第一話 タイムスリップと双子の姉妹とカステラと。
お久です、黒崎です。
今回は新作として、「もし天草四郎が現代にタイムスリップをしたら」というコンセプトを元にしたコメディを書こうと思い、1話目を書きました。
基本的に四郎がツッコミ役になりますが、最初はそういう要素はゼロでお送りします。
寛永15年2月28日(1638年4月12日)、天草四郎(益田四郎時貞)は自身が一揆軍の総大将となり、籠城した原城跡にて幕府軍の総攻撃を喰らい、最期の刻を迎えんとしていた。
燃え盛る火の中で幕府軍に猛抵抗していく一揆軍、しかし次々と父を含めた仲間が討ち取られていき、四郎も脱出を試みるも捕まり斬首されようとしていた。
その時だった。
謎の光が四郎を包んだかと思うと、四郎はその光の中にあれよあれよと吸い込まれていったのであった。
後世に語り継がれる「島原・天草の乱」は記録上は37000人もの一揆軍が全員死亡、そう記述されている。
しかし斬首される直前に光に吸い込まれていった四郎は、というと_____
2023年の長崎県南島原市へと、タイムスリップを果たしていた。
目覚めた四郎は起き上がって辺りを見渡し、400年の時を経て様変わりした長崎の街並みに驚きと動揺を隠せなかった。
そしてそれを発見したのは、2人組の顔の似通った少女だった。
「ねえねえ、莉愛〜? この人、変な格好してない?」
「そうだよね、莉夢? なんか、ちょんまげだし、髪型。」
1638年からおよそ400年の南島原の地にそのままの格好でタイムスリップをしてきた四郎を、烏丸莉愛と莉夢の双子の姉妹は物珍しそうに見て会話をしている。
そして当の四郎はというと、2人の着ているブレザーの姿に何故見たこともないような格好をしているのか、と半ば困惑の色を隠せなかった。
だがそんな事を気にする間も無く、双子の姉妹は四郎に何処から来たのかを問いかけた。
「ねえ、あなたは何処から来たの?」
「……何処から話せばいいのやら……原城で敵に捕まって、首を斬られかけた時に……気づいたらここに……」
莉愛と莉夢にとっては聞き慣れぬ単語が四郎から飛び出したことにより、今度は逆にこちら側の困惑が生まれた。
「行く宛、ある?」
「行く宛など……見慣れない景色もあるもので……これも、デウス様のお導き……かは分からないが……」
「じゃあ、ウチに来る? 詳しいことは後で聞くからさ?」
「すまないな、君たち。お言葉に甘えるとするよ。」
二つ返事で姉妹の申し入れを了承した四郎は、烏丸家にて生活をすることになるのであった。
さて、烏丸家に来た四郎ではあるが、初めて目にする洋装の家の中、賃貸なのでそれなりに質素ではあるものの、彼は見慣れないので戸惑うばかりで落ち着きを払えていない。
家に向かう最中に自己紹介をしていたのだが、双子は案外「そういう事もあるよね」みたいなノリですんなりと受け入れていたのだから、肝が据わっているのも四郎は感じ取っていた。
「……すまない、私はどうすればよいのだ? 何も分からないが故、如何様に過ごせばよいのやら……」
「そのままでいーよ、しろー君。莉夢、アレ、あったよね??」
「あー、あるよ? 今出すから待ってて、莉愛。」
莉愛と莉夢は慌ただしく客人たる四郎を饗すため、冷蔵庫やら食器棚やら色々開けて、何かを取り出した。
そしてテーブルに出されたのは____皿に乗せたカステラだった。
「さ! どうぞ、シロー君! これ甘くて美味しいんだからね?」
莉愛はニコニコしながら召し上がれ、と言わんばかりに手を腰に当てているが、莉夢は口に合うのか、と心配そうに見つめている。
しかし莉夢の心配とは別の意味で、四郎は明らかに戸惑っていた。
現代では比較的安価で買えるようになったカステラではあるが、四郎のいた時代では上級士族が食べるような高級菓子、足軽の息子で丁稚奉公で仕送りするくらいの生活をしていたような四郎には縁がないものだったのだから、本当に食べて良いのか、という困惑に駆られるのも無理はない。
「こ、このような高級菓子を何故こうもアッサリと……?? い、戴いても良いの、だろうか……」
「?? いいのいいの! 気にしないで!!」
莉愛は明るくよく通る声で食べろと催促するが、莉愛自身は歴史には疎いので、何故四郎が戸惑うのかが全く分かっていない様子だった。
色々な意味で現代っ子なのだが、これに対照的に歴史好きな莉夢が耳打ちをする。
(莉愛、この時代のカステラは高いんだよっ!! 島原の乱の後は特に!!)
(え、そうなの?? だったら尚更じゃない??)
(そうだといいけど!)
2人がヒソヒソ話をしている最中、四郎は「いただきます」という言葉と共に、カステラを一口パクリ、と口に含んだ。
大衆的な甘さが来るとはいえ、原城では幕府軍に包囲され、兵糧攻めまでされていたため、碌な食事も採れていない状態下、そして今まで食べた事もないような甘味に、四郎は言葉を失った。
そして何故か、目からツーーーッッッ……と、一雫、涙が零れ落ちた。
「ど、どうしたの、シロー君ッッッ!!?? なんで泣いてるの!?!?!? そんなに美味しかったの!?!?」
「す、すまない……美味しいのは、そうなのだが……その、何と申すか………」
四郎は涙を拭うが、感動からか安堵感からか、一度出た涙はなかなか止まらなかった。
「私は……生きていて良かった………ッッッ!!!」
これに安心したのか、四郎はゆっくり味わうようにカステラを食べ続け、莉愛と莉夢は「まだまだあるからね!」と明るく四郎に声を掛けてあげたのであった。
次回からコメディ本格化です。