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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
四章 獣王国進撃編
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五話「選択する未来」


「まず彼女の正確な年齢を知るものは私含めて誰もいない。彼女はここ数百年で生まれたといっているが豊穣国そのものの土台は千年以上前からあったはずだ」

「数百年……」


亜人の寿命はそれほど長くない。

妖精であれば数百年生きることもあるが、デア・アーティオは亜人のはずだ。

妖精は、人の形をあまりとっていない。

自然と溶け込み、馴染むことでその身を長く保つ。

だが亜人はその行為ができない。

獣人も同様だ。

亜人、獣人の平均寿命は国によって分かれる。

豊穣国で平均70歳ぐらいだろうか。

魔法で対処することのできない病気もあるためそこらへんに落ち着く。


それにプラードは、豊穣国の土台は千年以上前からあるというが

この国の成り立ちが書かれてる本などは、他の国と比べて驚くぐらい少ない。

それは、豊穣国から中立国に変化したときの影響であるとセーリスクは考えていた。

しかし違ったのだ。

この国の女王は明らかにおかしな力を持っている。

それを隠すために国の歴史が提示されていなかったのだ。


そもそも女王が、国民にその姿を現したのはそう何回もあったわけではない。

恐らく女王のことを詳しく知る人物は、国民の中から片手で数えられる程度なのだろう。

いろいろなものが混じり合って、この国の女王デア・アーティオの力は隠されてきた。

セーリスクは、この国の異質さを感じたのだ。


プラードのはなしを聞いてある一つの答えが、セーリスクの頭には思い浮かんだ。

それは獣王がこの国を狙う理由だ。


「つまり、獣王国がこの国を襲う理由は女王様の力?」

「いや、それはない。私の父は、そういったあやふやな情報で敵国をつくるほど愚かではない」


プラードは否定する。

獣王がこの国を狙うのは、決してデア・アーティオの力を狙ってではないと。

大体豊穣国とのか関わりによってある程度の食料の供給があったはずだ。

長期的に見れば、中立国と獣王国の平穏な関係を保っていた方がよかったはずだ。

さらに言えば、プラードとアーティオは婚姻関係にあった。

今このタイミングでなくても大きなメリットは確実に得られた。

多くの者が首をかしげるだろう。


逆に言えば、その女王の秘密以外にこの国を襲う理由があるのではと考えるが獣王国はそもそも戦いで国を大きくしたはずだ。

理由を考えるのも意味はないのかとも思った。

しかしそうなると違和感が再び生まれる。


「今代の獣王様は戦いに積極的ではなかったのでは?」

「確かに獣王国は、戦いで国を大きくした国だ。だが私の父の代では一度もなかった。一度目がこれだ。わざわざ豊穣国に私を送って、十数年も時間をかけたのにこんな雑に豊穣国を攻めるのもおかしい」



つまりプラードも同様に、獣王国の攻め方に違和感を感じているようだった。

同じ獣人、尚且つ親族となれば考え方はある程度読めるものだろう。

しかしプラードは、自身の父である獣王がアダムと手を組んで豊穣国を攻める理由がわからなかった。

想像できる想定できないものが一つある。

それは、【人間】であるアダムの知識だ。

彼は、いまこの世界における知識を超えるものを持っている。

それこそこの世界ではないようなものを。


ネイキッドが放った閃光弾も本来獣王国の技術では再現できないもののはずだ。

ネイキッドがブラフとして、一つの魔法を道具によって再現しているという可能性もある。

だが獣人ばかりしかいない獣王国であそこまでの魔道具の発展ができたのならそれこそ異常だ。

どう考えてもアダムがなにか仕込んだとしか思えない。

しかしセーリスクがどこまでこの戦いに踏み込んでくれるかわからない。

彼にある程度の情報を開示するのはもう少し先だろう。





「つまり獣王が攻める理由は、あなたでもわからないということですね」

「ああ、不甲斐ないがそういうことだ。戦力も足りない。敵の動きも読めない。ここまで後手だと正直苦しい」


今の豊穣国において、重要な位置にたつプラードがここまで言うのだ。

本当に豊穣国は危険な状態にいるのだろう。


しかしセーリスクには、一つの疑問があった。

たとえ、自らにプラードが認めるものがあったとしても判断が早すぎる。

女王の秘密を打ち明けるには、相応ではないと思うのだ。

セーリスクは、その疑問をぶつける。


「なぜ僕に、女王様の秘密を教えてくれたのですか?」

「君の実力を認め、私がそれを欲しいからだ」

「実力を認めてくれるのはありがたいと思います。ですが、それは一度も会ったことのない兵士に求めるものですか?」

「君の言うことは最もだ。状況が違えば、王宮の騎士団にいれ、数年は鍛えてもらう……ことになっただろう」

「……」


セーリスクは思わず無言になってしまった。

この国で起きているのは戦争なのだ。

戦力が育っていない。

人員がいない。

そんなことで止められるものではないのだ。


「この国における戦力が足りない。それもアーテの近くにおけるような実力と信頼を伴った戦力がな」


プラードの基準でいうなら、アダム配下と戦える程度の実力が欲しい。

しかしそんなものは、ここ豊穣国では生まれにくかった。

王宮にいたはずの戦力も前回の戦いで現れた獣のアンデットによってほとんど壊滅状態に追い込まれた。


コ・ゾラ、ネイキッド、シェヘラザード。

この三人と戦ったのは、イグニスと骨折りだ。

かれらは、実力人格共に優れており味方としては心強い。

しかし彼らの素性はどうだ。

一人は、法皇国の天使。

一人は、正体もわからない傭兵だ。

正直、この状況で完璧に信用するにはあまりに疑わしい。

かれらを疑うつもりはないのだ。

しかしこれ以上彼らを頼るのはそれこそこの国の崩壊につながりかねない。


そのうえ、エリーダは医者であり戦場にだすわけにはいかない。

ペトラもアダムとの戦いで体のほとんどを欠損してしまった。

彼女は研究員だ。

そのままの体で、戦場に行かせ死なせたとしたらその研究結果は今後一回も日をみることはないだろう。


そんな時にセーリスクを見つけた。

彼は確かに未熟だ。

だがセーリスクは、ネイキッドにあそこまでくらいついた。

もし彼が、自身の力の性質を理解すれば。

あるいは今以上に実力を磨けば、イグニスと骨折りに一歩通用するかもしれない。


「豊穣国の敗北する時。それは彼女の魔力の大部分がこの国の大地以外に向けられた時。彼女は自身の体の回復に魔力を回すこともできない。彼女はそれを断として断る。しかしもしも、彼女が死ぬようなことがあればこの国は荒んだ荒地となることだろう」


プラードは語るこの国の未来を。

少しでも選択を間違えたときのこの国の未来を。

豊穣国が亡びる世界は駄目だ。

愛する人がいない世界も駄目だ。


どんな手段でも使ってやる。

これはその一つだ。


「君にはこの国に生まれた兵士として……彼女を守る一つの剣となってほしい」


白き虎は、その力強い目で氷の剣士をじっと見つめた。

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