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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
四章 獣王国進撃編
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十話「実験開始②」

二人は、王宮にある訓練場に立っていた。

そこは、門番のための訓練場とは比べ物にならないほど広かった。

セーリスクは、その広さに驚いた。

少し羨ましいとも考えた。

同時にここの兵士の強さはどれほどのものだろうかとも興味が引かれた。


「広いな……」

「でしょ?結構実験にも使っているんだ」


思わず感嘆を漏らしたセーリスクにペトラは同意した。

なにやら実験にも使っているようだ。

さきほどのゴーレムの実験だとすると確かにこれだけ大きい場所があっても損はない。

プラードは、試合を始める前に説明をする。


「さて、審判として私が立ってもいいがここにはある人に来てもらった」

「え?だれだれ?アーティオ様?イグニスちゃん?」


ペトラは、自身の頭に思い浮かぶ人物の名前を浮かべた。

両者ともに、自身と縁が深い人物だった。


「骨折りだ」

「やあ」

「ちっ……」


しかし期待に裏切られた。


そこには、骸骨の仮面をかぶった重厚な鎧をきた人物がいた。

セーリスクはその人物を知らなかったが、なぜか変な違和感を感じた。

相手の強さを読み取ることができなかったのだ。

それは強いというものではない。

もしかしたら実力が離れすぎてわからないこともあるかもしれないが。

ともかく読めなかったのだ。


「なんだよ、骨折りかよ……」


ペトラは、望んでいた人物が来なかったことにがっかりし骨折りに対し悪態をつく。

しかし骨折りは、一切気にしていなかった。


「ああ、歓声ありがとう」

「誰もいってないから!」

「骨折り……?」


セーリスクは、その二人の様子をみて仲が良いのだろうと容易に推測できた。

しかし長く豊穣国にいて、ペトラと仲の良い人物で【骨折り】という人物を聞いたことがない。

しかし骨折りという名前。

その単語聞いたことがあるが、なぜか思い出せない。

微妙に自分が知っているという事実によって更にその奇妙さが増していた。

プラードがこの場に招き、アーティオがこの王宮にいることを許可しているということはある程度の信頼は得られているのだろう。

しかしセーリスクは、心の奥底になぜか警戒心を抱いていた。


骨折りは、プラードとセーリスクについて話す。

正直言って骨折りは、彼のことをよくは思っていない様だった。


「あいつが、新入りか?」

「ああ、いいだろう?偶々見つけたんだ」


プラードは、嬉しそうに骨折りに話す。

話してみて、人格的に問題のないセーリスクは自分にとってとても都合がよかった。


「いいとは思うが……まだ磨ききれていないな。連れていくべきじゃないと俺は思うが」

「王宮の兵士は、アーテを守るために必要だ。それなのに前の戦いで多くが失われた。ここで新たな素材を試すのもいい試みだと思うのだが」

「素材を試すのもいいが、あれじゃあ光る前に砕けるぞ」


骨折りは、この王宮で多くの兵士が失われていたことに少しの罪悪感を感じていた。

もちろん彼らが死んだのは、彼ら当人の実力不足だ。

そう割り切っている。

しかしそこで思考停止してしまえば、自分はもう人以外の何かに成り下がる。

そんな気配がしていた。

だからこそ、まだこの国に存在し獣王国のとの戦いに備えようとしている。

しかし目の前の人物は、まだ未熟な人物を戦いに引き入れようとしている。

それなら自分が戦った方がまだましだ。

セーリスクとかいう人物が死のうが生きようがどうでもいいが少なくともプラードのこの傾向は好きになれなかった。

そんな時、プラードはある人物のことを話題に出し始めた。


「お前が戦ったというネイキッドとかいう男いるだろ?」

「ああ……いたな。それがどうした」



骨折りは、ネイキッドという単語によって王宮の戦いをより鮮明に思い出した。

それはアダムと共に現れた透明化の魔法をつかう亜人。

彼の攻撃の迫力はすごかった。

自分であれば、回避することもできたが並大抵のものはあの不可視の攻撃によって死亡してしまうことだろう。


「あいつはそれと渡り合った。潜在的な能力は人並み以上だ」

「……なるほどな。【獣殺し】か。お前が肩入れする理由がわかったよ」



骨折りは、プラードからネイキッドの話を聞いていた。

【獣殺し】。

彼が、獣王国で獣人の殺人を行っていたこと。

そうして同時に恐怖感と、疑問を持っていたこと。

彼との戦いでは警戒するようにと。

そういった話をしていた。

なにやらここまで一人の敵について話すのも珍しいなと思っていたがこういったわけがあったのかと思った。

要するに、彼はセーリスクのことを評価しているのだがそれは彼の実力ではなく。

ネイキッドと戦い、渡り合い生き残ったことを一番に評価しているのだ。

しかし骨折りは、そういった私情の入った判断を嫌っていた。


「人並み上にあるのが当たり前の世界だ。そうでもなきゃ生き残れない」

「だが彼は生き残った。素材としては十分だ」


どうやら、プラードは彼を育てる気満々のようだ。

ここまで考えているのなら、なにかしら考えがあるのだろう。

反論するのも面倒くさい。

何も言わないでいいだろう。


「……お前がいうならそれでいいよ。だがあいつにはアラギのことは伝えない。……それでいいな」

「確かに彼に明かすことのできる情報はまだ少ない。しかし彼もこころづよい味方となるはずだ」

「期待せずに待っておくよ」

「お前は、アラギの一件で獣王国をうろつけないだろう?私もそう堂々と歩けるわけではない」

「確かにそうなると人手が足りないな……イグニスとセーリスク。この二人に獣王国の探索を任せたいということか」

「そうだ。イグニスひとりで獣王国を歩かせるのは不安だ。獣王国にいる私の部下に同行させるのもいいがあの国では獣人と亜人が一緒に歩くと勘繰られる」

「……まあ、作戦を考えるのはお前だ。あまり反論せずにしておくよ」


獣王国に侵入しる計画まで、時間はあるが決して長くはない。

法皇国の動向もあまり読むことができない。

イグニスに聞くこともできるが、そもそも法皇国がデア・アーティオのことを異端審問したことがすでに読めないことだそうだ。

豊穣国、獣王国、法皇国。

この三国の背後には確実にアダムが動いている。

なるべく変化は少なめに動きたいのだが。

そんなことを考えているとペトラがうずうずしていた。



「おーーい、プラード。始めたい」

「ああ、そうだな。始めよう」

「わかりました」


いよいよその試しの試合は始まる。

これによって自身の評価は覆るかもしれない。

セーリスクは、無意識に拳に力を入れていた。


「では……二人とも熱くなりすぎるなよ。はじめ!」


プラードにより合図が発せられる。

それにより、セーリスクとペトラ。

この両者はお互い距離をとる。

ペトラは、セーリスクの近接戦を警戒したため。

セーリスクは、ペトラの動きを見るため。

お互いがお互いの思惑を図り動いていた。


しかし状況は即座に動いた。

先に魔法を使ったのはペトラだった。


「フルバトルゴーレム起動!!」


ペトラは再び、自身の魔法道具を起動させゴーレムを動かす。

その動作は、流れるようでありまるで一人の人物がその中に入っているようでもあった。


ゴーレムのその堂々とした立ち振る舞いは、ペトラの技術の高さを表していた。

それは一つの生命であった。


「さあ……実験開始だ」




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