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最終話:言葉

「ポーラちゃん、辺境伯様、おめでとうございまーす!」

「お二人とも最高のカップルです!」

『ようやくこの日が来たか。俺はもうやきもきしなくていいんだな』

「あたしは嬉しくて目から汗が止まらないよ」


 お庭にみんなの歓声が響く。

 エヴァちゃんもアレン君もガルシオさんもマルグリットさんも、みんな弾けるような笑顔で私たちを待つ。

 隣に立つ男性の腕を取ると、微笑みで返してくれた。

 お屋敷から伸びる真っ白のバージンロードに、そっと足を乗せ歩き出す。

 ……ルイ様と一緒に。

 今日は朝から雲一つない快晴で、穏やかな陽光と爽やかな風に気持ちが明るくなる。


「晴れてよかったですね」

「ああ、まったくだ。天も私たちを祝ってくれているんだろうな」


 ゆっくりと歩きながら言葉を交わす。

 私たちにとって大事な一日がこれから始まる。

 流星群の日に気持ちが通じ合ってから程なくして、ルイ様が婚約式を開こうと言ってくださったのだ。

 結婚式は少し先になってしまいそうだけど、その代わりにお屋敷で食事を……ということだった。

 歩きながら、ふと気になっていたことをルイ様に尋ねる。


「あの……このドレスは私に似合っているでしょうか……」


 今日の私は、純白のドレスに身を包んでいる。

 エヴァちゃんとアレン君が街で一緒に見繕ってくれたのだ。

 ……お姫様が着るみたいなふんわりして、かわゆいドレスを。

 清廉潔白を具現化したかのように上品なのに、センスの良いレースで華やかに彩られている。

 それでいて派手でなく、謙虚さと豪華さが同居しており……要するに、大変にオシャレで素晴らしいドレスであった。

 たしかにかわゆくて素敵なのだけど、私みたいな地味な人間が着こなせているか、どうしても不安になってしまう。

 少しばかり緊張しながら聞いたら、ルイ様は穏やかな微笑みで答えてくれた。


「君ほどそのドレスが似合う女性は他にいないよ」

「ありがとうございます……。なんだか、安心しました」

「綺麗だ、ポーラ」


 綺麗と言われ、顔が熱くなるのを感じる。

 深呼吸して高鳴る鼓動を抑えながら、私も素直な想いを伝えた。


「ルイ様も……いつもよりずっとカッコよくて素敵です」

「ありがとう。最高の褒め言葉だ」


 優しく微笑まれ、さらに顔が熱くなる。

 ルイ様もいつもの黒っぽい服ではなく、白に金の装飾がついた服装に身を包んでいる。

 ありきたりな表現になってしまうけど、本当に王子様みたいで、私はドキドキしっぱなしだった。

 そんな私たちを、みんなは嬉しそうに眺める。

 自分の幸せを祝ってくれる人がこんなにいて、私は本当に嬉しいし幸せ者だと思う。

 バージンロードを歩き終わると、エヴァちゃんとアレン君が待っていた。


「「では、ケーキの入刀をお願いしまーす!」」


 二人はひときわ大きなテーブルの前に、私とルイ様を案内する。

 テーブルに乗っかるは、特大の三段重ねケーキ。

 私たちの格好と同じ、清潔な白色のクリームに纏われた美しいケーキだ。

 目にも鮮やかで健康的な赤い苺や、落ち着く深い紫色のブルーベリーなど、フルーツが盛りだくさんで、見るだけで元気があふれる。

 お屋敷のみんなが、一生懸命作ってくれた。

 私も手伝おうとしたけど、すごい勢いで断られちゃったっけ。

 お屋敷での日々を思い出しながら、ルイ様とケーキナイフを握る。


「ポーラ、一緒に切ろう」

「はい」


 ルイ様の手に自分の手を乗せる。

 優しくて力強い、私をどんな敵からも守ってくれる大きな手。


 ――これからは私もルイ様を守るんだ。……妻として。


 決心を固めながらケーキに入刀する。

 お庭は一段と盛り上がり、みんなの大歓声が鳴り響く。


「ポーラちゃん、今までで一番綺麗だよ!」

「尊くて眩しくて最高のワンシーンです!」

『ルイも大人になったなぁ!』

「あたしはもう涙で前が見えないよ!」


 みんな、ハンカチで涙を拭いては拍手してくれる。

 ケーキを取り分け、準備が整ったところでルイ様がそっと立ち上がった。

 お庭は静かになり、厳かな静寂が包む。


「みんな、今日はありがとう。君たちのおかげで忘れられない一日になる。感謝の気持ちでいっぱいだ」

「「辺境伯様ー!」」

『硬いぞ、ルイー!』

「いつだって笑顔を忘れるんじゃないよー!」


 ルイ様の挨拶に、みんなはわいわいと盛り上がる。

 ここにいるだけで楽しくて嬉しくて、この時間がずっと続けばいいのにと思う。


「さて、食事を始める前に、いつも私を支えてくれる大事な妻ポーラに贈りたいものがある。……私の詩だ」

