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【恋愛 現実世界】

黒血女王の末路

作者: 小雨川蛙

 

「ねえ」

 あなたの声が奇妙な程、はっきりと聞こえた。

 耳から血が出てしまいそうなほどに辺りは激しい音で支配されているのに。

「あなたは最後の瞬間は何をしていたい?」

「あなたはこんな時でも普段通りですね」

 僕の声は聞こえていただろうか。

 そんな不安はあなたが返した微笑みで胡散する。

「僕は一番大切な人と共に過ごしたいです」

「そう。なら私と同じね」

「叶いませんでしたね」

 皮肉を言うつもりはなかった。

 ただ、それ以外のどんな言葉をあなたに言えば良いのか分からなかった。

「残念。私の願いはしっかり叶ったよ」

 そう言ってあなたは軽くウインクをした。

 その僅かな所作に僕は自らの心が永久に囚われてしまうのを確信しながら問う。

「本気で言っているのですか?」

「ええ、もちろん」

 そう言って彼女は静かに横たわり、僕は覚悟を決めて仕事道具を手に取る。

「国民を愛していたと?」

 問いかける。

 世界に響いていた音が白々しいほどに明確になった。

「暴君を殺せ! 首を刎ねろ! 血に飢えた悪魔め!」

 長く続いた政争の果てに、あなたが冠の代わりに戴くことになったもの。

 死んだ人間の血を啜るなどとさえ呼ばれたあなたに対する聞くに堪えない侮辱の数々。

 かつては、あなたを称えていた国民達の声。

「まさか。そんなはずないじゃない」

 あなたの声が真下から聞こえる。

 僕は斧を振り上げる。

「私はあなたを愛していたのよ」

 振り上げた斧が落ちるのが一瞬だけ止まった。

 止めてしまった。

 僕にしか認識出来ないはずの時間の中で、あなたは確かに言った。

「あなたは私の敵を皆、殺してくれたから」

 音がした。

「ありがとう」

 聞き慣れた音だ。

 歓声があがった。

 立ち眩んでしまいそうなほどに。

 果たして、この歓喜がいつまで続くのだろうかと僕は思いながら首を拾い上げた。

 僕が死するその時まで遂ぞ頭から離れることはなかった、女王の首は。

 まるで嘲笑うかのように穏やかな笑みを人々に向けていた。




 後世に黒血の女王と呼ばれていている女帝の愚行や悪行は枚挙にいとまがない。

 そんな彼女の末路を描いている『黒血女王の末路』と呼ばれる作品は、恐怖に歪んだ滑稽極まりない表情をした女王の首を処刑人が掲げている。

 正史にある数々のエピソードが全て事実であるならば、この作品における黒血女王の末路はまさに相応しいとしか言いようがない。

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