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聖なる言霊を小言と馬鹿にされ婚約破棄されましたが、普段通りに仕事していたら辺境伯様に溺愛されています  作者: 青空あかな


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第24話:受け止め

 細身の体型なのに、私の身体を支える腕は力強い。

 初めて身体がしっかりと接触して、やっぱりルイ様も男性なんだと自覚する。

 図書室で見つめ合ったときより、さらに強く胸が高鳴った。

 心臓がドキドキと拍動するも、不思議と不快な感じはない。

 むしろ、胸が膨らむような心地よさを感じる。

 ルイ様は何も言わず、固まったまま私を見るばかりだ。

 さらに何かが始まりそうな予感がするも、緊張と驚きで私の身体は少しも動かなかった。


「支えてくださってありがとうございます。あ、あの……ルイ様……?」


 おずおずと尋ねるも、ルイ様は微動だにしない。

 ふと、動かない理由に気づいた。


 ――そ、そうか……。私を抱えているから魔法文字を書けないんだ。


 ルイ様はお話される代わりに魔法文字を書かれる。

 私を抱えているから、両手が塞がっているのだ。

 がっしりと支えなれており、私は動こうにも動けなかった。


「自分で歩けますので、そろそろ……。ルイ様が疲れてしまいます……」


 正直なところ、最近身体が重くなってきた……気がする。

 お屋敷の料理がおいしいから、いつもたくさん食べてしまうのだ。

 己の重さが伝わるのはだいぶ恥ずかしい。

 しかしルイ様は無言で首を振ると、ひょいっと私を抱え上げてしまった。

 すいすいと背中と足を持たれ、ルイ様の腕の中に収まる。

 何やら不思議な体勢だけど、他者視点の姿を想像したら顔に火がついた。


 ――こ、これは、まさか……!


 俗に言う……お姫様抱っこの形だ。

 自分がそのようなロマンあふれる様式で運搬されるとは、今の今までまったく思わなかった。

 おまけに、先ほどより己の重さが直に伝わる形式となってしまった。

 地面から浮いて支えがないからね。

 どっと顔が熱くなる。

 今なら枯れ枝に火がつけられそうだ。


「あ、あの~、ルイ様……自分で歩けますので……どうか、荷降ろしのほどを……」


 どうにか蚊の鳴くような声でお願いするも、またもや無言で首を振られてしまった。

 私を抱えたまま、ルイ様は堂々とお屋敷へ歩き出す。

 みんなを見ると、なんかワクワクしていた。

 エヴァちゃんもアレン君もマルグリットさんも、大変に瞳が輝いている。

 ガルシオさんは前足を顔に当て、隙間からこっそり私たちを見る。

 いかがわしいことは何もしていないのですが……。

 もちろん否定する暇もなく、私たちはお屋敷に向かう。

 おそらくルイ様の無詠唱魔法で玄関が開き、ロビーを通り、荷降ろししてくれることはなく、自室へと運搬された。

 そっとベッドに寝かせられると、空中に魔法文字が描かれる。


〔具合は大丈夫か、ポーラ〕

「は、はい、問題ございません。運搬……ではなく、運んでいただき本当にありがとうございました」

〔きっと、疲れが溜まっていたのだろう。申し訳ない、無理をさせてしまったな〕

「い、いえっ! 今日“久遠の樹”を癒したいと言ったのは私ですからっ!」


 ルイ様はベッド近くの椅子に座り、私を気遣ってくれる。

 疲れているのはたしかだけど、そのお心遣いが一番の薬になりそうだった。

 しばし沈黙が流れた後、ルイ様が落ち着くような筆跡で魔法文字を書かれる。


〔君のおかげで、私の大事な樹が生き返ってくれた。またあの翠色の葉が芽吹く姿を見られるとは主会っていなかった。今は亡き両親も、天界で喜んでいるはずだ。ありがとう、ポーラ〕

「私の方こそ……ありがとうございました」

〔……ん? 何がだ?〕


 お礼を伝えると、ルイ様は疑問そうな表情を浮かべた。

 “久遠の樹”の治癒を任されてから、私はずっと心の中で感謝していた。


「【言霊】スキルを信頼してくださって……」


 無事に“久遠の樹”が蘇ったのも、ルイ様が私を、【言霊】スキルを信頼して任せてくれたからだ。

 自分が大切な人に信頼される事実は、何物にも代えがたい尊さと喜びを感じる。

 かねてから感じていた感謝の気持ちをお伝えすると、ルイ様はフッと優しく微笑んだ。


〔当然だ。君の力を疑ったことは一度もない。これからも……私はポーラをずっと信頼し続ける〕

「ルイ様……。私も…………ルイ様をずっと信頼いたします」


 素直な気持ちが紡がれる。

 出過ぎた考えかもしれないけど、主人とメイドという立場より、一段と強い絆で結ばれたような気がしたのだ。


〔さあ、今日はもうゆっくり休みなさい。他の仕事のことは気にしなくていい〕

「わかりました。……おやすみなさい、ルイ様」


 ルイ様は静かにお部屋から出る。

 空はもうほとんどが濃い藍色となり、夜が訪れた。

 ふぅっとひと息つくと、今日の出来事が思い出される。


 ――痛ましい“久遠の樹”を見て、ルイ様と一緒に詩を書いて……。


 そこまで考えた時、ふと何かの気配を感じて窓の外を見た。

 エヴァちゃん、アレン君、マルグリットさんが、窓枠からこっそりと顔を覗かせる。

 ワクワクワク……と瞳が輝いていた。

 それはもう大変に澄んだ目で美しく。

 ガルシオさんはと言うと、前足で顔を隠しつつ、しっかりこちらを見ていた。

 だから、いかがわしいことは何もしていないんですが……。

 私とルイ様の関係について、みんなは諸々誤解しているようだ。


 ――早く誤解を解かなければ……。私とルイ様は別に……。


 そう思いながらも、疲れがどっと出て夢の世界に誘い込まれてしまった。

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