1話
この世界では、10歳になると神から天恵が与えられる。
一つの異能の力を授かるのだ。
僕も、当時はその日を楽しみにしていたことを今でも鮮明に覚えている。
しかし、すぐに落胆した。
僕に与えられたのは「景色を歪ませる」という、なんともショボい能力だったからだ。
その名は【ミラージュ】――僕の最弱のギフト。
それから6年が経ち、16歳になった僕は高校生として普通の生活を送っていた。
特別なヒーロー願望があるわけではない。
いや、少しはあったかもしれないが、この能力で人助けをするなんて馬鹿げていると思っていたし、年を重ねるごとにその期待は薄れていった。
僕は特別な存在じゃなかった。ただ、それだけのことだ。
ある日の帰り道、幅5メートルほどの道路の真ん中にフードを深く被った男が立っていた。
「お前が天城カイか?」
「ええ、そうですけど」
フードの中から白い歯が見え、男はニヤリと笑った。
「悪いが、死んでもらう」
「え?」
そう言うと、フード男が拳を振りかざしてきた。
突然のことに驚き、僕は|反射的⦅はんしゃてき⦆に腕を上げ、身を小さくした。
ドン、と|衝突音⦅しょうとつおん⦆が響き、後ろのコンクリートの壁が粉砕された。
「今のは当たったはずなのにな……お前のギフトか?」
僕は手を前にかざした。その瞬間、僕の姿がフード男の前から消えた。
「ボスから聞いていた能力とは違うな……」
遠くで僕が走って逃げるのを見つけ、男は追いかけてきた。
なぜ狙われているのか分からない僕は、ただひたすらに逃げ続けた。
あの拳に当たったら命はない、と直感で感じたからだ。
工事現場の跡地まで誘導し、ようやく男を追い詰めた。
「遂に追い詰めたな」
「動くな、追い詰めたのはこっちだ。この場所は鉄骨だらけだ。俺のギフトは鉄を自由自在に操る能力だ。お前の負けは確定だ、降参しろ」
「はっ、そんなハッタリが通用するかよ。お前のギフトは敵の視覚を誤認させるだけのショボギフトだろ?」
「ふっ、どうかな。やってみろよ」
「言われなくても殺してやる」
男は一気に距離を詰め、僕を掴み、そのまま思いっきり殴った。
だが、彼が掴んだのは僕ではなく、工事現場の柱だった。
衝撃で建物が崩れ、フード男はその下敷きになった。
「ふぅ、助かった……」
心臓の鼓動がまだバクバクと鳴り止まず、興奮状態であることが分かる。
こんなクソみたいな能力でも、使い方次第では戦えるんだ。
僕は拳をギュッと握りしめ、勝利の余韻に浸った。
その時、可憐な美少女が現れた。
「あなたが天城カイですか?」
「え? ああ……」
彼女は優雅に一礼した。
「私の名前はユウナ。あなたを助けにきたのだけど、どうやら自分で解決したみたいね」
「何者なんだ?」
僕は次々と起こる出来事に混乱していた。
「私はバリアーズという、ギフトの治安維持を目的とした組織の一員よ」
彼女が話している途中、後ろの瓦礫からフード男が立ち上がった。
「本当は私も来たくなかったのだけど、歳が一番近いからって……」
「お前、そんなことより後ろ! 後ろ見ろ!」
フード男がジリジリと近づいてきて、射程に入るや否や拳を振りかざした。
だが、ユウナの手から放たれた光線が、その攻撃をも飲み込み、フード男を再び倒した。
「あなたをバリアーズへ招待するわ」
僕の日常は、この日を境に一変していくことになるのだった。
全体として、テンポや表現を整えることで、読みやすさが向上しました。また、キャラクターの感情や反応を少し掘り下げることで、読者が感情移入しやすくなるように工夫しました。