表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
四章 獣王国進撃編
91/231

八話「ペトラの発明」


「話はこれぐらいだろうか。時間はまだある。訓練もしっかりと積んでもらうぞ」

「……はい」

「エリーダが先ほど言っていたことを覚えているか?」

「僕の体は、魔法に耐えることができないと」



そう。

エリーダは、セーリスクの体は自分の魔法に耐えることができないという話をした。

それが今後の自分にどんな影響があるかはわからないが少なくとも獣王国との戦いでは悪影響だろう。

セーリスクは、先ほどの会話の中である二つのことを考えていた。

一つは、単純に戦闘技能の向上。

これは魔法に頼らない戦い方の模索だ。

といっても自分一人では限界があるので、イグニスに鍛えてもらおうと思っていたtころだ。

彼女が首を縦に振らない可能性もあるが、こちらにも引けない事情はある。

なんとか説得して彼女に剣を教わるつもりだった。

二つ目は、魔法の改善。

これ以上、魔法の攻撃力という物を上げたら自分の体には悪影響だ。

それゆえに、なにか魔法を別の方面で表現する必要がある。

まあ、単なる小技の開発だ。

自分の扱う氷の魔法は、確かに破壊力のある魔法だがそれ以外にも方向性はある。

拘束や、相手の移動の阻害に使うのだ。

そういった持ち味を加えてもいいのでは。

そういった考えをセーリスクは持っていた。

その時、ある魔法が頭上に浮かぶ。

それは、ネイキッドの【ギムレス・パシレウス】。

原理は理解できていないが、あれは基本的に攻撃に使うものではないのだろう。

そうなるとあの魔法を生かしているのは、ネイキッドの高度な戦闘技能だろう。

彼と並び打ち倒すには、そういった戦い方を熟知する必要がある。


「そうだ。だがそんな君にひとつ提案がある」

「提案?」




ここまで自分で考えていたのにと少し思ったが、戦闘に関してはプラードの方が熟達している。

なにか得られるものがあるかもしれない。

しかしプラードは、獣人だ。

亜人である自分の戦闘法の魔法について詳しいのか。

そんな疑問点が浮かんだ。


「提案というのはどういったものでしょうか」

「提案という言い方もおかしいか。うちの研究者が一つ試したい魔法道具があるそうだ」

「王宮の研究者といえば……」

「そうだよ。ボクだよー」


その時、部屋に入ってくるものがいた。

その人物は、ボクという一人称を使っており中性的な雰囲気を持っていた。

しかし女性特有のふくらみで、女性であることが確認できた。

しかしその女性に見受けられる所々の傷は痛々しく

眼帯をしていた。

その女性は、挨拶をする。


「初めまして、名前は知っているかもだけど名乗らせてもらう。王宮研究者のペトラだ。よろしく頼むよ」


彼女は、手を差し出してきた。

しかしセーリスクはそれに怯んでしまった。

なぜなら彼女の手が義手だったからだ。

宝石で作られたその義手はどこか人を魅惑する光を保っていた。

どうやらこの腕には、魔力が込められているようだ。


「ああ、すまないね。前の戦いで腕を失ってしまってね」


彼女は、屈託のない笑顔をセーリスクに向けていた。

そこには、自らの体の怪我を一切気にしない様子が映っていた。

セーリスクはそれに戸惑う。



「ごめんなさい……」

「気にすることではないよ、こんなもの見せられても戸惑うだけだろうしね」


しかしセーリスクもペトラの名前を知っていた。

それは、研究者という意味でも魔法の卓越した技術者という意味でもだ。

戦闘面でも、一級品の彼女をここまで傷つけたのは誰だ。

そんな好奇心も少し沸いてしまった。


「体は大丈夫か?」

「ああ、そんなに気にすることでもないよ。ほら今はこうして歩ける」


そうやって、ペトラは片足を上げた。

動きは少しも違和感は感じず、怪我人ということを感じさせなかった。

しかしプラードはそれに納得していないようだった。

心配が顔に移しだされていた。


「まあ、無理はするなよ。アーテもお前のことを大事に思っている。一番悲しむのは彼女だ」

「涙を流すあの人も美しいだろうけど、次にはもっと怒られるだろうなあ」

「そうだ。怒ったアーテは怖いぞ」

「そういうなよ。ボクもあいつには借りを返さないといけないんだ。大事なファンも取られたしね」


