン入り口に到着した。
みんな降りていく。周りの九割は男性だ。
おっかなびっくりしながら僕とミリアもバスを降りる。
ここが終点なので全員降りて、山を下る人たちがバスに乗り込んでいくのが見えた。
「ここは初めてではないですが、緊張してきますね」
「だよな。僕も同じだよ」
「川口さんもけっこうベテランなのにですか?」
「うん。ここは死への入り口、確率は低くても、事実だ」
「はい……」
実際にそうやって斎木さんが命を落としたのだから。
これは脅しではない。
「おむすび買っていこう」
「え、はい?」
「コンビニ」
「あ、はーい」
僕たちはコンビニに寄っておむすびを買う。
「夕飯、さっき食べましたけど」
「これは、おまじない。スライムとかテイムモンスターはおむすび好きだから」
「あーそういう」
「そっ」
「なるほど」
「それから、もしお腹がすいたら、普通に食べてもいい」
「ですよね」
「もちろん」
ちょっとおどけて言うと、わははとミリアも笑った。
笑顔が特にかわいいと思った。
冒険者ギルド日本平支部に入ると、視線が痛いほど突き刺さる。
特に男性からの。それから興味津々の受付嬢たち。
「あれ、リオンちゃんだよな。かわいい子連れてるけど、誰だっけ」
「俺見たことある、斎木さんの妹さんだよ」
「あー俺も写真自慢されたわ、そういえば」
「あの子が、斎木さんの妹だと!?」
「よくあの鬼軍曹からこれだけかわいい子が生まれたよな」
「いや、生まれてないから。妹だって」
なにやら男性グループがこちらを見つつ、談笑している。
僕たちは話題の人ということだろう。
「リオンちゃん、この前マジック・バッグ当てたんだろ」
「らしいね」
「いいなぁ、俺も欲しい」
「俺はリオンちゃんごと欲しいな」
「そう言うなって。俺も欲しい」
ちょっと寒気がする。
僕が闇取引されているみたいじゃないか、やめてくれ。
「川口さん、なんか言われてますが」
「気にしたら負けだ。ここは噂話をするためにたむろするスペースなんで」
「そうだったんですか」
「うん。それとリオンでいいよ」
「リオンさん? リオンちゃん!」
「あ、うん」
「いひひ、リオンちゃーん」
そういうと抱き着いてくるミリアちゃん。
周囲がうおぉおおと湧いていた。
急にそういうことするなし、心臓に悪い。
「えへへ」
「急に何を」
「かわいいから、ずっと抱きしめたいなって思ってました」
「まあ、ほどほどに」
「はーい」
周りから、うらやましそうな視線が向けられている気がする。
いや、お前らにはしないぞ、ハグとか。
絶対しないって。
ブンブンと首を振ると、みんなうれしそうにニヤッってしていた。
なんだ、その反応。なんか怖い。
受付嬢には一応、挨拶と自己紹介をさせる。
更衣室に向かい着替えてくる。僕は男子更衣室から女子更衣室に追い出されていた。
それぞれに与えられたロッカーの前で着替えて再び合流する。
それからDPを支払ってマジック・バリアの魔法を専門の係官にかけてもらう。
ちなみにマジック・バリアは規約で決まっているので、タダでダンジョンに入ることはできない。
「では」
「いきますか」
ダンジョン入り口のほうのドアをくぐる。
この先すぐにダンジョンの入り口が口を開けていた。
中からほんのり涼しい風が吹いてくる。
それから、かすかに感じる魔力波に、モンスターの気配が漂っていた。
「緊張します」
「まあ、入っちゃえば洞窟だから」
「電気、つけますね」
「おう」
頭のヘッドライトをオンにする。
僕も同じようにして、明かりが照らされているのを確認して、進んでいく。
中は迷宮区とも言うダンジョンだ。
地図はあるものの、迷う人は迷う。
そして五時間のタイムリミットがある。タイムリミットを過ぎてゴブリン・マジシャンに遭遇でもすれば、ジ・エンドである。
洞窟の壁左右には一面にヒカリゴケが生えていて黄緑色の光を放っていて全体的にほんのり明るい。
その中をヘッドライトの強い光を照らして歩いた。
いつの間にか無駄話もせず、二人は洞窟を進んでいく。