四話「女王の意義」
「入るぞ」
その時、医療室に入るものがいた。
白い毛並みを持った虎の獣人だった。
エリーダは、その人物に対してお辞儀をする。
「プラード様。こんにちは」
どうやらこの人物は、プラードと呼ばれているようだ。
王宮の医者である、エリーダが様をつけるということは地位の高い人物なのだろう。
「ああ、エリーダさん。急に入ってきてすまないな」
その声は、落ち着きながらもどこか品格を持っていた。
やはり格式高い一族の出身なのだろうか。
セーリスクは、その獣人の顔をみて驚いた。
先ず最初に持った感想。
「格が違う」と。
彼には、狂気といったものは一切感じなかった。
しかし気配の質が違いすぎる。
今の自分が何人もいて、束でかかったとしても数分はもつことができないような格の違いを感じた。
この人物は、イグニスと同じ人種だ。
壁の向こう側。
そんな強さを感じた。
その時ある言葉を思い出した。
カウェアの言葉。
この国には、獣王の息子がいると。
セーリスクは、その顔を見たことがなかったが一瞬で分かった。
このプラードと呼ばれた人物が獣王の息子であると。
その事実に気付いたとき、声が出なかった。
なぜこの人物が自分とエリーダしかいないこの部屋を訪ねているのだろうか。
プラードは、セーリスクのその驚いた顔をみてくすりと笑う。
「そう驚くな。別に君のことを取って食おうというわけでもない」
プラードは、エリーダの方を向き真剣な声を向ける。
「彼にあの話はしたのか?」
「いえ、まだ。とりあえず身体の状態については説明をしておきました」
「そうか。そこまで説明しているのなら大丈夫だ」
説明というのは、先ほどの魔法の耐性についてだろう。
しかしその他になにを話すつもりなのだろうか。
ネイキッドの情報だろうか。
プラードは、大きく深呼吸をして息を整えた。
そうして話し始めた。
「数日前に合った戦い。君の行動は大いに役にたった」
「はい……」
そんな活躍もしていない気もするが、ここで獣王国の王子の言葉を否定するわけにもいかない。
それに数日間もたっていたのか、長くもないが決して短くもない。
気絶としては、長い間気を失っていたようだ。
「あなたを助けたのがこの方ですよ」
エリーダは、セーリスクに助けてくれたのはだれかということを教えた。
その時、セーリスクの胸には驚きと感謝の念が沸き上がってきた。
「助かりました。今命があるのはあなたのお陰です」
セーリスクは、ベットに体を起こしながらであるが頭を下げた。
しかしそんなセーリスクに対してプラードは申し訳なさそうだ。
「どうしました」
何やら彼には、セーリスクに伝えたいことがあるようだった。
「君には、申し訳ないが敵の亜人は逃がしてしまった」
プラードは、そういって頭を深々下げる。
どうやら、ネイキッドは自分にとどめを刺すこともできずプラードから逃げたようだ。
しかしそれもそうだろう。
彼の体は、自身の氷の魔法によって動きずらそうだった。
一瞬とは言えど、精神的な疲労も相当のはずだ。
傷を与えることはなくとも、精神肉体に大きな負担を与えたはずだ。
そのあとに、プラードとの対決になったら彼は全力で逃げるはず。
少なくとも真っ向から挑むことを好むタイプではなさそうだとセーリスクは推測する。
それにあの姿を消す魔法を使われたら追跡も困難だろう。
セーリスクは、頭を下げる行動をやめさせようとした。
「そんな、頭を下げないで下さい」
確かにネイキッドと呼ばれる男を逃がしてしまったのは残念だが、
あそこで倒すことのできなかった自分が一番悪い。
そもそも死にかけていたのだ。
援けてもらった恩人に文句をつけることがあるなんてそれこそ恥だ。
「そろそろ本題に入っては?」
「そうだな」
エリーダも、これ以上本題とはずれ続けるのは好ましくないようだ。
プラードはその場にある椅子を借り、
その場に座りセーリスクに語る。
「これはこれから話す話のなかで重要なことだ。それを念頭において聞いてほしい」
その顔は、真剣そのもので重要な雰囲気が伝わってきた。
ともかくこれほどの強者がセーリスクに真面目に向かい
語りかけるのだ。
セーリスクに無視する理由などはなかった。
「ではまず君は、豊穣国の女王デア・アーティオがなぜ存在しているのか。その理由を知っているかい?」
セーリスクはその質問の意図がわからなかった。
存在する理由?
それは哲学的な意味だろうか。
それとも王として、女王としての存在する意味だろうか。
それがわからなかった。
セーリスクは思考する。
「国民を守ること。同時に、この豊かな大地を守ることでしょうか」
「…‥‥半分当たっているかな」
「半分……?」
半分あたっているとはどういうことだろうか。
「彼女が存在する理由。それは、この国に恵みを与えることだ。それは敵国から。戦争から守ることという意味ではない」
この国に恵みを与えること。
どうにも具体的ではない。
「この国に恵みを与えるとは?それはどの国も同じことではないのですか?」
「彼女は少し特殊なんだ。【神血】と呼ばれる理由もそこにある。この豊穣国の豊かな大地は彼女の魔法によってできているんだ」
「……は?」
セーリスクは、少し意味が理解できなかった。
セーリスクが先ほど説明されたように魔法には、
魔力とそれに耐えきれるからだが必要だ。
もしこの国の作物、土壌にすべて魔法がかかっているとすれば
彼女は亜人なんてものを超えている。
むしろ神の領域だ。
「驚く気持ちはわかる。しかしこの土地はそもそも荒れ果てていたんだ」
「国一つが賄える魔法って……」
「まずこの情報は、他国には絶対漏れてはいけないものだ。わかるね。今君にこれを教えているのは君がこの国の生まれで君の戦力を私が欲しいからだ」




