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ヒューマンヘイトワンダーランド  作者: L
四章 獣王国進撃編
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三話「阻害するもの」


「あなたの体に説明する前に、魔力とはどういうものか説明しましょう」

「わかりました」


どうやら、魔力の説明をしてくれるようだ。

医者の話であるし、なにより自身に関わることだ。

遠回りに思えてもしっかり聞かなくては。


「人体というものには、魔力があります。それには亜人も獣人も変わりません」


獣人には、魔力がある。

その情報をセーリスクは初めて知った。

自身が勉学に励む経験が少なかったからというわけでもないだろう。


「……?じゃあなぜ獣人は魔法がつかえないのですか?」


それは当然の疑問だった。

亜人と獣人。

両方に魔力があるのならば、なぜ獣人は魔法が使えないのか。


「それは、獣人は獣の体を保つために魔力を使うからです。慢性的な魔力不足でそう感じるだけですね。そもそも獣人は魔法を発動させるために必要な器官をもっていない」

「初めて知りました」

「知る必要もないですからね。それに知ってたとしても結論は変わりません。亜人は獣の力を使えず。獣人は魔法を使えない。そもそもこの説は獣人側が完全否定していますし」



どうやら、亜人の魔法と獣人の獣の因子。

この二つ、それぞれには深い因縁があるようだった。

まあ、獣人だけの国。

獣王国がある時点でそれははっきりしてたのだが。

しかし種族としてここまで差があるとは思っていなかった。

知識として広まっていないのもあるのだろう。

これは亜人と獣人の距離が近い豊穣国ならではの思考なのだろうか。


「じゃあ逆に亜人が獣人のように獣の特性を出すことは?」

「それもありません。亜人は獣人とはちがい、五感や牙、尻尾などが退化している。獣人のように獣の因子に魔力を回すことができないのです」



なるほどとセーリスクは納得した。

亜人と、獣人そのような違いがあったのだと。

しかしひとつ疑問におもうことがあった。


「獣人と亜人の子が亜人獣人でそれぞれはっきり分かれる理由は?」


それは獣人と亜人の結婚だ。

この国では、種族による結婚の隔たりがないため獣人と亜人の結婚が許されている。

しかし先ほどの説明では、獣人と亜人の違いは体のつくりによるように考えられる。

そうなると、親がそれぞれ違う種族だとどうなるのだろうか。

セーリスクの知っている範囲だと、親の種族が違くて困ったことがあっただなんて聞いたことがないように思えた。


「それは神にしかわからないことですね。ただはっきり言えるのは出る性質があるのであれば、出ない性質もあるということです。たとえ亜人と獣人の子でも亜人として生まれた子は亜人として成長し、獣人として生まれれば獣人として育つ」


どうやら明確な答えは、エリーダでも知りえない様子だ。

エリーダのような人物が知らないのであれば、まともに知っている人物などいないだろう。


なるほどとセーリスクは考えた。

確かに自身は、亜人と獣人が混ざった人物など見たことがない。

だがなぜだろう。

違和感としてひとりちらつく。

最近であった人物にそういう気配とは別のものをもっていた人物を。

答えがのどまで出てくるが、吐ききれない。


エリーダは、それに勘づいたのかわからないがセーリスクにある存在のことを説明する。


「……確かにこの世には【半獣】と呼ばれる存在もいます」

「【半獣】?」

「ええ。要は獣人と亜人の混ざりもの。まあ、ほとんど生まれてくることがなく文献としてしか残っていない記録です」

「その【半獣】は、亜人と獣人の力両方とも使えるのですか?」

「いいえ、使えません。むしろそのほとんどが魔法も使えず、獣の力も使うことができません」

「……」

「そのうえ、大人まで成長したときが悲惨なんですよ」

「どうなるんですか?」

「魔法も、獣の力も使うことができないからだのなかで魔力が暴発して精神が狂います。【半獣】の未来には廃人しかない」



なんとも言い難い未来だ。

セーリスクはその未来というものに言葉が出なかった。

少なくとも今の世ではいないようで安心した。

自分の体もそこまで重いのだろうか?

いや、コ・ゾラとネイキッドとの戦いではそこまでの違和感は生じなかった。

ひとつあるすれば。

そんな思考が、頭に浮かんだ。


「大丈夫ですよ。貴方の体はそこまでじゃない。兵士としては雲行きが怪しいですがね」

「はっきり言ってください」


ここまで説明されて、わからないわけがない。

自分の体は、魔法について何かしらの欠点を持っているのだ。

その欠陥がどこまで自分に影響をもたらすのか。


「先ほども述べましたがあなたの体は、自身の魔法についていけてないのです。貴方が全力をだして魔法を使う時あなたは死ぬでしょう」

「……!」


その説明によって、セーリスクの頭の中の点と点がつながった。

自分は、全力が出せない。

それは、魔法において。

なぜか、イグニスの魔法が頭に浮かんだ。

そのあとに、ネイキッドの魔法が浮かんだ。


「あなたの魔法は、氷の魔法でしたね?」

「はい」

「その影響のせいか、あなたにはいくつか凍傷が見られました」


てっきり今自身が、このベットの上に寝ているのはネイキッドによる攻撃だけかと思っていた。

しかしそれは違った。

自身は、ネイキッドの攻撃に耐えていたのだ。

最後のとどめとなったのは、自身の魔法。

自分の体によってダメージを負っていたのだ。

確かに、自身の体の中に感覚が不明瞭な箇所がいくつかある。

それは自身の魔法の反動によるものなのか。



「確かに、自身の魔法で傷がつくことはあります。しかしそれは幼少期や、魔法の制御が極端に下手なものです」


確かに、そういった話を聞いたことがある。

そうセーリスクは感じた。

しかしそれはエリーダが述べるように幼少期だ。

セーリスクは現在十八に近い。

この年齢で魔法の制御ができないものなどほとんどいない。


「あなたは、それとは別ですね。魔法の制御もしっかりできている。しかし魔法の最大火力を出そうとすると本体が堪え切れない」


本体が耐えきれない。

本来、魔法を使うことを種族の長所とする亜人からは聞くことのできない言葉だ。

少しでも、イグニスに近づくことができたと思ったのに。

自分はもう一歩の近づくことができないのか。

体の奥から冷気が走った気がした。


「……日常生活に支障は?」

「今はありません。ですが、またおなじような戦い方をすれば悪化は確実。よくて各部位の壊死ですね」


セーリスクは、自身の手を見つめる。

思えば、コ・ゾラも自身の攻撃を喰らって手をぶら下げていた。

氷の魔法というのは、それまでに人体に多大な被害を及ぼすのだ。

それが敵ならば、深く考えることもないだろう。

しかし一回一回それが自身に跳ね返ってくるとすれば。

それに対して恐怖していたら

自身は一生魔法を使うことができないだろう。


「戦闘技術は優れていると聞きました。しかしそれとは別です。私は、あなたがこの戦いで生き残れるとは一切思っていない」


エリーダは、静かに淡々と現実を告げる。

しかしその目は確実にセーリスクのことを睨んでいた。


「私は、自ら死にいくものを止めないほど老いてはいないのですよ」




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