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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
四章 獣王国進撃編
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十一話「苦悶の氷」

ペトラは、先ほどの位置とは変わらず動かない。


「フルバトルゴーレムよ。いけ!!」


しかしゴーレムは、ペトラの指示を聞きセーリスクに突進してきた。

その速度は、石や土から作られたものとは思えないほどに軽快だった。

地面を少し砕き、大地を走る。

その傀儡には感情はなかった。

ただ一種の覇気という物は感じた。

やはりこのゴーレムという物は普通ではない。

どんな形であるかはわからないが、ペトラの技術という物が詰められている。


「早いな…‥」


動きは、早くはあったがセーリスクにとっては見切れる程度のものだった。

セーリスクにめがけて飛ばされた拳を回避する。

その身を屈めた。

ゴーレムのその拳は、セーリスクの頭上を通過した。

拳が、空気を切る。

その音がセーリスクの耳にも届いた。


だがやはり遅い。

コ・ゾラ、ネイキッドはこんなものではなかった。

その目に焼き付いた強者の動きは確実にセーリスクに刻まれていた。


「そんなものなんですか?」


セーリスクは、あえてペトラを煽っていく。

しかし自身の胸に気持ちの悪い感情が渦巻いていたのも事実だ。

彼はこんなものではなかった。

この程度で、自分の実力を測ると言われても困る。

そう言った感情まで生まれ始めていた。


「いうね。もちろんこんなものではないさ」


ペトラのフルバトルゴーレムは、セーリスクにありとあらゆる打撃技を繰り出した。

しかしそれはすべて届かない。

寸前のところで、セーリスクは回避していた。


その様子をペトラ、プラード、骨折りの三人は眺めていた。

しかし三人とも無言で何も言わなかった。

雰囲気はいつもとは違く、ただ冷静に見ていた。

或いは、それはただの観察だったかもしれない。

セーリスクは戦いに集中していて気が付いていなかったが、確実に三人はセーリスクのことを品定めしていた。



セーリスクは、ペトラのゴーレムに距離を取った。

今の自分は、武器という物を持っていない。

ゴーレムを見る限り中途半端な得物では、傷一つつけることですら叶わないだろう。

魔法を打つにしても、この至近距離で十分な詠唱ができない。

そもそも氷の魔法を発射し加速する距離が足りない。


どちらにせよ、セーリスクには距離をとること以外の選択肢が残されていなかった。


「……お手並み拝見だね」


ペトラはゴーレムとはある程度距離の取れた場所に立っていた。

それに合わせるようにゴーレムは、ペトラを守ることと同時に反撃の構えをとる。

セーリスクがどんな魔法を打ってもそれに対処し、ペトラを守るためだ。



セーリスクは、魔法の詠唱を開始した。

セーリスクの周囲には、冷気が渦巻いた。

土煙が、冷風によって打ち消される。

セーリスクその周囲の風の動き方が変わる。

その原因となっていたのは、魔法の発動。

セーリスクの肩から腕に霜が走る。

その皮膚の一部は凍っていく。

空気が凍っていく音がする。

しかしそれはセーリスクの耳には届いていなかった。


それは氷の刃を形成する。

指に、手に。

その氷は、接触していく。

爪先が、氷に浸食されていく。


「違う……」

「……違う?」


セーリスクは、思わず独り言をつぶやいていた。

それは自身の魔法に対する否定。

セーリスクは、自身の馴染んだ魔法に違和感を感じていた。

しかしペトラはそんなこと知りもしない。


「違う。これじゃない……これじゃあだめだ」


その時、セーリスクの手のひらに有ったのは氷の塊だった。

それは剣とは、刃とは形容できないものだった。

それを否定する。

それはセーリスクの望み、イメージしたものではなかった。


剣だ。

剣がほしい。

自らを、そのほかを守る剣が。


セーリスクの片手にある氷の塊が段々と細長くなり鉄の剣と同じ形に変わっていく。

それは、氷柱が形作られていく様子を早送りするような光景であった。

ペトラは、その光景に一種の芸術を感じ感嘆を漏らす。

それは、一種の自然に劣らない景色だった。


「ほぅ……」


その時、脳裏浮かんでいたのは二本の短刀。

そうだ。

剣は二本欲しい。

一本では足りなかった。

守り切れなかった。

しかし自分の戦い方ではあの短刀は全く以て合わない。

ならば方法を変えるだけだ。

その刃は、長く鋭く鋭利に。


腕と剣を氷で固定する。

氷は籠手のように手の甲に装備された。


「氷の刃よ。わが身を護れ。グラキエース・ラミーナ」


詠唱は終わる。

魔法は終わる。

氷の刃を形成する魔法は前回とは一変していた。

それは青年の成長と共にあった。

氷の刃は、確実に剣という物を表現しており鉄の剣となんら遜色なかった。

自身の今最も望む戦い方。

それは二本の長剣による戦いの表現。

その二刀の長さは、そろっていなかった。

セーリスクは、ネイキッドとの戦いを経てまた変化していた。

自らの望む戦いの姿へと。


「ぐっ……」

「……大丈夫かい?」



ペトラは、セーリスクのことを心配していた。

本来、自身の魔力で傷つくなど未熟者の証拠。

しかし目の前の人物は、人並み以上の技術の者を持っていた。

それに体がついていっていなかった。

それを惜しむばかりだ。

ペトラにセーリスクを嘲る気持ちなどかけらも持っていなかった。

むしろ大丈夫かという純粋な心配の方が勝っていた。


「ああ、……大丈夫です」


全身に冷気が走る。

流石に、悶えるほどの痛みというわけではないが快楽というわけでもない。

一番強いのは、腕。

不快感が腕から肩まで包まれる。


その顔は苦悶の表情に満ちていた。

やはり自身の体はまだ回復していないのだと感じた。

体に負担がかかり、傷口が開いたのを感じた。

しかし血液は冷気により凍っていく。

自身の傷が冷えていくのを感じた。

痛みが走る。

やはり今後の戦いで、魔法の扱いというのはかなりの難題のようだ。


「しかし物質の生成。加えてかなりの再現度……いいねボク好みだよ」

「負担は大きそうだな」

「……」


ペトラは、率直に自身の感想を述べる。

どうやらペトラにとっては、魔法によって何かを生成するのは好みらしい、

やはりゴーレムや、魔法道具には近しいものがあるのだろうか。

ともかくセーリスクの魔法の表現力を買っていた。


それに対し、プラードは身体の負担に目を向けていた。

セーリスクは、自身の体によって自傷している状態となっている。

しかし戦いというものは、ひとり倒せば終わりではない。

状況によっては、傷だらけの中死力を尽くして戦うこともあるのだ。

ペトラとの話し合い、エリーダの協力があれば

改善はなんとかできるのだろうか。

少なくとも魔法を使うことができない獣人である

プラードにはそういったことを理解することができなかった。


ここに同じく魔法を使えるものとして眺めるものがいた。

骨折りは、技術という意味では魔法の扱いはペトラに劣っている。

確かにペトラ以上の破壊力は出せるが、それは魔法の扱いが上手いというわけではない。

ただ敵を倒すだけにとどまらないのが魔法だった。

確かに表現の一つであるのかもしれないが、

表現のひとつとして骨折りの魔法は、あまりに乱雑すぎた。


しかし骨折りは、氷の魔法という点で

セーリスクにある希望を見出していた。

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