ss 木漏れ日
『由那』
「うん?」
『何故我に御名で呼ぶことを許されたのだ?』
てっきりオークルードらを殲滅する際に何か必要があってのことだと思っていたシャオウロウは、ふと疑問に思って問いかける。
彼女の行動は必ず意味があることなのだと、そう信じていたシャオウロウの考えはしかし、ものの見事に打ち砕かれることになった。
「別に何も。ただ、なんとなく?」
何故そんなことを問うのか、と不思議そうなのは由那の方だった。
がん、とシャオウロウの頭に鈍い衝撃が走る。
『い…意味はなかったというのか』
「うん。特にはね」
『………』
信じて疑わなかっただけに、その衝撃は凄まじい威力がある。半ば再起不能なほどに。
まさか霊獣がそんなダメージを受けているとは露とも思わず、由那はでも、と言って続きを紡ぐ。
「ただ、以前の私は、己の名で呼ばれるなんてことはあまりないことだったから。シャオや他の眷属たちもそうだったし、私を慕ってくれていた人々も同じだったしね」
だから新鮮で嬉しいことだよ。と、そう言いながら満面の笑顔を向ける。
『………』
その眩いほどの笑みに、ふいと顔を背けたシャオウロウが浮かべた表情が一体何だったのか。恐らく由那は察しただろう。
『由那』
「うん。なあに? シャオ」
『否。何でもない』
「そ?」
くすくすと可笑しそうに笑う。その顔を照らすのは、木々の合間を縫って差し込む朝の日差し。
穏やかで平和な日常を告げる光に照らされた、少しばかり疲れの残る横顔は、至極優しげなものだった。