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聖なる言霊を小言と馬鹿にされ婚約破棄されましたが、普段通りに仕事していたら辺境伯様に溺愛されています  作者: 青空あかな


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第32話:流星群

〔ポーラ、私と一緒に東屋で見よう。星空が一番美しく見える場所なんだ。初めて見るなら、ぜひこの場所で見てほしい〕

「ありがとうございます、ルイ様。楽しみです」


 その後、あっという間に時間が過ぎて夜がやってきた。

 みんなでお庭の西側に向かう。

 どうやら、東屋は特等席らしくて恐縮だったけど素直に嬉しい。

 屋根は白いドーム状の枠組みで、吹き抜けになっているので夜空も良く見える。

 エヴァちゃんたちは丘の斜面に座って眺めることになった。

 ルイ様と一緒に椅子に座ったら、丘の下からエヴァちゃんたちの残念そうな声が聞こえた。


「それにしても困りましたね」

「星がまったく見えません」

『本当に迷惑なヤツらだ』

「昼間ずっと占領していたんだから、夜くらいはどいてほしいよ」


 晴れてくれるよう祈っていたけど、結局空は曇りだった。

 見渡す限り、ほとんどが白い雲で覆われてしまっている。

 わずかな隙間から藍色の空が見えるものの、これでは一面の星空は望めない。

 傍らのルイ様に話す。


「残念ながら、雲が残ってしまいましたね。昼間は一瞬雲が切れたのに……」

〔待っていなさい。今、雲をどけよう〕


 ルイ様が右手を空にかざす。

 上空で雲の流れるスピードが少しずつ早くなり、箒で掃いたように視界から消え去ってしまった。

 一面の夜空が私たちを出迎える。

 エヴァちゃんたちの歓声が上がるとともに、私も感嘆の声をあげてしまった。


「やっぱり、ルイ様の魔法はすごいですね。あんな空高くの雲をどかしてしまうなんて」

〔風を起こしただけさ。これくらいはすぐできる〕


 これくらいの規模の【言霊】スキルを使ったら、私はどっと疲れていただろう。

 ルイ様は魔法使いとしても最高峰の実力の持ち主だと、改めて実感する。

 夜空に現れては、静かに落ちる数多の星々。

 初めて見る現象や出来事はメモを書くのだけど、今回ばかりはあまりの美しさに忘れてしまった。

 夜空に絶え間なく光る幾筋もの煌めき……。

 頭の中で思い描いていた景色と同じ、いや、それ以上の幻想的な光景に、私はただただ感動することしかできなかった。


「ルイ様……こんなに美しい光景を見たことがありません。流星群がこれほどまでに神秘的なものだとは思いませんでした。私は今日この日を、一生忘れないと思います」

〔気に入ってくれてよかった。雲を掃った甲斐があるというものだ〕

「この素晴らしい……まるで星がダンスを踊っているかのような景色を見ると、流れ星が願いごとを叶えてくれるという言い伝えは間違いじゃないと実感します」


 それこそ、女神や天使が人間たちに与えてくださった奇跡なんじゃないかと、思わせるほど美しい。

 流れ星に願いを祈れば叶うだなんて、先人たちの感性は豊かだなぁ。

 丘の下からは、姿は見えないもののエヴァちゃんたちの声が聞こえた。


「我が弟がもっと有能になりますように!」

「姉さんがもっと丁寧に扱ってくれますように!」

『毎日うまい肉が食えますように!』

「この先もずっとルイとポーラを観察できますように!」


 みんなはすっかり夢中になって、夜空にお願いごとを祈っているようだ。

 祈りというより、もはや叫びに近い。

 あれだけ大きな声で叫べば、流れ星にも届くはずね。

 みんなの祈りを楽しい気分で聞いていると、ルイ様が私に尋ねた。


〔ポーラはどんな願いごとをするんだ?〕

「そうですね……。やっぱり、お屋敷の人たちといつまでも一緒にいられるように……というお願いを祈ろうと思います」


 “ロコルル”に来て、お屋敷に来て、ルイ様に出会って、みんなと出会って……私は本当に尊くて幸せな日々を送らせてもらっている。


 そう思っていたけど、夜空を見上げるルイ様を見ると、心臓がドキリと高鳴った。

 あの……“久遠の樹”を癒した後、身体を受け止められたときと同じように……。

 いつしか、心の奥底にあった気持ちをはっきりと自覚するようになった。

 何より、私は……。


 ――ルイ様とずっと一緒にいたい。


 一番正直な気持ちだ。

 みんなも大事だけど、ルイ様はさらに別の意味で大切だった。

 でも、これ以上の関係性を望むつもりはない。

 私などのような人間は、ルイ様の隣に立つべきではない。

 今みたいな関係が一番いいのだろうから。

 むしろ、こうして一緒に過ごせるだけで幸せだ。

 それ以上を望んでは分不相応というもの……。


〔……ポーラ、君に伝えておきたい話がある〕


 頭の中であれこれ考えていると、ルイ様が姿勢を正した。

 流星群を眺めていた穏やかな顔は消え、代わりに大変真面目な顔で魔法文字を書かれる。


「は、はい、何でしょうか」


 和やかだった雰囲気が変わり、私も姿勢を正す。

 ルイ様はしばし、硬い表情のままテーブルの一点を見つめていたけど、やがて意を決したように私を真正面から見た。


〔君に伝えておきたい話とは……私が話さない理由だ〕


 静寂が包む中、魔法文字が静かに浮かんでいた。

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