どうやら彼女もまた戦いの中で、なにか奪われたものがあるようだ。

セーリスクは、彼女に少し同情の念という物が湧いてしまった。


「いつかその借りが返せるといいですね」

「ああ、有難う。君はこうなるなよ」


君はこうなるなよ。

その言葉によって、視線は義手の方に向いてしまう。

ここまでして、戦うものが彼女にあったのだ。

しかし話の流れからして、それは護れず惨めにも四肢を失ってしまった。

彼女はどんな心境なのだろうか。

セーリスクは、それを聞くことができなかった。



プラードの話により、先ほどの【提案】に会話が移る。


「そういえば、あれはもう完成したのか?」


あれとは何だろうか。

やはり魔法道具のことだろうか。

豊穣国には、魔法道具は栄えているがそれは商人やある程度金銭的に余裕のあるものが所持しているだけだ。

あと十数年もすれは、一般的に普及はするがそれも今からすれば遠い話だ。

セーリスクも、門に装備してある防衛用の魔法道具に触れたことがある程度だった。

あとは公共の入浴施設などだろうか。

あれも、かなり便利だった。

しかしそんな魔法道具が自分の魔法の改善にどう役立つのか全く想像がつかない。

彼女は一体どんな魔法道具を持ってきたのか。


「ああ……原型はある程度できているけど、初めてつくるわけだしねえ。あれこれ悩んで完成させる前に本人に会おうと思って」

「で……感想は?」

「思ったより、弱そうだね」

「ぐ……」


ぐうの音もでない。

イグニスと会う前の自分だったら思いっきり言い返していたところだが、今の自分は自分の今の立ち位置という物をわかっている。

恐らくだがこのペトラという人物もプラードに及ばなくてもそれなりに強い。

そして彼女に自分は勝てない。

流石にネイキッドと彼女が強いかはまだわからないが、接戦になるのは間違いないだろう。

そんな彼女に弱そうだなんて言われたら、何も言うことができないではないか。

しかし次には、予想外な言葉が飛んできた。



「まあ、いい素材にはなりそうだ」

「……ありがとうございます」

「よかったな。彼女がこういうこともそうそうないぞ」

「そうなんですか?」

「そうだよ、自惚れない様ね」


自分で言うのはどうなんだとは思うが、彼女もそれ相応の実力は持っている。

ここは何も言わないでおこう。


「それじゃあ、少し体を見せてくれるかい?」

「……はい?」


体……そういって少し思考が止まってしまう。

いま自分の体は、ネイキッドの攻撃により包帯まみれだ。

どこをみせればよいのだろうか。

そう考えていると、ペトラが声をかけてくる。


「利き手は?」

「右です」

「じゃあ、右腕だけでもいいからみせて」


そういって、ペトラはセーリスクの右腕をつかんだ。

つかんだ後は、じっくりと舐めるようにセーリスクの腕を覗いていた。

普段体験しないような感触で少しくすがったいが、ペトラはいたって真面目な顔をしているここで動じるわけにはいかない。

そうしてしばらくたつと、ペトラの顔は段々と曇っていった。

やはりセーリスクの状態はあまり芳しくないようだ。


「うひゃー。これはひどいね」


ペトラはその酷さに、思いっきり笑っていた。

プラードもその様子を見るのは、そう何度もないようで驚いていた。

プラードはペトラに疑問を投げかける。


「どうなっているんだ?」

「自分の氷魔法で内側から食い破れたみたいになっている。例えるなら、そうだな……ずたずたに切った糸を無理やり捻じって繋ぎとめているような不細工さ。これじゃあまともに戦うことすら難しいね」

「まともに戦うことすらか……」


さきほどもエリーダに言われたお陰で聞きなれてはいるが気持ちの良いものではない。


「改善はできそうか?」

「できそうかじゃないんだよ。できるよ。やってみせる。君の目に間違いはないだろうしね」


ペトラの目はやる気に満ち満ちていた。

どうやら彼女の思考の中にはあきらめという物はないらしい。

そういって、ペトラは懐からメモ帳のようなものを取り出し、次々に何かを書き込んでいく。

アイディア帳のようなものだろうか。

すさまじい速度で、書き出されていくそれはセーリスクには理解不明だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