すべてのはじまり。
「ハル、一緒に行こう?」
これが、ハルのはじまりの言葉だった。
もちろんそれ以前にもハルという個人は存在していたし、その記憶が辛いものだったわけでもない。
「うん、りーくん」
それでも、今の三加島ハルという人間の起点があるとするならば、こう言って頷いた瞬間だったことは疑い得ない真実なのだ。
ものごころついた時からずっと一緒だったリヒトが一緒ならば、たとえ母と呼んでいたひとから離れねばならなかったとしても悲しくはないと思えたことは一種の奇跡だったかもしれない。
それからの十五年間は、ハルにとってなんと安穏とした日々であったことか。
「ハル、付き合っちゃおうか?」
しかし、その日々を終わらせ、そしてはじまらせたのもまたリヒトであった。
恋人同士、という関係のはじまりである。
「うん、りーくん」
躊躇いなく頷いたこのときを、ハルは何度も後悔することになる。
それでも、ものごころついた頃からの一緒にいるという関係は変わることなく、どんなに迷って後悔したとしてもハルの答えが変わることはなかっただろうこともまた、事実だった。
すべてのはじまりには、リヒトの誘いがありハルの答えがあった。
そんなハルのはじまりにも、ついにまたおわりがやってくる。
それが、今回のはなしのはじまりなのだ。