近づく距離
「凛刳さーん一緒に帰ろー」
バイト終わりの夕方。
莉緒の護衛も兼ねて同じ職場で働く俺と莉緒は帰り道についていた。
「今日はどうだった?」
「疲れたぁ……凛刳さんいなかったらもう嫌になってたかも」
「じゃあ一緒に来た甲斐があるな。頑張ってる莉緒も好きだよ」
もう!と莉緒に背中を叩かれながら、はにかむ彼女を見て目を細める。
気持ち通じたあの日以来、俺達の距離は確実に縮まっていた。
俺は好きを隠さなくなったし、莉緒も甘えるような仕草を我慢しなくなった。
その愛しい俺の彼女が、見えないはずの耳をピンと立てた。
「む!」
「どした?」
すんすん、と辺りの匂いを嗅ぎ始める。
「いい匂いがする!」
「なんだろ?」
「こっち!!」
突然始まった寄り道に苦笑いしながらも、後を追いかける。
疲れていたはずの彼女は飛び跳ねるように屋台まで駆け寄ると、期待した瞳でこちらを振り返った。
「これ、うまそう!」
「牛串かあ、いいね。買おうか」
「にーく!にーく!」
タレと塩で1本ずつ。
2人で食べる為、というよりは莉緒が満足するように。
「食べながら帰ろうか。少し行儀は悪いけど」
「それ2本とも僕の??」
「俺も一口くらい欲しいかな。あとはもし残りそうなら食べるよ」
「じゃあ、はい!」
差し出された串から1個分の肉を齧り取る。
味が濃く、実に屋台の肉といったところだ。
一通り味わいながら隣を見ると、すでに一本は串だけになっていた。
ニコニコと上機嫌な莉緒の表情。
普段しない寄り道もたまには良い物だ。
「ただいまー」
寄り道を経てようやくの帰宅だ。
莉緒に続いて入り、後ろ手に鍵を閉める。
今日の献立は何にしたんだったか。
下拵えはして出たはずだから仕上げをして――
「ん」
家に着いて一瞬沈んだ思考の渦から強制的に引き戻される。
唇に柔らかい感触。
至近距離にある莉緒の顔。
鼻の辺りを髪がくすぐる。
「隙有り」
微笑んだ莉緒は気が済んだとばかりに離れていく。
―――離れたくない。
気がつけば俺は靴も脱がないまま莉緒の手を掴んでいた。
「凛刳さん?」
「莉緒」
そのまま手を引き、腰を抱くように引き寄せる。
腕の中にある柔らかい身体を優しく、強く抱き締めながら顎を掴んだ。
「舌出して?」
「っ……!」
サッと莉緒の頬が染まった。
照れたのか恥ずかしいのか分からないが、俺の言葉が莉緒の表情を変化させた事がたまらなく嬉しい。
控えめに差し出された舌を弄ぶように唇で挟む。
「もっと出して?」
「だって、ここ玄関……」
「出して」
腰を抱いた手に力を込める。
ビク、と反応した身体から少しずつ力が抜けていく。
莉緒の舌がおずおずと差し出される。
思わず口角が上がる。
舌を甘噛みしながら俺の口内へと吸い上げる。
舌先を絡め、裏側を舐め上げる。
「ん、ぅ」
新しい刺激を与える度に声を上げる莉緒が愛しい。
顎に添えていた手を少しずつ下げていく。
首から撫でるように肩、鎖骨を辿る。
彼女の豊満な胸を手のひら全体で包むように掴み、指を埋めた。
「んぁ…っ」
「隙有り」
開いた口に今度は俺の舌を突っ込み、上顎や歯の裏をつついていく。
手は意識しなくても胸を揉みしだき続けていた。
柔らかで吸い付くような感触はいつまでも揉み続けられるような気がしてくる。
揉んでいるうちに手の平に残るようになってきた硬い感触。
それが何で、どうしてそうなっているのかなど自明で。
手に更に力が入る。
「ね、ね、凛刳さん…!」
「どうした?莉緒」
「………ベッド、行こ?」
は、と短く息が漏れてしまった。
どうして莉緒はこんなにも俺を煽るのが上手いのか。
靴を脱ぎ捨て莉緒を抱えてベッドルームへ。
俺の欲望はもう止まらなかった。