三十八話「多眼竜討伐③」
骨折りは、彼女にその土の槍が届くことを予期した。
全力で援護に向かう。
しかしミカエルは、自身の魔法の発動に集中しているのか。
その位置を保っていた。
「ちっ……!」
決定打を持つ彼女が邪魔されるわけにはいかない。
骨折りは、地面を踏み跳躍する。
ミカエルに向けられていたその土の槍を自らの剣の強烈な一打で粉砕した。
しかし骨折りは、ミカエルのように羽根を持たない。
宙に跳躍したままの骨折りに、多眼の竜は風の魔法を放った。
それは、暴風と呼ぶに相応しい強烈な魔法だった。
宙に存在する骨折りは、回避行動をとれない。
当然、多眼の竜もそれを狙っていたのだろう。
しかし骨折りの傍には彼がいる。
亜人の天敵である獣の王子が。
プラードは咆哮を放つ。
それは、多眼の竜の魔法を打ち消すためであった。
その風の魔法は、プラードの【王者の咆哮】によってかき消される。
骨折りは、魔法を喰らうことなく地面に着地した。
しかしプラードはそんな骨折りに違和感を感じたようだ。
「骨折り。お前らしくもないな」
「お前がいることがわかっていたからだよ。そうでもなきゃあんなことしない」
戦況を客観的にみて、一手二手それ以上先の現実をみることのできる歴戦の猛者はこの世界には多い。
骨折りもそれに該当する。
プラードは、そんな骨折りだからこそその手を使うとは思っていなかった。
確かに、骨折り自身がそこに飛び込めば確実に彼女の攻撃は防げる。
しかしそのあとの攻撃の危険はすべて骨折りに向けられることとなる。
リスクとリターンを考える骨折りだとそのような手は使わないと感じていたのだ。
それにまさか、骨折りが自身の力を信頼しているとは思っていなかった。
「勘定に私を入れるくらいには信頼されているのだな」
「信頼はしていないが、信用はしている。この国がなくなって困るのは俺も同じだよ」
「なるほど。その信用に答えれるようにも頑張らなくてはな」
しかしプラードの攻撃は、拳による打撃が主だ。
腐食が進んでいる多眼の竜に関しては、通じない可能性の方が高い。
やはり、魔法が使える骨折りか、ミカエル。
今現状で魔法の準備をしているミカエルに期待するしかないだろう。
「どうするか……」
「時間稼ぎだけでも一苦労だな」
「人類最強がそれでどうする」
「このお嬢様が無防備すぎるのが悪いんだよ」
事実彼女は、異常ともいえるほど無防備だった。
しかしそれは、それほど魔法の発動に集中しているともいえた。
【天使】の一角である、彼女の渾身の魔法だ。
アンデットと化した多眼の竜には、絶大な効果を発するだろう。
「現在頼りにできるのは、彼女だけだ。そう言うな」
そんな会話の中、骨折りは殺気を感知した。
それは、アンデットである多眼の竜から出された攻撃の意思だ。
「……来るぞ」
多眼の竜は、大地を踏みしめる。
その瞬間衝撃で大地が隆起し、暴風が吹き荒れた。
骨折りは、脳内でそれに対する対処を思考する。
「プラード!これを凌いでくれ!その直後に反撃をする」
「わかった」
骨折りは、プラードの背後にまわった。
現状、多眼の竜の攻撃に耐えるためにはこれが最善だと考えた。
獣人である彼ならば、たとえまともに喰らっても回復することだってできる。
骨折りは、そう考えプラードに耐えてもらうことを選んだ。
プラードも、有効打を持っていない自分がタンクとなることがよいと考える。
その魔法の攻撃は、先ほどよりもはるかに早かった。
これでは【王者の咆哮】により打ち消すこともできない。
プラードは、真正面から受けることを選んだ。
まず最初に暴風が飛び込んできた。
刃となった風は、プラードの毛を、皮膚を容易に切り裂いた。
それは、刃物の中に飛び込んでいるような感覚だった。
しかし痛みに耐え、プラードはそのまま耐える。
目を切られないためにも、目を浅めに瞑る。
次の瞬間巨大な岩石となった砲弾がプラードにぶつかろうとしていた。
物体である岩石ならば、拳で砕ける。
プラードは、腰を深く構え右腕に渾身の力を籠める。
それは名前もないひとつの構えだった。
効率的に、しかし美しく。
そのようにぶつけられた拳は、岩石を砕いた。
「耐えたぞ。骨折り!」
砕け散った岩石が、プラードの顔面をかする。
かすった体表からは、血が噴き出した。
やはり、粉砕された岩石とは言えど多眼の竜の魔法だ。
強力な力を持っていることは違いなかった。
魔法を凌ぎ切ったプラードは骨折りに声をかける。
骨折りもまたそれに反応する。
魔法による詠唱は準備できていた。
「プラード!横に躱せ!」
プラードは横に移動する。
魔法の攻撃を受けたことによる痛みは感じていたが、動かないと骨折りの邪魔になってしまう。
骨折りは、自身の手を多眼の竜に向ける。
魔法の標準を多眼に向け、全力の魔力を籠める。
それはアダムにも向けた全力の詠唱。
火が、熱気が骨折りを包み、その場の気温が上昇する。
多眼の竜は、移動速度がそれほど早くはなかった。
骨折りの魔法を受けることしかできない。
骨折りの手から魔法が放たれた。
「灰燼に帰せ。命を晒せ。炎よ、全てを破壊せよ。【ぺルド・フランマ】」
その魔法は、多眼の竜に直撃する。
多眼の竜の眼球は蒸発し、いくつかは破裂する。
赤い液体が蒸発する音が聞こえる。
多眼の竜は、喘鳴を発する。
それは、全身を焼かれる痛みに悶えているようでもあった。
その声の大きさに、骨折りとプラードは耳を抑える。
常人が聞いてしまったら気がくるってしまいそうな。
そんな狂気の悲鳴だった。
意思のないアンデットが恐怖や痛みを感じることがないのは知っている。
しかしそんなものを感じてしまうほどに目の前の光景はくるっていた。
そんなものを見ながら、二人はあるものを感じる。
それは、ミカエルの魔力の高まりだった。
「おいしいところだけ持っていきやがって」
ミカエルの魔法は、焔だった。
一つ一つの焔が形成され、一つ一つの槍となる。
その槍は、循環しミカエルの背後に回った。
「全てに照らし、闇に燃えろ。すべてを燃やし、闇を照らせ。この名は永久に継がれるもの。【テネブライ・ウーロ】」
焔の槍は、マシンガンのように装填され発射されていく。
一つひとつの槍が、多眼の竜に突き刺さりその皮膚を燃やしていく。
ひとつ、二つ、みっつ。
数が増えていくごとに、多眼の竜に無傷な箇所など無くなっていた。
彼女の魔法の槍が、最後に放たれた時多眼の竜は、大きな音を立てて地面に倒れていった。




