2話
ユウナに連れられ、カイはバリアーズの|本拠地⦅ほんきょち⦆へと向かった。
そこで、彼は多くのことを聞かされた。
バリアーズには|東西南北⦅とうざいなんぼく⦆と中央地区の5つの支部があり、ユウナは中央本部に所属しているという。
バリアーズの主な目的は、ギフトを適切に管理し、社会の治安維持を図ることだ。
その活動の中で最大の障害となるのが「|災厄の王⦅さいやくのおう⦆」である。
その正体は不明だが、奴はギフトを集めるために誘拐や殺人を繰り返しているのだという。
「そいつのことは知ってる。僕の家族を殺したのも奴だから……」
「ふーん、珍しい話でもないわね。バリアーズのメンバーにも災厄の王に家族を殺された人は多いわ」
「まさか、ユウナも?」
「ええ、父親もバリアーズだったの。|厄介⦅やっかい⦆な存在だったんでしょうね」
ユウナは|淡々⦅たんたん⦆と語り、その表情からは悲しみというよりも、既に割り切っている様子が伺えた。
「ユウナは……強いんだな」
カイがそう言うと、ユウナは突然顔を赤くし、カイの頭を軽く叩いた。
カイが襲われた理由もギフトが目的らしいが、彼自身、自分の【ミラージュ】がそんなに欲しい能力なのか疑問に感じていた。
そんな話をしながら、バリアーズの本部に到着した。
都心部にあるビル一棟がバリアーズの本拠地であり、内部には充実したトレーニングルームや訓練場、仮眠室などが整備されていた。
「ボス、彼を連れてきました」
ユウナが声をかけると、そこにはロン毛のハンサムな男性が立っていた。
「君がカイか。突然連れてきて悪かったな。俺がここのリーダー、葵蓮司だ。よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
「さっそくだがまず、バリアーズについて教えていこう」
「いえ、さっきユウナから大体のことは聞いたので大丈夫です」
「おっ、もう仲良くなったのか。ユウナも歳が近い奴が入ってきて嬉しいんだろ?」
「やめてください、別にそういうわけではありません」
ユウナは全力で嫌な顔をしていた。
「今、出払ってる奴もいるが、まずはメンバーを紹介していこう」
そう言うと、彼らはトレーニングルームへ向かった。
そこで、|尋常⦅じんじょう⦆ではないスピードでバーベルを上げる男――いや、漢がいた。
「彼の名前は|豪炎寺⦅ごうえんじ⦆アキラ。炎のギフト【イグニッション】を使う、とにかく熱血な奴だ!」
「すごいですね……ガラス越しでも熱さが伝わってきます」
ボディービルダーでも目指しているかのような鍛え上げられた体は、とにかく威圧的だった。
「お前が新人か。よろしくな」
「天城カイと言います。よろしくお願いします」
握手を交わした後、次のメンバーの元へ向かった。
次に訪れたのは|機械室⦅きかいしつ⦆だった。
そこには、前髪で顔が覆われた、ミステリアスな|雰囲気⦅ふんいき⦆を持つ青年がいた。
「彼の名前は神楽坂レン。レンのギフトは【シャドウ】。影を操る能力だ」
「よろしく」
「天城カイです。よろしくお願いします」
一言交わすと、レンは再びパソコン作業に戻った。
「今いるメンバーはこれだけかな。あと3人いるけど、任務でいないから戻ってき次第紹介するよ」
ユウナも含め、他のメンバー全員が強そうに見えた。
先日の一件で少し自信がついていたカイだったが、その自信は再び失われてしまった。
次に、カイがこれから住むことになる部屋へと案内された。
隣の部屋を見ると、ドアに「Yuna」と書かれたネームプレートが貼られていた。
ちょうどその扉が開く。
「げっ……もしかして、あんた隣の部屋?」
「ああ、そうみたいだ。よろしくな」
「まあ、ちょうどいいわ。訓練の相手になりなさい」
「わかった……」
逆らえないカイは、言われるがままに訓練を受けることに。
しかし、何度挑んでもユウナに勝てない。
「ほんと、弱いわね」
「しょうがないだろ、さっきまで普通の学生だったんだから……」
その時、ユウナが冷たい視線をカイに向けた。
「そんな言い訳をしているうちは、まだまだね」
捨て台詞を残し、ユウナは訓練室を後にした。
訓練室の真ん中で打ちひしがれているカイに、蓮司が近寄った。
「厳しく感じるか? ユウナがここに来たのは10歳の時なんだ。彼女の両親は災厄の王に殺されてしまってな。だから、ここで引き取った。それ以来、彼女は努力を惜しまず、ここまで強くなったんだ。カイもこれから頑張っていけばいいさ」
カイは自分が恥ずかしくなった。
部屋に戻る前、隣のユウナの部屋の前に立ち、ドアに向かって呟いた。
「さっきは言い訳してごめん。俺、強くなるから……おやすみ」
特に反応はなかった。
数十秒が過ぎた後、カイは自室へと戻った。