「ルイ様の詩でございますか!?」


 びっくりして聞いてしまった。


「君の素晴らしい詩を聞いていると、私も自分の想いを詩にして伝えたくなったんだ。……聞いてくれるか?」

「はい、もちろんです! ルイ様の詩なんてすごく聞きたいです!」

「ま、まぁ、君みたいに出来がいいかはわからないが……」

『プレッシャーかけてやるなよ、ポーラ~』

「す、すみません!」

「「あはは」」


 慌てて謝ったけど、みんな笑ってくれた。

 ルイ様はこほんっと咳払いすると、懐から一枚の紙を取り出す。

 どんな素敵な詩が詠われるのか、胸はドキドキでいっぱいだった。



――

 私は北の当主

 貝のような

 無言の日々を送る


 ある日

 訪れるは言葉の魔術師


 君が操るは見事な詩

 館のあらゆる問題を

 たちまち解決してくれたね


 君に出会い

 私は殻を破れた

 無言の殻を

 話さぬ意志の殻を


 君のおかげで

 今は思う

 言葉は素晴らしいものだと

 人に幸せを与えられるのだと


 君に会えて

 私は変われた

 一歩踏み出し成長できた



 君との出会いが

 私の人生で最上の喜びなんだ

――



 ルイ様が詩を詠い終わった瞬間、頬に熱い雫が零れるのを感じた。

 一滴二滴と止めどなく流れ、気がついたらぽろぽろと涙が止まらなくなっていた。

 拭いても拭いても止まる気配がない。

 でも……その理由はわかる。


「ポ、ポーラ、どうしたんだっ。どこか具合でも悪いのかっ」

「いえ……違うんです。ただ、本当に嬉しくて……嬉しくてしょうがないんです。こんな素敵な詩を……私は聞いたことがありません」


 胸が嬉しさでいっぱいになって、収まりきらない思いが涙となってどんどん零れる。

 感動で喜びで、それ以上の言葉が出てこない。

 ルイ様が私の背中を撫で、ハンカチで涙を拭いてくれる。


「ポーラ、そんなに喜んでくれてありがとう。私は本当に君に救われたんだ。その気持ちが少しでも伝われば嬉しい」

「はい……はい! 心を打たれるほど強く伝わりました!」


 涙ながらに、隣に座ったルイ様に抱き着く。

 こんな素晴らしい人と結ばれたのは、まさしく奇跡だ。

 心の中で運命に感謝する。

 ルイ様とめぐり逢わせてくれて本当にありがとうと……。

 みんなもまた、涙を浮かべながら私たちを見守ってくれていた。

 涙が落ち着いたところで、ルイ様がみんなに言った。


「では、いただこう」

「「いただきま~す」」


 みんな、一口食べた瞬間満面の笑みを浮かべる。

 それだけでどれだけおいしいのかよくわかった。

 私も喜びの余韻に浸りながらケーキを食べようとしたとき、ルイ様が私に言った。

 一欠けらのケーキをフォークに乗せて。


「ポーラ、食べなさい」

「えっ、い、いや、しかし……」

「いいから、遠慮しないで」


 誰かに食べさせてもらうのは初めてだ。

 ましてやケーキなんて……。

 恥ずかしくてしょうがなかったけど、思い切ってパクッと食べた。

 今の心境のように甘くて幸せな味が広がる。

 おいしさに震えた後、私もケーキを一口分切り取った。


「あの……ルイ様もどうぞ」


 自分だけ食べさせてもらうのはなんだか恐縮だったので、私の分のケーキをルイ様に差し出す。

 途端に、ルイ様はテレテレと恥ずかしそうにする。

 さっきまではあんなにキリッとされていたのに。


「い、いや、私は大丈夫だ……」

「どうか、そう言わずに」


 ルイ様はしばし恥ずかしがった後、私と同じようにパクッと食べた。


「……うまいな」

「自分で食べるより何倍もおいしく感じます」


 私とルイ様は、互いにケーキを食べさせ合う。


「「……尊い!」」


 エヴァちゃんとアレン君、マルグリットさんは空に向かって叫び、ガルシオさんは前足で顔を押さえた隙間から見ていた。

 いかがしいことは何もないですよ。

 幸せなケーキを味わい、嬉しさが胸にあふれるとともに改めて思った。

 言葉には人を幸せにする、とても尊い力があると……。

 これ以上ないほどに強く証明できる。

 だって……。


 ――今の私は誰よりも幸せなのだから。

~読者の皆様へ~

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

皆様のおかげで完結まで書くことができました。

完結しましたが、少しでも「面白い!」、「良かった!」と思っていただけたら、

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どうぞよろしくお願いいたします。

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