図書館へレッツゴー!
「レイラ!お前との婚約は破棄させてもらう!」
「何故ですか?!」
「何故、と問うか。お前がリリアンにしてきた所業など既に知っている。自分には無い力を持っているからと彼女を妬み、危害を加えるなど、将来の国母がそのような者であってはならぬ」
「危害など、!私は加えてません!!誤解です、殿下!」
「もう調べはついてる!この話は以上だ!!」
あいしていたのに、わたしの生まれも力も、まとめて受け入れてくださったと思っていたのに、どうして───
◇◆◇◆◇◆◇
「はっっっ…夢だったのね」
今のは…レイラの記憶だろう。
昨日思い出したのは断片的なものにすぎなくて、詳細を全て思い出したかと言うと、全くもってそんなことは無い。
夢で見たことで「ああ、そんなこともあったな」とぼんやり思うくらいだ。
薄いカーテンを通過して眩い朝日が差し込む部屋は、昨日ロザリーに用意してもらったものだ。家のベッドとは全く違う硬めのそれから起き上がる。昨日の夜、辛うじて着替えはしたものの、身を清めてもいないし、よくよく考えれば食事もまだだったのだ。
身支度を整えて食事に行こうとしたところで、控えめなノックが鳴った。
「ハンナ?起きてる?」
「起きてますわ」
声の主は想像通りの人物だった。
「どうかしまして?」
「どうかって…ハンナがひとりじゃ身支度できないかと思って手伝いに来たんだよ」
「あら」
その言葉は想定外のものだった。
お父様には内緒で何度も街には出ていたのだが、その時の身支度も実は自分自身で行っていたのだ。だから、朝の支度なんて1人でもなんてことない。
「おはよう、ロザリー。わたくしの準備はもう出来ていましてよ」
「……あんたほんとになんでもできるな」
ガチャリと扉を開けてロザリーを迎え入れる。ロザリーの手にはサンドイッチの乗ったお皿があった。
「準備できてるならいいや。じゃ、朝ごはんでも食べようか」
「わたくしの分も持ってきてくださったのね、ありがとう」
「どういたしましてー」
それぞれがひとつの机を囲んで向かい合わせに座る。
「で?ハンナは今日どうするの。まさか家出したのに学園に行くわけじゃないだろうし」
「ええ。今日は図書館にでも行ってこようかと思ってますの」
「図書館?」
「調べたいことがあって」
今まで歴史に興味がなかったこともあって、授業はその時だけ覚えるような勉強をしていた。だから大筋は覚えていても、細かいところは覚えていないのだ。
それは500年前の私自身のことも。
だから図書館に行って資料を漁ろうと思っている。
何度も街に出てなんでも食べてきたわたくしにとって、サンドイッチなんて簡単に食べられるものだ。
ぺろりと平らげ、わたくしはロザリーに話しかけた。
「こちらの宿代はいくらでしたの?」
「いいよ。初家でのお祝いってことで」
「そうはいきませんわよ」
「じゃあいつも手伝ってもらってるお礼ってことで」
「……わかりましたわ。それでは、ありがたくそのご好意いただきますわ。あと、いつまでこちらに泊めてもらうかまだ決まっておりませんが、取り敢えず1週間分は渡しておきますわね。もちろん、今日の分を抜いて」
元々この宿には長く滞在するつもりだったのだ。
1週間の宿代はこれくらいだろうと考え、それに少し色をつけて渡した。
「じゃ、そっちは受け取っとくわ。って言ってもこれは色つけたにしても多すぎ。これ返す」
半分返されてしまった。
うそ、安すぎませんこと?
「アタシこれから仕事あるから。気をつけて行ってきなよ。なんかあったらアタシの執務室に来な」
「ええ、お気遣いありがとう」
そう言ってロザリーは部屋から出ていった。
わたくしもそろそろ宿を出て図書館へと向かう準備をしましょう。
小さめのカバンにノートとペンを詰めて、帽子をかぶり、宿を出る。
ロザリーがいるだろう部屋を見上げると、ロザリーもわたくしの外出に気付いたのか窓から顔を出していた。それに軽く手を振ってから、歩を進めた。
10分くらい歩くと図書館に着いた。入ってすぐに受付があるので、そこで名前を記入して会員証を見せる。
受付の女性は少し驚いた顔をしながらも、入館の手続きを素早く済ませてくれた。
まあ、学園の生徒がこんな時間にここに居ることがおかしいですものね。
目当ての本を探して歴史書のコーナーを歩く。すると、それはすぐに見つかった。巷で人気なだけあって、何冊もその本があった。
子供向けの絵本や解説書、神話や専門家向けの歴史書など、さまざまだ。
とりあえず読みやすそうなものから手に取り、テーブルへと持って行った。
簡単なものを何冊か読みながら、話の大筋を持ってきたノートにメモをとる。そうしているとあっという間にお昼時になっていた。ぐうっとお腹が小さくなって、ふと我に返る。
そろそろご飯でも食べに行こうかしら。
キリのいいところまでまとめてから、一旦本を全て片付けて、わたくしは外に出た。
そういえば来る時の道にクレープのお店があったわね。今日のお昼はそちらで頂きましょう。
少しお昼をすぎていたためか、クレープ屋は思ったよりも空いていた。サラダの入ったクレープを頼み、それを片手に先程メモをしたノートを振り返る。
まず、わたくしの読んだ本は正史ではないこと。あの本は500年前の出来事を元により面白く物語性のあるように作られたものだった。歴史書にはまた違う内容が記されていた。
レイラが呪いをかけたところまでは同じだ。だが、王子と聖女を夫婦神として祀った歴史はなく、代わりに混乱をおさめた英雄と呼ばれた男がいたこと。その男を元に、レイラを祀る神殿が作られたこと。
いや、なにしてくれてるの。神殿なんて建てなくてもいいのよ。レイラは誰も呪ってないのだから建てても建てなくても結果は同じよ。
そうしてレイラは夜の神として祀られ、現在でも彼女を信仰する宗教がいくつか存在している、ということだった。
メモを読み返している間に頭が痛くなったようだ。パタンとノートを閉じて、食べ終わったクレープが入っていたはずの紙を思わずぐしゃりと握りつぶした。
いやいやいやいや、信仰してもご神徳とかご利益とかとありませんわよ!!!!わたくしここにいますもの!!!!!!