表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖なる言霊を小言と馬鹿にされ婚約破棄されましたが、普段通りに仕事していたら辺境伯様に溺愛されています  作者: 青空あかな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/35

第22話:思い出の樹

「もしかして、ポーラも樹木医なのかい? そんな若いのに立派だねぇ」

「あ、いえ、違うんですっ。私はルイ様のメイドなのですが、【言霊】というスキルがありまして……」


 話の流れからか、樹木医と勘違いされてしまった。

 マルグリットさんにも、【言霊】スキルについて説明する。

 詩を詠うと願った通りの現象が……と話すと、大変興味深く聞いてくれた。


「……そんなスキルがあるんだねぇ。あたしも初めて聞いたよ」

「ですので、もしかしたら私の力で古代樹が救えるかもしれません。ルイ様の大切な樹は……守ってあげたいです。……ルイ様の大事なものは、私にとっても大事なものなので……」

「「ポーラちゃん(さん)……」」


 エヴァちゃんとアレン君は、目をうるうるとさせながら私を見る。

 呟いたのは、私の素直な気持ちだった。

 ルイ様はただ仕える人ではない。

 優しくて尊敬できる、とても素晴らしい人なのだ。

 私が言っても、しばらくルイ様は何も書かなかった。

 もしかして、失礼だったかな……。

 樹木医でもない私が余計はことを言ってしまったかもしれない。

 徐々に確信みが強くなり、慌てて謝りの言葉を述べる。


「も、申し訳ございませんっ、出過ぎた真似を……! 私に樹の状態などまるでわからないのに……! マルグリットさんが言うくらいなら、もうダメなんですよね」

〔いや、謝る必要はまったくない〕


 頭を下げた目線の先に、ちょうどルイ様の魔法文字が浮かんだ。

 いつもよりわずかに角が丸い文字で、そう書かれている。


「ル、ルイ様……?」

〔自分のことのように真剣に、君の他人を想う気持ちはとても素晴らしい〕

「こんな良い子がメイドだなんて、あんたは幸せ者だね」


 ルイ様もマルグリットさんも、私のことを褒めてくれた。

 じわじわと心が温かくなる。


「ポーラちゃんの優しさで胸がいっぱいになっちゃったよ……」

「僕も見習わなければいけませんね。」

『お前は本当に良いヤツだ……。フェンリルにもこんなヤツはなかなかいない……』


 エヴァちゃんとアレン君はほろりとハンカチで涙を拭き、いつの間にか、ガルシオさんまで瞳をうるうるさせていた。

 優しい人たちに囲まれて、私は本当に幸せ者だ。


〔では、一度古代樹を見に行こう〕

「あっ、すみません、ルイ様……まだお掃除の残りがありまして……」


 急いでいたので、掃除道具も片付けずに来てしまった。

 道具を出しっぱなしにするのは、心がちょっと痛い。

 集めた落ち葉や花びらなども、風が吹いたら飛んでいっちゃうかも……。


「心配しないで、ポーラちゃん。私たちがやっておくから」

「掃除より古代樹の方を優先してください」

『フェンリルの箒捌きを見せてやるよ。我ながらうまく使うんだ』


 三人は力強く言ってくれるけど、さすがに申し訳ない。

 自分の仕事は、最後まで自分でやらなければ……。

 心の中で葛藤していたら、ルイ様が伝えてくれた。


〔いや、君たちも来なさい。せっかくだからみんなで見よう〕

「「ありがとうございます、ルイ様(辺境伯様)!」」

『ルイのくせに気が利いているじゃないか』

〔うるさいぞ、ガルシオ〕


 ルイ様の後に続き、私たちは森を進む。

 方角としては北の方だ。

 十五分ほども歩くと、巨大な広場が現れた。

 この辺りだけ草木が刈り取られている。

 そして中央には、天を衝くほどの大きな樹がそびえる。

 高さは30mほどで、幹の太さは最低でも6mはありそうだ。

 こんな立派な樹は、今まで見たことがない。

 しかし、植物が芽吹く季節だというのに葉っぱは一枚もなく、枝は細々としており今にも折れそうだった。

 樹木医でなくても、命が尽きそうな気配をひしひしと感じる。


〔これがアングルヴァン家に代々伝わる古代樹、“久遠の樹(エーリヒ)”だ。見ての通り、半年ほど前からかなり弱っている。私もあらゆる回復魔法を使ったのだが、どれも劇的な効果がなくてな……。対応に苦慮しているところだ〕

「なんだか……すごく辛そうです。見ているだけで胸が締め付けられてしまいます」

「あたしの薬とルイの魔法で、どうにか生き永らえているのさ」


 “久遠の樹”は大木なのに、風に揺れるたび折れそうで不安になってしまうほど弱々しい。

 よく見ると樹皮の表面は細かくひび割れており、自然にポロポロと崩れる。

 樹は喋らないものの、その辛さは痛いほどよくわかった。

 ルイ様の大事な古代樹……。

 私が絶対に元気にさせてあげるからね、と心の中で語りかける。


「ルイ様、もしよろしかったら……ご両親との思い出をお話ししてくださいませんか? 【言霊】スキルに活かしたいのです」

〔ああ、もちろんだ。私は生まれてすぐ、両親に連れられ“久遠の樹”に挨拶を交わした。そうするのが、アングルヴァン家の習わしだからだ〕


 ルイ様は過去の思い出を伝えてくれる。

 仕事で家を開けがちなご両親に変わって、それこそ親代わりに成長を見守ってきてくれた……、傍にいるだけで孤独を忘れられた……何より“久遠の樹”を見るたび、今は亡きご両親を思い出すと……。

 そのどれもが尊い思い出で、“久遠の樹”の状態を思うと涙が出そうになりながら、胸の中に大事にしまった。


「マルグリットさん、古代樹の状態はどれくらい悪いのでしょうか」

「正直、生きているのが不思議なくらいだね。もうほとんど死にかけの状態さ。今日明日死ぬことはないだろうけど、二週間先はどうかわからないよ……」


 私の質問にマルグリットさんはとても厳しい表情で答える。

 ルイ様との話を合わせて、しばし頭の中で考える。

 今までも、【言霊】スキルで枯れそうなお花や植物を復活させたことは何度もあった。

 でも、今回は歴史ある古代樹だ。

 もっと細かい知識や情報を得てから、詩を書いた方がよさそうかな……。

 効果がなかったらそれこそ意味がない。


「あの、ルイ様。一度、お屋敷に戻って詩を考えさせていただいてもよろしいでしょうか。詩の精度を上げるために、古代樹の歴史など一通り勉強したいのです。もちろん、急いで作りますが」

〔ああ、構わない。むしろ、力を貸してくれてありがとう。私もできる限りの協力をする〕

「ありがとうございます。全身全霊で頑張ります」


 ――ルイ様の古代樹は絶対に救う。


 心の中で強く決心すると、自然と拳を固く握り締めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