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ss まどろみ

「ゴホ…ゴホ、ゴホ」

「やっぱり疲れが出たんさよ」

「ゴホ…。すみません、ハンナさん」

 由那が無理やり抑え込んだ風邪がぶり返したのは、すべてが解決した日の翌日だった。

「ビレフなんて放って、いったん帰って応援を呼ぶとかすればよかったんさ。あんな男を捜しに行って、あんたが体壊したんじゃ世話ないだろうに」

「…そうですね」

 一概にそれだけが理由だとは言えないが、本当のことを説明するのも面倒な由那は、特に支障もないので、このままビレフのせいにしておくことにする。

 ビレフを発見したのは、習慣化した朝の散歩で偶然見つけたと自警団に彼の身柄を引き渡す際に説明しておいた。よって、ハンナにもそう通っている。

 もう一人の、行方不明者として気付かれていなかったフラーラは、由那とシャオウロウが秘密裏に彼女の家に送り届けたので、誰も彼女がいなくなっていた事には気づいていない。そのため、由那が発見したのは、町の人たちの間ではビレフのみになっている。

「もう少しゆっくり寝といで」

 弱々しく微苦笑を浮かべている由那の額に濡れタオルを乗せると、ハンナは食事を持ちに、一度部屋を後にする。

 ドアが閉まると同時。それを待ち望んていたらしい、壁に沿って沈黙を守っていた彼女の霊獣が、ゆっくりとベッドに近づいてきた。

『由那。だから無理をするなと我は言ったのだ』

「ごめん、シャオ」

 謝っているのに、まったく悪く思っていないその態度。反省の色が覗えないことに、シャオウロウの機嫌は更に悪くなる。

「でも、ちょっと不謹慎だけど、嬉しいの」

『?』

「風邪をひいて、ハンナさんやシャオにこんなに手厚く看病してもらえるなんて」

 これなら、風邪をひくのも悪くないかもしれない。そう言い、くすりと微笑む。

 熱があるというのにケロリとしている様子に、シャオウロウは飽き果て、ため息すらも出なくなる。

「ユーナ。ごはん食べられそうかい?」

「はい。頂きます」

 しばらくの沈黙を破ったのは、温かな食事を運んできたハンナだった。それに諦めたように、シャオウロウは無言で再び壁側に寄る。

 少々気だるげにも、それほどの風邪ではないため、由那は案外すんなりと起き上がる。

「食べさせてやろうかい?」

「そうですね。もう少し具合が悪ければお願いしました」

 比較的軽い動作で器を受け取るその様子に、ハンナは少しからかいを含んだ声音で問いかけるが、それはやはり、穏やかな由那がさらりとかわしてしまった。

「でも、風邪の時にこうして人に甘えられるのって良いですね」

 のんびりとそんなことを言い、チーズと牛乳をベースに作ったリゾットに似た食事を美味しそうに平らげる。

 日本人の由那としては、病人食は当然おかゆだが、これもなかなかに美味しい。

「ちゃんと薬飲んで、ゆっくり休むんさよ」

「はい。分かってます。ごちそうさまでした」

 手のひらを合わせ、合掌する。

 最初のうちは、このポーズを奇妙に見られたものだが、神への祈りに似たものだと二人に説明し、今は納得してもらっている。クルド皇国の一部の地域には、これと似たような風習が残っている場所もあるのだそうだ。

「じゃあ、お言葉に甘えて、もうひと眠りさせてもらいます」

「ああ。そうするといいさね」

 ベッドに横になるとすかさず額にタオルを宛がわれた。

「ゆっくり休むんさよ」

「…はい」

 穏やかで温かな声音。

 その何とも優しげな声音を聞きながら、たまにはこういうのも悪くない、と由那はまどろみながらそう思った。


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